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闇落ち予定の夫の困惑(リステアード視点)

 ◇


 リステアード・ヘルベルガーは孤独な生い立ちだ。


 国でも名門に名を連ねるヘルベルガー侯爵家に生まれたものの、両親はリステアードに関わろうとはしなかった。


 いや、父はリステアードを立派な跡取りに育てようとしていたのだろう。だが、結局はそれまで。愛情を与えてくれることはなかった。


 父も母も、他所に愛人を作っており、そちらにばかり構う。だからこそ、リステアードは人一倍愛情を求めていた。


 なのに、誰も愛してくれなかった。それは結婚してからも同じであり、妻であるヴィヴェカはリステアードを嫌う。こちらがいくら愛していたとしても、その愛など所詮一方通行でしかなかった。


 そのため、リステアードはあきらめた。愛されることも、ヴィヴェカと心を通じ合わせようとすることも。


 ただ、ヴィヴェカの望む通りに贅沢をさせ、自分との離縁など考えさせないようにとしていただけだ。


 あんな贅沢で性悪な女性だったとしても――ヴィヴェカは、リステアードにとって大切なたった一人の妻だったのだから。


(……しかし、あれは一体どういうことだ……?)


 ヴィヴェカと別れて執務室にこもったリステアードは心の中でそう呟く。


 つい先日、ヴィヴェカが階段から転落した。強く頭を打ったこともあり、侍医に来てもらったことも記憶に新しい。


 幸いにも命に別状はなく、時間が経てば目覚めるだろうという診断だった。


 ……けれど、目覚めたヴィヴェカは何処となく様子がおかしかった。


 が、それは気のせいだ。そう思っていたのに――どうやら、あのときのリステアードの勘は正しいものだったらしく。


 ――ヴィヴェカは、まるで別人のようになっていた。


(そもそも、ドレスを売り払うなど今までのヴィヴェカならば考えようのないことだぞ……?)


 ヴィヴェカは贅沢好きであり、かつその贅を人に分け与えるという考えのない人間だった。でも、今日のヴィヴェカはドレスを売り払うつうもりのようだった。ついでにいえば、侍女頭のオルガがそう言っているのだ。間違いないと言える。


(……このままだと、また期待してしまうじゃないか)


 もしかしたら、今のヴィヴェカならば――自分の孤独を癒してくれるのではないかと。


 期待して、裏切られるのはもうこりごりなのに。そう思うのに――ヴィヴェカに期待してしまいそうになる。


 こちらに背中を向け続け、触れることさえ嫌がったかつての妻。侍女頭であるオルガや、執事、挙句の果てにはリステアードの親族たちも一様にヴィヴェカを嫌った。


 『一体いつ離縁するんだ』『まさか、あの妻が好きなのか?』『わたくしの方が、リステアード様に相応しいですわ』


 そんな言葉は山のように聞いた。そのたびにリステアードはヴィヴェカを愛していると語った。……まぁ、なかなか信じてもらえなかったのだが。


 そりゃそうだ。ヴィヴェカのいいところなど――その極上の容姿しかなかったのだから。


「……だが、今のヴィヴェカは違う。手を離してしまえば、何処かに攫われてしまいそうな、雰囲気なんだ」


 ボソッとそう言葉を零し、羽ペンを執務机の上に置く。


 リステアードは度々ヴィヴェカの父と連絡を取っていた。ヴィヴェカの父、キーゼル伯爵は人のいい男性だ。それに、彼の息子もとても人が良く、おっとりとした性格の人物である。


 ただ、問題があるとすれば……彼らはヴィヴェカを甘やかしすぎるということだろうか。


 執務机の上に載っている便せんの宛先は、そのキーゼル伯爵だ。彼にはヴィヴェカが階段から転落したという報告をしていた。なので、今から無事目覚めたという手紙を送るつもりだったのだ。


 目を瞑れば、キーゼル伯爵の困ったような笑みが瞼の裏に浮かぶ。


 彼は、リステアードがヴィヴェカを妻にもらいたいと言った際に、少し困ったように笑ったのだ。


 『言っては何ですが、ヴィヴェカは大層わがままです。そんな娘でも、よろしいのでしょうか?』


 確かに、当時からヴィヴェカの評判は大層悪かった。そのためか、キーゼル伯爵はリステアードほどの人間がヴィヴェカを妻にしたいと申し出てきたことに疑問を抱いたのだ。


 かといって、断るという考えは彼にはなかっただろう。


 何故ならば――そのときのキーゼル伯爵家は持っている事業の業績が悪化しており、多額の借金を抱えていたためだ。


 ヴィヴェカに嫁に出てもらって、リステアードから援助を受けるのが最善だと思っていたのだろう。


 そんな裏の話がありつつも、ヴィヴェカはヘルベルガー侯爵家に嫁いできた。それ以降は……ヴィヴェカの知っている通りだ。


「俺は、ヴィヴェカを愛しているんだ」


 便せんのインクを乾かしつつ、リステアードはそうぼやく。


 たとえヴィヴェカがあのままだったとしても、リステアードの頭に離縁の文字はなかった。


 でも、今はそのとき以上に――ヴィヴェカを、手放したくないと思ってしまう。


「本当に、年甲斐もなく恋をすると、こんな風になるんだな」


 そんな言葉を呟いて、リステアードは真っ白な封筒を手に取った。

次回から第2章です(n*´ω`*n)


どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!

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