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89 憂龍の報告

 冬宮襲撃から数時間後。すっかり日が落ちた頃に煌月(コウゲツ)殿下が予告していた通り、憂龍(ユーロン)様が冬宮を訪ねてきた。


「夜分遅くに申し訳御座いません」

「いえ。憂龍様こそ、遅くまでご苦労さまです」

「では、まず今回の襲撃してきた侵入者についてですが、後宮への侵入経路が判明しました」


 その言葉に息を呑む。


「以前から懸念していたように、出店の出店者として紛れ込んだ者もおりましたが、大半は煌雷(コウライ)殿下が連れてきた従者として後宮入りした事が判明しました」


 その言葉に部屋の中にいた鈴莉(リンリー)明霞(ミンシャ)たちも「えっ?」と動揺を隠せないようだった。


「本人は侵入者とは無関係だと否定されていますが、殿下が雇った荒くれ者で間違いないと思われます。成果を出せば正式な部下として雇うと言われたようです。侵入者の数名がその様に口を割りました」

「では、煌雷殿下が突然王宮を訪問された理由は……」

「襲撃の為でしょう。元々計画されていたと考えられます」

「っ……」


 昼間あれほど上機嫌だったお方が、その直後に部下を使ってわたくしや煌月殿下を襲わせる算段を立てていただなんて。


「煌月殿下が雪花(シュファ)様の所へ向かわれた頃、私は万姫(ワンヂェン)様の元へ向かったのですが、そこに煌雷殿下がいらっしゃったのです」

「えっ!? 万姫様は!?」

「無事です。お怪我もありません」


 憂龍様が微笑んで答えてくださったことで、何も心配いらないのだと、わたくしはホッと息を吐く。


「煌雷殿下の話では皇后陛下にお会いする予定があったらしく、折角ならと(シァ)家出身の万姫様をお誘いに来られたのだとか。その際、夏宮に侵入者がいることに気付き、万姫様を守る為に応戦していたとおっしゃいました。その後の後始末で煌雷殿下が連れてきた宦官が手伝いを申し出たため、万姫様にはまだ真相を聞けていません。ですが、煌雷殿下は完全に黒だと考えられます」


 “黒”つまりは、万姫様を守るためではなく、襲撃するために訪ねたと推測されることになる。


「煌雷殿下が宴の場で万姫様をお誘いされなかったのは、やはり万姫様を尋ねる口実が欲しかったからでしょうか?」

「恐らくは」


 煌雷殿下は皇弟という立場にある為、確実な証拠がない限り追及することは難しい。下手をすると追及した官吏が煌雷殿下によって、消されてしまう可能性がある。


「雪花様、夏の宴は本日で終了ですが、引き続き警戒を怠らないで下さい。煌雷殿下はあの後、他のお妃候補が心配だからと東宮の宮を全て回ろうとしておられました」


「ということは……」

「えぇ。今日は何とかお部屋に戻っていただきましたが、明日辺りにご訪問があるかもしれません」


 思わずごくりと唾を飲み込む。


 鈴莉たちがいるとはいえ、煌雷殿下と2人だけだなんて……。恐怖心を隠しながら会話をするなど、耐えられそうにないわ。


 複雑な心境に眉を歪める。不安が顔に現れたわたくしに憂龍様が言葉を続ける。


「深刻になる必要はありません。他家の娘の宮で煌雷殿下ほどのお方が事を起こせば、家門を巻き込んだ大騒動になってしまいます。煌雷殿下もその様な事はされないでしょう」

「そうです! それに、例え何かあったとしても雪花様はこの梓豪(ズーハオ)がお守りします!」

「憂龍様、梓豪様……」


 お二人の言葉で心が少し軽くなる。


「そうですわよね。わたくしには梓豪様や天佑(テンユウ)様、それに鈴莉たちがいるものね。ありがとうございます。気持ちが少し楽になりました」

「出店の撤収作業でまだ人の出入りもありますし、襲撃を受けた直後ですから宦官による警備は暫く増やしたままの予定です。あんな事があった後で難しいとは思いますが、普段通りお過ごし下さい」

「えぇ。そのように努めてみますわ」

「では私からは以上です。失礼させて頂きます」


 憂龍様は一礼すると部屋を出てゆく。


 煌月殿下はまだかしら? ……いいえ。時間が出来たらまた訪ねると仰っていたから、今日は難しいかもしれませんわね。何しろ憂龍様ですら、この時間までお忙しくされていたのだから。


 それから暫くは起きて煌月殿下を待っていたけれど、夜も更けた頃には諦めて眠りについた。



 *****



 真夜中、冬宮の部屋に一つの影が現れる。

 部屋の前を守っていた宦官はその姿を見つけると中で待機していた鈴莉へ取次いだ。


「煌月殿下、雪花様は少し前まで殿下を待っていらっしゃいましたが、先程お休みになられました。申し訳ございません」

「そうか。こんなに遅くに尋ねてきた私が悪いのだ。謝る必要はない。一目、顔だけでも覗いてよいだろうか」


 鈴莉の了承を得て煌月は雪花が眠る部屋の中に足を踏み入れた。音を立てないようにそっと歩みを進めると、ベッドの上で眠る雪花の顔を覗き込む。


 月明かりに照らされて見えた雪花は穏やかに眠っていた。顔色も悪くないようだ。その姿にホッと息を付くとその場に屈む。


「明日、また来るよ」


 そっと頬に口付けると、枕元にキキョウの花を置いた。

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