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94 冠帝国王宮の混乱

 その知らせは突然だった。

 夏宮と冬宮の襲撃で10日後に迫っていた雨乞いの舞の開催が危ぶまれる中、予定通り開催されるとしたら合同稽古は5日後に迫っている。

 合同稽古に向けて、昼下がりにわたくしは一人練習に励んでいた。


雪花(シュファ)様!」


 後もう少し頑張ったら休憩にしましょう。と考えていたところに若汐(ルオシー)の声がする。そして、若汐は慌てた様子でわたくしの部屋に入ってきた。


「若汐、騒がしい上にはしたないですよ!」


 鈴莉(リンリー)がすかさず嗜める。息を切らした若汐が「申し訳ございません!」と謝罪するも、「ですが、大変です!!」と慌てた様子で話を続けた。


「皇后陛下が北の離れに軟禁されました!」

「えっ!?」


 わたくしは勿論、鈴莉や天祐(テンユウ)様に梓豪(ズーハオ)様など、その場にいた全員が驚きに包まれた。

 ひとまず、舞の稽古を中断して若汐から詳しい話を聞く。


 今日の会議では、始めに一昨日の東宮襲撃の件が語られたらしい。そして、次に煌月(コウゲツ)殿下が皇帝陛下や家臣たちの前で保留になっていた万姫(ワンヂェン)様の処遇について、進展があったことを報告したそうだ。

 そこで、皇后陛下から万姫様に贈られた薬膳茶の中に薬物が入れられていたことが明かされた。その話しの最中に、調査に当たった人物の他には犯人しか知り得ない情報を皇后陛下が口走ったのだという。


 それを聞いて、わたくしは昨日交わした煌月殿下との会話を思い出す。


『雪花、今回の件はもう少しで決着が付く予定だ。それまで少し待っていてくれ』

『決着ですか?』

『あぁ、完全にとはいかないかもしれないがな』


『叔父上のことも万姫のことも、丸く収めてくるよ』


 あれはこの事だったんだわ。

 皇后陛下が北の離れに軟禁された件が衝撃的過ぎて、若汐の話しからは襲撃事件の件が詳しく出てこない。けれど、煌月殿下は万姫様の件に関して証拠を揃えて、皇后陛下を問い詰められたのだわ。


「もう後宮中、いいえ! 王宮中が皇后陛下の話題で持ちきりです!! 皇帝陛下の後宮では、何人もの女官や宮女が皇后陛下が北の離れへ向かうお姿を確認したそうです!!」

「でも、皇后陛下から贈られた薬膳茶に薬物が入れられていただなんて……」


 呟いて、わたくしはゾクリと背筋を震わせる。


 同じ家門の身内にその様なものを摂取させるなんて、皇后陛下のお考えが分からないわ。


 万姫様は雨乞いの舞で起こした一件が原因で、皇后陛下から見捨てられ、夏の宴の期間中にわたくしや煌月殿下と共に命の危険に晒された。だけど、そもそも癇癪のきっかけとなる薬物を皇后陛下から盛られていたのだとすると、話が変わってくる。


 皇后陛下は万姫様が騒ぎを起こしたから見捨てたのではない。


「だとしたら、皇后陛下は最初から万姫様を見捨てるつもりだったことになるわ……」


 わたくしの呟きに鈴莉たち女官と若汐たち宮女が驚いた様子で目を見開くと息を呑んだ。天祐様と梓豪様は深刻そうな顔で頷いた。


「雪花様の仰る通りです」

(シァ)家は身内ですら信用できませんね」


 万姫様は大丈夫かしら?


 きっと万姫様も今頃この話を聞いている筈だわ。そう考えると、動揺されているのではないかと心配になる。


「ですが、皇后陛下が北の離れに軟禁されたということは、皇后側は暫く動けないということですよね? そういう意味では一安心ではありませんか?」

「確かに! 雪花様が狙われる危険は低くなったかもしれませんね!」


 蘭蘭(ランラン)が言えば麗麗(レイレイ)が頷いた。だが、事はそう単純ではないらしい。天祐様が「いいえ」と即座に否定する


「まだ煌雷(コウライ)殿下が自由に動けます。それに、皇后付きの女官や宮女も暫くは監視付きで謹慎扱いでしょうが、全く動けないわけでは無いと考えます」


 それを聞いて「あ……」と蘭蘭と麗麗が声を漏らす。


「それは、……煌雷殿下が何か仕掛けてくるということですか?」


 明霞(ミンシャ)が震える声で疑問を口にした。彼女はきゅっと両手を握っていて、それが微かに震えて見える。心なしか顔色も良くない。

 冬宮襲撃の記憶はまだ真新しい。特に怪我を負った明霞にとっては誰よりも辛いものだと、わたくしはすぐに察した。


「明霞さん、可能性の話ですよ」


 天祐様が安心させるように柔らかな表情で明霞の疑問に答えた。


「明霞、辛いなら少し休んでいいのよ」


 同じ現場に遭遇していた身として、わたくしも思い出すとまだ少し怖い。だから、明霞の抱える恐怖が少しは理解できるつもりだった。


「……いいえ。大丈夫です」


 強がるように無理に笑う明霞。心配だけれど本人がそう言うのなら、わたくしはそれ以上彼女を止めることは出来ない。


「それならいいのだけど……」

「兎に角、夏の宴は終わりましたが、引き続き警戒しましょう」


 梓豪様の言葉に「そうですね」と天祐様が頷く。鈴莉も気を引き締めた表情でそれに頷いた。

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