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わがまま夫人が変わるとき

短編として書こうとしていたお話が、これっぽっちも短編にならなかったので長編として連載していきます(´・ω・`)


どうぞ、よろしくお願いいたします……!

「本当に使えないわね、お前たち!」


 とある大きな屋敷で、女性の甲高い怒声が響き渡った。


 目の前には怯えきった使用人の女性たちがおり、彼女たちは女性を余計に刺激しないようにと俯いている。


「この私を誰だと思っているの? このヘルベルガー侯爵家の夫人だと、何度言ったらわかるのかしら!?」


 女性――ヴィヴェカ・ヘルベルガーはそう言って、扇をぱちんと音を立てて閉じた。


 ヴィヴェカ・ヘルベルガーはこのミネテ王国の名門貴族、ヘルベルガー侯爵家の夫人である。年齢は二十三歳であり、二年ほど前にこの家に嫁いできた。


 しかし、彼女は大層わがままな娘だった。


 幼少期から蝶よ花よと育てられ、父や年の離れた兄に溺愛されてきた。


 だからだろうか、我慢が出来ず、すぐに癇癪を起こす女性に育ってしまったのだ。


「本当に、旦那様もこんな侍女たち、さっさと解雇してしまえばいいのに……」


 爪を噛みながら、ヴィヴェカはそう呟いた。


 ヴィヴェカの夫であり、このヘルベルガー侯爵家の当主、リステアードは齢三十の男性である。


 かなり強面であり、女性や子供から怯えられることは日常的。口数もあまり多くなく、にこりとも笑わない。ヴィヴェカは常々彼の表情筋は死んでいるのではないかと、思っている。


 ちなみに、ヴィヴェカはリステアードのことが嫌いだった。


 というのも、ヴィヴェカは七つも年上の彼との結婚が不満だったのだ。けれど、父に泣きつかれどうしてもと言われ、嫁いできた。


 リステアードもヴィヴェカのわがままを許容してくれるので、その点ではこの家に嫁いでよかったと思えるのかもしれない。


 だが、やはり無口で無表情。気の利かないリステアードとの結婚生活は、ストレスが溜まるばかりで。


(……本当に、気に食わない)


 その所為で、ヴィヴェカは結婚して二年、ずっと使用人たちに当たり散らしてきた。


 そのため、使用人たちは毎日のようにヴィヴェカの機嫌を窺うのだ。もちろん、その生活に不満があるわけじゃない。だって、ヴィヴェカにとって一番大切なのは自分自身であり、自分が世界の中心だからだ。


(それに、最近親族たちから跡継ぎはまだかと急かされているし……。私たちが白い結婚だということは、黙っておけと旦那様には言われるし……)


 閉じた扇を力いっぱい握りしめながら、ヴィヴェカは心の中でそう呟く。


 最近、ヘルベルガー侯爵家の親族たちが跡継ぎはまだかと急かしてくるのだ。けれど、ヴィヴェカからすれば跡継ぎなど出来るわけがない。


 なんといっても、二人は結婚して二年、白い結婚を貫いているのだから。


(あぁ、本当に嫌だわ。こんな家に嫁いできたのが、間違いだった)


 贅沢三昧で、威張り散らすこともできる。そこは確かにいいことなのだろう。


 でも、ヴィヴェカは孤独だった。使用人たちはヴィヴェカに怯え、夫は相手をしてくれない。こちらも嫌っているので、それに関しては清々しているということは出来る。


 なのに、心はちっとも満たされない。使用人をいたぶっても、贅沢をしても。ヴィヴェカは、ずっと孤独だった。


(私は……一体、どうしたいの?)


 そう思い、ヴィヴェカが一歩を踏み出したときだった。


「――奥様っ!」


 一人の侍女が、慌てふためいたような声を上げる。何故ならば……ヴィヴェカの身体が、気が付いたら傾いていたのだ。


(……落ちるっ!)


 ここは階段。今更踏ん張っても、ヒールのある靴では大した意味はない。


 手を伸ばそうとしても、身体が硬直して伸ばせない。咄嗟に手すりを掴もうとすることも、出来なかった。


「奥様――!」


 周囲の侍女たちの、悲痛な声が聞こえてくる。


 そして、頭を襲う鈍い痛み。


(……あぁ、頭がくらくらとするわ)


 どうやら、ヴィヴェカは頭を強く打ってしまったらしい。鈍い痛みと、遠のいていく意識。


(私、ここで死ぬのかしら……?)


 今までの出来事が、走馬灯のようにヴィヴェカの頭に流れ込んでくる。


 しかし、その中にはヴィヴェカの知らない記憶もあった。


(……これは、一体、誰の記憶……?)


 見知らぬ部屋。壁一面に詰まった本、本、本、ゲームソフト。ライトノベル、携帯ゲーム機。……あとは――。


(……美陽(みはる)


 ふと、頭の中に浮かんだ名前。


(そうよ。私は美陽。平凡な会社員で、趣味は女性向けライトノベルを読み漁ること、乙女ゲームをすることで――)


 何だろうか。自分が自分じゃないみたいだ。


 そう思った瞬間――ヴィヴェカは意識を失った。


 最後に聞こえてきたのは、侍女たちの悲痛な声だった。

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