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93 追及

「全員揃ったな」


 皇帝陛下が集まった面々の顔を見て言葉を発する。家臣たちは勿論のこと、今日は皇后陛下を始め私の母である皇貴妃、そして皇弟であり私の叔父である煌雷(コウライ)も顔を出していた。


「それでは一昨日の東宮襲撃の件について、憂龍(ユーロン)から報告を」


 私は告げると、ちらりと目配せする。頷いた憂龍は後宮が襲われた時系列を後始末まで含めて順を追って話し出した。


「ここからは捉えた者たちから聞き出した情報です。夏の宴で商人として入った者、それから煌雷殿下の連れてきた従者に紛れていた者、それら複数の侵入者が雇い主に煌雷殿下の名前を上げています」


 憂龍の発言に家臣たちがざわつく。


「フン、そんなのは戯言だ」


 叔父上が声を張ると、ざわついていた家臣たちの声が小さくなった。だが、ここで終わらせるわけにはいかないため、私は追及する。


「果たして本当にそうでしょうか?」

「なに?」


 ギロリと叔父上の鋭い視線が私に向けられた。


「捕らえた者たちの証言が一致しているのです。嘘偽りであれば証言にバラつきが生じる筈。ですから、この証言は真実に近いと考えます」


「確かに火のないところに煙は立たないと言うからな」

「煌雷殿下といえば、皇位争いのこともある」


 私の言葉を聞いた家臣たちから、そんな声が聞こえてくる。


「静かに」


 皇帝陛下の一言でピタリと家臣たちの話し声が止んだ。


「煌雷、何か反論はあるか?」


 皇帝陛下に名指しで問い掛けられた叔父上が前に出る。


「誓って私は何もしておりません。……だが、私の連れてきた者の中に侵入者が紛れ込んでいたこともまた事実。誰かが手引したに違いない」


 それは叔父上自身がやったことだろう! と問い詰めたかったが、グッとこらえて言葉を飲み込む。


「直ちに調査し、不正を働いた人物が分かり次第、処分します」


 それでは叔父上が適当に誰かに罪を擦り付けて終わりだ。とかげの尻尾切りをさせる訳にはいかない私は声をあげる。


「お待ち下さい! その調査はこちらが用意した人員を──」

「やめなさい。煌月(コウゲツ)


 私の言葉を遮るように皇后陛下の声が飛んでくる。


「煌雷殿下はご自分が連れてきた部下の中に侵入が紛れ込んていたことを大変心苦しく思われているのですよ! それを先程から何ですか!!」

「私はただ真実を明らかにしたいだけです」

「それは皆同じです。身内を……そなたの叔父を信じられないのですか?」


 皇后がそれを言うのか。同じ(シァ)家出身の万姫(ワンヂェン)を殺そうとしたそなたが!!


 私は怒りを抑えるように拳を握り込む。


「待て」


 そこへ皇帝陛下の声が短く響いた。


「みなの思っていることはよく分かった。煌雷や皇后の気持ちもわかる。だが煌月が言うように、取り調べる者の中に協力者が紛れている可能性も考慮すべきだ」


 そこまで告げて、一息ついた皇帝陛下が真っ直ぐ家臣たちを見る。


「煌雷と煌月の部下、それから朕の部下を調査に参加させる」


 皇帝陛下の言葉でまたしても場がザワつく。だが、これは叔父上の不正の証拠を掴む好機だった。


「調査結果が判明するまでこの件は保留とする。調査の件もある故に、煌雷は暫く王宮に留まるように」


 皇帝陛下の言葉に叔父上は渋々と行った様子で了承した。


「では次だ」


 皇帝陛下の声に、私は「はい」と気持ちを切り替えて答える。次の議題も先程の議題とともに、私にとっては大事な案件だった。


「保留にしていた万姫の処遇について、進展がありました。こちらも憂龍からご報告させていただきます」


 私の言葉を合図に、憂龍は皆の前で調査の結果を語り始める。


「夏宮で回収した薬膳茶を薬師に調べさせたところ、毒は発見されませんでしたが、薬物が混じっていました」


 薬物と聞いて、家臣たちに動揺が広がった。


「医局ならともかく、何故そんな物がお妃候補の宮にあるのだ?」

「万姫様はどうやってそその様な物を? 薬物なぞ内密に入手するなど容易くはないぞ」

「夏家の力があれば可能かもしれないが……」


 家臣たちが混乱する中、憂龍が遠慮なく言葉の爆弾を落とす。


「その薬膳茶は皇后陛下から送られたものです」


「なんと!?」


 今日一番のどよめきがその場を支配した。


 私は皇后陛下の反応を見るため、憂龍が話し始めてからずっと彼女に視線を向けていた。

 薬膳茶と聞いてからの皇后は時間が立つにつれて、顔の表情が険しくなっていた。皇后の表情が焦りと苛立ちに染まっていくのがよく分かる。


「静かに」と強めに皇帝陛下が声を張った。静まった頃を見計らって、皇帝陛下が尋ねる。


「皇后、この件に関して何か言うことはあるか」


 皇后へと視線が集まる。彼女は澄ました表情を作ると、落ち着いた調子で話し始めた。


「万姫のためを思ってわたくしが用意させた薬膳茶にそのようなものが混じっていたこと、大変心苦しく思います」


 白々しい発言に、私は強めの口調で問いかける。


「皇后陛下は無関係だと仰るか?」

「勿論。わたくしが可愛い身内の万姫にそのようなことをする筈がありません」

「言いたいことはそれだけですか?」

「えぇ」


 頷いた皇后に私は畳み掛ける。


「ご自分が無関係だと仰るのなら、何故皇后陛下はそんなに落ち着いておられるのです? 薬膳茶を好んでおられる皇后陛下自身も被害に合ったのではないかと、取り乱しても良いと考えますが?」


 ザワッと家臣たちがざわつく。だが、皇后は気に止めること無く答える。


「わたくしは万姫のような癇癪を起こしていません。それこそが感情を押さえられなくなる効果がある薬物を接種していない証明になります」


 皇后の発言に場のざわつきが増した。家臣たちは確認するように顔を見合わせたり、皇后の方を見ながら囁き合う。


「な、なんです?」


 周囲の反応に流石の皇后も慌て始めた。そこへ「可笑しいですね」と憂龍が呟く。


「煌月殿下は薬膳茶に薬物が入っていた(・・・・・・・・)としか、仰っていません。皇后陛下は何故薬物の効果がお分かりになったのですか?  それに、それが原因で万姫様が癇癪を起こされていたことも、調査した我々とごく一部の人間しか知り得ない事実です」

「っ! それは女官から聞いて知っていたことです!」

「それはあり得ません。何しろ、薬物の効果に関しては私と煌月殿下、そして調査を依頼した薬師のみで情報を共有していました」


 憂龍がそこまで言うと、皇后が顔を青くした。私は皇后が何か言い逃れをする前に、キッと睨み付ける。


「つまり、他に薬物の効果を知っている人物がいるとすれば、それは犯人しかあり得ないと言うことです」


 辺りは騒然とした。そこに細く長い皇帝陛下のため息が吐き出される。


「皇后よ。そなたから詳しい事情を聞く必要があるようだ」

「へっ、陛下! 誤解です!!」


 何とか、罪から逃れようとする皇后。だが、皇帝陛下である父上は容赦なく告げた。


「事が終わるまで皇后を北の離れにて軟禁する!」

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