わがまま夫人は娘を想う
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それからはあっという間に時間が経った。
オルガはヴィヴェカの側にずっと付き、ヴィヴェカの断捨離の手伝いをしてくれた。
どうやら彼女としても、今のヴィヴェカの状態は好ましいものらしい。嫌な顔は一つもしない。
いや、彼女は出来た侍女なので、今までもヴィヴェカに対して嫌な顔を見せたことはないのだが。……まぁ、裏では相当嫌っていたようだが。
「奥様。そろそろ、夕食の時間でございます」
そして、日が暮れ始めた頃。オルガが時計を見て、そう言ってくる。
そのため、ヴィヴェカはハッとした。確かに時計の針はこのヘルベルガー侯爵家の夕食の時間を表している。
「そう。わかったわ」
だからこそ、ヴィヴェカは立ち上がりドレスについた埃をはたく。
クローゼットの中はきれいに保たれていたとはいえ、やはり多少の埃は出てきてしまう。それを、ヴィヴェカはよく知っていた。
(せっかく旦那様と共に食事を出来るのだもの。……少しでもきれいにしておきたいわ)
それは、間違いないヴィヴェカの本音。
折角リステアードと共に食事が出来るのだから、少しでも美しく見せるのは当然だと思う。今までのヴィヴェカはリステアードを嫌っていたが、今のヴィヴェカはそうじゃない。彼を孤独にせず、闇落ちさせないのが今のヴィヴェカの役割なのだ。
そう思いつつ、ヴィヴェカは部屋を出て行った。後ろではぴったりとオルガが張り付いている。
この行為に不満は抱いていない。実際、前世を思い出す前もオルガはヴィヴェカに度々張り付いていた。
それに関しては、大方ヴィヴェカが何か癇癪を起こさないように見張っていたのだろう。今もきっと、その癖が抜けていないだけだ。
「ところで、オルガ」
食堂まであと少しというところで、ヴィヴェカはオルガに視線を向ける。彼女は、きょとんとしていた。
「アイシャのこと、なのだけれど……」
眉を下げてそういうと、オルガがヴィヴェカの目を見つめてくる。……これは、話せということだろう。そう、察する。
「アイシャも、共に食事を摂ることは出来ないかしら?」
「……え」
しかし、オルガにとってその言葉は予想外だったらしい。目をぱちぱちと瞬かせている。
(そりゃあ、アイシャは今まで平民だもの。マナーもなにもないものね)
貴族の食事とは、マナーを見られる場でもある。たとえそれが家族の中だったとしても、だ。
でも、ヴィヴェカは思うのだ。……アイシャとて今後貴族になるのだから、少しずつでも貴族の食事に慣れておいた方がいいと。
「ですが、アイシャ様はマナーも何もありませんわ」
ゆるゆると首を横に振りながら、オルガがそう伝えてくる。それに関しては、予想済みだ。
「そうね。けれど、実際に食事をした方がマナーを覚えるのも早くならないかしら?」
「……それは、そうかもしれませんが」
オルガの不安も、わからなくはない。今までアイシャの面倒を見てきたのは、主にオルガだろう。妹のように、娘のように可愛がっていたアイシャがいきなり試練に放り込まれそうになっている。
易々とは見逃せない。
「それに、旦那様はきっとアイシャが粗相をしても何もおっしゃらないわ。……旦那様は、お優しいもの」
胸に手を当てて、ヴィヴェカはそう告げる。……自分も何も言うつもりはない。しかし、今言ったところでそれは信じてもらえない。だって、今までの行いが最悪なのだから。
(だから、行動で示さなくちゃ)
もちろん、ある程度の注意はするだろう。けど、それまでだ。口うるさく言うつもりはないし、それは家庭教師の仕事だと思う。相手は教育のプロなのだ。ヴィヴェカが何かを言うよりは、アイシャだって納得できるはず。
「……そうで、ございますね」
どうやら、ヴィヴェカのこの言葉でオルガは折れてくれたらしい。が、その目は相変わらず不安そうに揺れている。
だからこそ、ヴィヴェカは笑った。
「このことに関しては、私が旦那様に直接お伝えするわ。……任せて頂戴」
こういうことをオルガから伝えさせるのは、少々悪いだろう。そう思うからこそ、ヴィヴェカはそういう。
だが、オルガは微妙そうな表情を浮かべていた。
「お言葉ですが、奥様は頼りになりませんわ」
「……まぁ」
「ですが、そこまでおっしゃるのでしたら……お任せいたします」
さりげなくオルガが毒を吐いたことに、ヴィヴェカは気が付いていた。
でも、それに関しては何も言わない。ここで彼女を責め立てれば、元のヴィヴェカに戻ってしまうような気がしたのだ。
そんなことを思っていると、目の前に大きな扉が見えた。……ここが、ヘルベルガー侯爵家の屋敷にある食堂だ。
(……行くわよ)
ここが、いわば第一の戦場だ。
心の中でそう思いつつ、ヴィヴェカはオルガに扉を開けてもらい、一歩を踏み出した。
どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!




