57 秀次の目論み
数日後、叔父様から文が届いた。それは以前、叔父様が集めるとしていた45名の宮女の用意が出来たという内容だった。
手続きを始めたと文に記されていた為、わたくしは直ぐに雪欄様に連絡を入れた。すると、返事はその日のうちに返ってきた。
雪欄様は皇帝陛下と相談して、近々懐妊の発表を行うらしい。その後、雪欄様から叔父様宛に45名の宮女を引き取る旨を記した文を送られるとのことだった。わたくしの方からも同じ内容の文を送るよう指示があった為、いつでも叔父様に文が出せるように準備を進めた。
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冬家の現当主である秀次が雪花に文を送って数日がたった頃、雪欄の懐妊が王宮から発表された。そして、その知らせは秀次の元へも届いた。
「何だと?」
珍しく従妹である雪欄から届いた文を確認した秀次。彼の怒りの感情が滲んだ声が、冬家当主の執務室に響いた。雪欄からの文には懐妊したことの他に、人手が欲しいからと雪花に用意した宮女が雪欄に流れると記されていたからだ。
まさか! と思いながら雪花からの返事を確認すると、やはり同じ内容が記されていた。
「クソッ!!」
ドンッと机に拳を叩きつける。それでも苦労して集めた人材を雪欄に盗み取られる怒りは収まらない。
雪花と共に後宮へ送った美玲たちは暫くするとロクな情報を寄こさなくなった。その為、代わりの宮女を送ろうとしていたのだ。
このままでは今と何も変わらない。何としても後宮の内情が……雪花や皇太子の様子を教えてくれる人物が必要なのだ。
秀次は部屋の外に控えている使用人を呼ぶ。すると、直ぐに秀次に昔から使えている男、雲嵐が現れた。
「秀次様、お呼びでしょうか?」
「明日、そなたの娘を連れてきてくれ。彼女を宮女として後宮に送る前に大事な話がある」
「畏まりました」
「それと、集めた人材の中からお前から見て良さそうな娘を2〜3人、呼んで欲しいのだ」
そう告げて、秀次は雲嵐に詳細を話す。全てを理解した雲嵐は部屋を出ると、当主の命を実行すべく動き始めた。
「雪欄め。……余計な手間を掛けさせやがって」
1人残った部屋で秀次が呟く。秀次にはまだ諦めきれない野望があった。それを実行するか見極めるためにも、後宮の様子や雪花と皇太子の様子を探る必要があったのだ。
もしその時が来たら、きっと妻も衣衣もわしの考えを分かってくれる。そして、わしの評判も地位も権力も、今より高くなるだろう。そうすれば未だ兄上を敬っている冬家の人間の全てがわしを敬い従うだろう。煩わしい夏家もわしを馬鹿にしなくなるはずだ。
「何としてでも冬宮へ宮女を送らねば」
秀次は再び考えを頭に巡らせるのだった。
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「秀次様、娘を連れて参りました」
翌日、雲嵐は約束通り愛娘を連れてきた。
「よく来てくれた。今日は後宮入りの前に大切な話があるのだ」
冬宮へ送るために選んだ45名の娘には、昨日のうちに雲嵐から「冬宮に配属されるはずだったが、妃宮への配属になる」と話してもらっていた。その中から冬宮への配属を強く希望していた3人に雲嵐から声をかけて連れて来てもらったと言うわけである。その3名の者たちには先程、話を終えたばかりだった。
そして、今目の前にいるのは45名のうちの1人である雲嵐の娘だ。彼女には最初から冬宮に配属されたら、後宮や雪花と皇太子の様子を定期的に報告するよう命じていた。
「美玲たちがわしの命令を無視するようになった今、わしの右腕である雲嵐の娘であるそなただけが頼りだ。改めてそなたに頼む。何としてでも妃宮から冬宮へ移動し、わしに後宮の様子を報告してくれ」
秀次の言葉に娘には頷く。
「分かりました。秀次様のご期待に添えるよう。精一杯務めさせて頂きます」
「うむ。流石は雲嵐の娘だ! 頼りにしているぞ」
目の前の娘にそう伝えると、秀次は上機嫌に笑った。