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92 秀次様宛の文

 ──(トォン)秀次(シゥジン)


 秀次様のご尽力のお陰で後宮入を果たすことが出来ましまこと、大変嬉しく思います。本当にありがとうございます。

 雪欄(シュェラン)様の元で仕えるようになって一週間が経ちました。

 いつか憧れの雪花(シュファ)様の元で働けるよう精進致します。

 短めではございますが、これにて失礼します。



 *****



 ──冬秀次様


 お久しぶりでございます。

 後宮では本日から夏の宴が始まり、初めて雪花様にお会いすることができました。

 私たちが勝手に宴が催されている東屋を尋ねた為、雪欄様に叱られてしまいました。

 雪花様にも私たちの行動が仕える主人の評価を下げること、心得ておくようにと叱られてしまいました。

 雪欄様のご迷惑となるような事があっては私たちの後宮入にご尽力下さった秀次様のお顔にも泥を塗る事になる為、これからは慎重に行動したいと考えます。



 *****



 ──冬秀次様


 昨日、後宮に侵入者が入り込んできたとのことです。

 雪欄様も〟秀鈴シューリン様も大変怯えていらっしゃいましたが皆様ご無事です。

 どうやら侵入者は煌月(コウゲツ)殿下と雪花様、万姫(ワンヂェン)様を狙ったようでした。

 皆様ご無事でしたが、こちらはまだ取り調べが続いているようです。

 後宮ですら侵入者されるご時世ですので、秀次様もお気をつけ下さい。



 *****



「これは駄目です」


 秀次様にご報告する為にしたためた文を妃宮の筆頭女官に預けていた所、翌日に廊下ですれ違った際に突き返された。

 今まで出した2通の文は問題なく後宮の検閲を抜けて、秀次様の元へ届けられていた。その証に秀次様からの返事が手元にある。それなのに、今回初めて文が送り先へ届けられることなく、手元に戻ってきた。


「何故ですか!?」

「後宮で起こった騒動について触れているからです。これでは後宮の検閲で必ず引っかかります」


 淡々と語られた言葉に私は思わず「なっ!」と声を上げた。


「中を読まれたのですか!?」

「当然です。妃宮から出した文で後宮の内情が他所へ漏れれば、一大事です。手紙を出す時に上官から検閲官に渡す決まりになっている理由は、上官から見て内容に問題がないか確認してから後宮の検閲に回すためです」

「だからって中を読むなんて……!!」

「何を言っているの? それで後宮の情報が漏れて首を刎ねられるのは貴女と私なのですよ? 貴女、そんな事も知らずに後宮へ来たの?」

「う……」


 抗議する為に、言い返した私だったけれど、逆に言い負かされてしまって言葉に詰まる。


 後宮に文の検閲があることは知っていた。けれど、大事にならなかった事件だったから、書いても問題ないと思っていたのに。


 私はぐっと拳を握りしめる。


「…………、分かりました。書き直します」


 そうとは言ったけれど、これでは煌月殿下と雪花様、万姫様が侵入者に襲われたという事実を秀次様にお伝え出来ない。

 妃宮の筆頭女官と後宮の検閲官の目を誤魔化すためには、何か工夫して書かないと駄目みたいね……


 頭の中でそう考えていると筆頭女官が「あ、そうそう」と思い出したように声を上げる。


「後で雅文(ヤーウェン)と一緒に秀鈴様のお部屋の掃除をお願いね。貴女たち仲良いみたいだから、一緒の方が捗るでしょう?」


思わず「えっ」と声が出ると、私が嫌そうな顔をしていたのか、筆頭女官が念を押してもう一度伝えてくる。



「秀鈴様のお部屋の掃除を頼みましたよ、魅音(ミオン)



 ややあって私が「………はい。分かりました」と答えると、筆頭女官はそそくさと妃宮の廊下を歩いていく。


「……。」


 別に私は雅文と仲が良い訳じゃない。

 ただ単に一緒に後宮へ入れられた事と、偶々あの子が雪花様を慕っていて、冬宮への移動を希望していたから一緒にいるだけだ。


 秀次様から託された目的を達成するための隠れ蓑に丁度いい。そう思ったから彼女の存在を利用しているに過ぎない。


 大体、私とあの子じゃ格が違うわ。


 私の父は秀次様の右腕と呼ばれている。冬家の側近としてそれなりに大きな家よ。それに比べてあの子の家は末端も良いところ。しかも、聞くところによると秀英(シゥイン)様に忠誠を誓っていた家らしい。そして、今でも秀次様ではなく、秀英様を尊敬しているという。


 そんな家に生まれたから、雅文は雪花様に拘っているのでしょうね。でも、だからこそ。そんな中途半端な立場の雅文と一緒にされるのはごめんだわ。


 兎にも角にも、秀次様へ報告をする為に、何か良い方法を考えなくちゃ。このままだと、ただの私のありきたりな感想文みたいな文しか秀次様に送ることができないわ!


 頭を回転させながら私は雅文を探して宮の中を歩いていった。




 *****



 ──冬秀次様


 後宮にて もうすぐ雨乞いの舞が行われます。

 雪花様や万姫様 その他お妃候補の方々が舞われるそうです。

 煌月殿下もお妃候補のご活躍が楽しみでしょうね。


 それはそうと物騒な世の中です。

 賊 など出るかもしれません。

 襲われ 怪我などなさいませんよう、秀次様もお気をつけください。



 *****


ここまで「冬宮の華」を読んでくださり、ありがとうございます。


今回、久しぶりの更新となりました。

更新が少ない中にもかかわらず、今年に入ってから感想を頂いたり、新たにブックマークや評価をしてくださった方もいらっしゃるようで、とても嬉しく思います!!

ブックマークを外さずに待ってくださっていた皆さまも!本当にありがとうございます!!


今回の92話は、秀次にどのような形で情報を届けるか?という表現を考えるのに、時間が掛かってしまいました。あと、秀次にとって都合のよい人材、所謂スパイ的な役割のキャラをここで明かすかも迷いながら書きました。

暫くしてから読み返し&修正後にあげるつもりが、その間に他の作品も更新頻度が落ちてしまい、こちらのお話に手を付けられずになっていました(-_-;)

ちなみに、現時点でストックも次の1話のみです。

次回の更新までまた少しお時間を頂くことになると思いますが、変わらず応援していただけると嬉しいです!!

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