48 対応策
「雪花様、頼まれていた件、確認して参りました」
数日後、若汐がわたくしの元へ報告にやってきた。
刺繍の会の後、わたくしは彼女に万姫様と皇后陛下が頻繁にお会いしているかの事実確認と、その目的について夏宮の者を通じて聞き取りの依頼をしていた。
天佑様と冬宮の女官が揃う中、みなで若汐の報告を聞く。
「まず、万姫様と皇后陛下が頻繁にお会いされている件は間違いございません。ですが、ここ数日は落ち着いたようです」
「そう」
頻繁に会われていたことに対して“やっぱり”と、不安になる思いがある一方、ここ数日は落ち着いていると聞いて、わたくしは安心する。
「それで、お会いされていた目的ですが、女官の話だと、どうやら煌運殿下と雪花様に関することのようです」
「わたくしと煌運殿下?」
わたくしは思わず眉を潜める。だけど、わたくしと煌運殿下に関することとなると、思い当たるのは一つだった。
「……もしかして煌運殿下がわたくしに想いを寄せていた件かしら?」
「それもあるようですが、詳しくは分かりません。皇后陛下が途中で人払いされたため、女官や宮女たちは追い出されたそうです」
「そうなのね」
人払いされたということは、他の者には聞かれたくない話があったということだ。
「……他には何か言っていた?」
「いえ、特には」
「では引き続き、何か新しい動きがあれば教えて」
「はい。では失礼します」
サッとお辞儀をして、若汐が宮女の仕事に戻っていく。
今の報告だと、肝心なところが分からないわね。もしかすると煌月殿下が密かに万姫様に付けていらっしゃる宦官なら何か知っている可能性もある。けれど、わたくしが頼んで教えてもらう訳にもいきませんし、そもそも教えて貰えるかも分かりませんわね……
けれど、もしもそれが重大な内容だとしたら、煌月殿下に報告されている筈ですわよね? わたくしは気にせず過ごしていて大丈夫かしら?
「……」
殿下ならご存知なのかもしれない。
出すぎた真似のような気もするけれど……
「天祐様」
直ぐ側に控えていた彼に声をかける。
「はい。なんでしょうか?」
「今、若汐から聞いた件について、天祐様は何かご存知ですか?」
「申し訳ありません。私は何も聞かされていないのです」
「そうですか」
仮に天佑様がご存知だったとしても、煌月殿下の許しなくペラペラ話して良い内容ではないものね。やはり、煌月殿下に直接尋ねるべきかしら? いいえ。それは駄目よね。
「これ以上の内容を知るのは難しそうですわね」
わたくしが呟くと鈴莉が口を開く。
「兎に角、今は万姫様と皇后陛下、それから煌運殿下に気を付けるしかありません」
「煌運殿下は東宮の後宮へ出入りを禁止されていますから、大丈夫でしょう。気になるのは万姫様と皇后陛下です」
天祐様の言葉に「えぇ」と頷く。
「いっそ、雪欄様に助けを乞うのはどうでしょう?」
ひょこっと横から美玲が提案する。
「でも、雪欄様に悪いわ」
雪欄様も冬家の人間。きっとお妃候補だった頃からわたくしと似たような経験を沢山してこられた筈だ。今だって、様々な悩みを抱えておられるに違いない。そういったこともあって簡単に雪欄様を頼るのは躊躇われた。
「ですが、良い案かもしれません」
そう呟いた鈴莉の方を振り向くと、彼女が言葉を続ける。
「万姫様にとって同じ夏家出身の皇后陛下が頼りの存在であるように、雪花様にとって同じ冬家出身の雪欄様が頼りになる存在ではありませんか」
「それはそうだけれど……」
「では、雪欄様に文をお出ししませんか?」
口ごもるわたくしに美玲が提案する。
「良い案ですね!」
「私もそれが良いと思います」
麗麗と蘭蘭が賛成の声を上げた。
「鈴莉はどうかしら?」
困ったわたくしは冬宮の筆頭女官に意見を求める。
「周りを頼ることも大切だと私は思います。それに、雪欄様は雪花様が頼って下されば嬉しいと思いますよ」
「そうかしら?」
「はい」
ずっとわたくしに仕えてくれている鈴莉の言葉はスッと心に入ってきて、不思議とわたくしを安心させた。
どうせ雪欄様に相談するなら、叔父様から届いた文の件も相談してみようかしら。
「みながそう言うのなら、雪欄様に相談してみるわ」
「ではすぐに文を書く用意をしますね」
わたくしの言葉でサッと麗麗が動き出した。
この翌日、以前叔父様に出していた文の返事が届いた。