わがまま夫人は正式な母になる
本日は1話のみの更新になりそうです……(´・ω・`)
(えぇっと、それすなわち、ヴィヴェカのことを心配してくれていたということ……?)
心の中で言葉にすると、そのありがたさがしみじみと伝わってくる。
ヴィヴェカは使用人からも嫌われていた。夫であるリステアードも、大々的に心配はしてくれなかった。
だからこそ、そういう風に純粋に心配してくれる人を大切にしなければならない。それくらい、ヴィヴェカの残念な頭でもわかる。
「……そう」
ヴィヴェカはそう言って立ち上がった。
そして、アイシャの前でしゃがみこむ。今までのヴィヴェカではありえない行動だからだろう。オルガが慌てたような表情を見せる。
「……アイシャ、と言ったわね」
「はい」
アイシャはしっかりとヴィヴェカの目を見つめていた。
社交界では触らぬ神に祟りなしとばかりに、ヴィヴェカと目を合わせる者はいなかった。
そのため、彼女の根性は確かなものだ。そう思ったら、ヴィヴェカの口角が上がる。
「オルガ」
立ち上がり、オルガを呼ぶ。そうすれば、彼女はハッとしてヴィヴェカを見つめてきた。
今までならば考えられないほど、人と目を合わせて話しているな。
そんな自虐的なことを思い浮かべつつ、ヴィヴェカははっきりと言葉を紡ぐ。
「アイシャを、私と旦那様の養女として正式に迎えます」
ヴィヴェカのその宣言に驚いたのは、オルガだけではなかった。目の前にいるアイシャもぽかんとした表情を浮かべている。
口を開けた表情は、可愛らしい容姿も合わさって間抜けにも見えてしまう。彼女の金色の目は、ぱちぱちと瞬いていた。
「ちょ、奥様っ……!」
オルガが慌てふためく。そりゃそうだろう。アイシャは今まで平民として暮らしてきたのだ。そんな中、いきなりヘルベルガー侯爵家の一員として正式に迎える。それが表す意味が分からないオルガではない。
「アイシャは優秀な子なのでしょう? 旦那様が引き取るということは、そういうことでもあるはずだわ」
はっきりとそう告げれば、オルガはそっと視線を逸らした。……図星ということなのだろう。
なので、ヴィヴェカはアイシャの金色の目をまっすぐに見つめる。
「アイシャ。今後、あなたにはヘルベルガー侯爵令嬢として生きてもらいます」
「……は、ぃ」
アイシャの声が、小さい。当たり前だ。いきなり貴族の仲間入りをしようとしているのだから。
もう少し年齢を重ねれば、それのありがたさがよく分かるだろう。でも、まだまだアイシャは幼い。仕方のないことだ。
「まずは立ち振る舞い。次にマナー。貴族としての生きる術を、しっかりと身に付けなさい」
ヴィヴェカが言えたことではないと、自分でもわかる。
だけど、こういう生きる術は幼いころから叩き込んだ方がいい。ヴィヴェカだって、アイシャくらいの年齢のときにはマナー講師が付いていたのだから。
「……奥さま」
アイシャがぼんやりとヴィヴェカのことを呼ぶ。
そういえば、その呼び方は少し問題があるかもしれない。養女に奥さまなどと呼ばせていれば、虐げていると思われても仕方がないのだ。
「……アイシャ。私のことは、母親だと思って頂戴」
「……え」
「もちろん、あなたの生母のような母親になれるとは思っていないわ。私のことは、どうか育ての母……いえ、せめて姉だと思って」
ヴィヴェカはまだまだ若い。アイシャの実母がどれくらいの年齢だったのかはわからないが、間違いなくヴィヴェカよりの方が若い。
ならば、自分のことはせめて姉だと思ってほしい。それが、ヴィヴェカの願いだった。
「……お、かあ、さま?」
戸惑ったように、アイシャがヴィヴェカのことを呼ぶ。その声は露骨に震えており、いろいろと戸惑っているのだろう。
それがわかるからこそ――ヴィヴェカは、優しくアイシャの身体を抱きしめる。
「今後、あなたはきっとたくさん大変な目に遭うわ。……だけど、私は、あなたの味方になりたいの」
今までの行いからして、信じてもらえないのは重々承知の上だ。
けれど、アイシャを放っておくことなんて出来なかった。
オルガもそれを悟ったのだろう。なにか口出ししてくることはない。
「……は、ぃ」
アイシャの声は、震えているし小さい。
その声を少し愛おしく思いながら、ヴィヴェカはアイシャの背中を撫でる。
「……どうか、挽回するチャンスを私に頂戴ね」
小さくそう呟くと、アイシャはきょとんとしているようだった。
それはまぁ、当たり前だろう。
心の中でそう思いつつ、ヴィヴェカはアイシャを抱きしめていた。彼女の戸惑いが消えるまで、ずっと。
引き続きよろしくお願いいたします……!




