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87 襲撃のあと

 普段使用している部屋に誰か隠れている人間がいないか梓豪(ズーハオ)様が安全の確認をしたあと、わたくしは部屋に入って漸く椅子に腰を落ち着けた。


 こんな状況だからお茶を淹れることができる訳もなく、わたくしはただ静かに鈴莉(リンリー)たちと共に天佑(テンユウ)様と梓豪様に守られながら、冬宮の捜索が終わるのを待っていた。その間、蘭蘭(ランラン)麗麗(レイレイ)が宦官と共に呼びに行った医者によって明霞(ミンシャ)の怪我の治療が施される。

 明霞の傷は思っていたより浅く、完治すれば跡も残らずに済むらしい。


 良かった。と胸を撫で下ろしていると、少しして煌月(コウゲツ)殿下が部屋に入ってきた。


「煌月殿下!」


 わたくしがパッと立ち上がると、それまで少し難しそうなお顔をしていた煌月殿下が安心させるように微笑みかけてくる。


「冬宮にいた侵入者は全員拘束した。行方が分からなくなっていた女官や宮女たちも奥の部屋で眠らされていたが全員無事だ」

「本当ですか!?」


 頷いた殿下の姿に鈴莉や蘭蘭たちもホッと息をついた。わたくしも、みなの無事が分かって漸く肩の力が抜けていく感じがした。


「安心してくれ。今、医者と薬師に診て貰っている」


 傍に来た殿下がふわりとわたくしを抱き締めた。


「狙われているかも知れないと分かっていたのに、碌な対策も出来ず、怖い思いをさせて済まなかった」

「そんな、煌月殿下のせいではありません。それに、直ぐに助けに来てくださったではありませんか」

「いや、私は甘かったのだ」

「……? それは、どういう?? ……そう言えば、煌月殿下は何故こんなに早く冬宮に駆けつけることが出来たのですか?」


 煌雷(コウライ)殿下に招かれた部屋を出た後、わたくしは冬宮へ戻って来ただけだ。煌月殿下と別れてから殆ど時間が経っていない。


「わたくしはてっきり煌月殿下は公務に戻られたのだと思っていました」

「あぁ。そのつもりだったが、私の宮も襲撃に遭っていてな」


 わたくしが「えぇっ!?」と驚きの声を上げると、「あ、いや。対したことはなかったから、心配はいらない」と煌月殿下が慌てた付け足した。


「そちらは直属の宦官が、私が戻る前に異変に気付いて対処してくれていたのだ。だから私が着く頃には決着が付いていたよ。だがそうなると、そなたと万姫(ワンヂェン)の身が心配になってな。憂龍(ユーロン)と二手に分かれて急ぎ確認に来たのだ」

「危ないかも知れない場所に、自ら来てくださるだなんて……」

「だからこそだ。そなたたちに何かあった後では遅いからな」


 そっと殿下がわたくしの頬に手を添える。


「本当に、無事で良かった」


 愛おしそうに、心底安心した表情の煌月殿下を見ていると目の回りが熱くなる。


「助けに来ていただいて、ありがとうございます」


 呟きながらわたくしの目から涙が溢れてくる。それを殿下がそっと指先で拭ってくれた。


「まだ傍に居てやりたいが、まだ今回の件で動かなくてはいけない。それに夏宮の様子も気になる」

「えぇ。行ってください。わたくしは大丈夫です」


 本当はあまり大丈夫じゃない。思い出すと今にも恐怖で手が震えそうだ。だけど、甘えるわけにはいかない。煌月殿下にはやることが沢山あるのだから。


「冬宮の護衛と後始末のために私の宦官を数名置いていく。今回の件について、後で憂龍に詳しく報告するよう伝えておく。私も時間が出来たらまたそなたを訪ねよう」

「分かりました。無理はしないで下さいね」

「なに、私がそなたに逢いたいだけだ」


 そう言うと煌月殿下はポンッとわたくしの頭に手をのせて、愛おしそうに目を細めた。


「!!」


 それだけで単純なわたくしは恐怖で埋っていた心が少しだけ軽くなる。

 それから、煌月殿下は踵を返して部屋を出ていった。その後、暫くしてから香麗(シャンリー)様の宮女が言伝てに来た。わたくしとの舞の稽古の約束のために着替え終えた香麗様が冬宮に向かおうとしたところ、御付きの宦官が東宮での騒ぎを聞き付けたという。


「ご迷惑になるといけないので、舞の稽古を取り止めて香麗様は春宮にて待機されるようです」


 香麗様の宮女の言葉にわたくしは頷く。


「わたくしもそれが良いと思います。まだ侵入者が紛れている可能性もありますものね。わたくしは無事ですので、香麗様もお気をつけくださいと、伝えてもらえるかしら?」

「はい。それでは失礼致します」


 彼女が帰ったのを見届けると、漸く厨房が使えるようになったらしく、蘭蘭がお茶を持った来てくれた。


「ありがとう」と受け取って、「美玲(メイリン)たちの様子はどう?」と尋ねる。


「薬の影響でまだ眠っています。ですが、目覚めるものも数名出てきました。今は麗麗が様子を見てくれています」

「そう、……怪我がなかったことが幸いだわ。今日はみんなにはゆっくり休んでもらいましょう」


「はい」と蘭蘭が頷いた時、「雪花(シュファ)様」と煌月殿下付きの宦官が声を掛けてくる。


「状況把握のため、雪花様は勿論のこと、冬宮に仕えている者から襲撃時のお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか」

「えぇ。構いません」

「ではこのまま雪花様からお尋ねしてもよろしいですか?」


 快く了承下わたくしは、時々声を震わせながらあの時のことを話し始めた。

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