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34 お妃候補の集結

 始まりの儀当日。いよいよこの日がやってきた。

 秋宮のお妃候補は昨日後宮入りしたはずだけれど、香麗(シャンリー)様の時の様に冬宮へ挨拶にいらっしゃることはなかった。


 他のお妃候補の宮も訪ねていらっしゃらないのかしら?


 もしもそうだとしたら、万姫(ワンヂェン)様が黙っていなさそうだわ。だって、年長者や位が上の者は敬うものとお考えで、万姫様はお妃候補の中ではご自分が上位だと思っているお方ですもの。お陰でわたくしは以前、北の離れに軟禁されてしまった訳ですし。


 秋宮のお妃候補はどんなお方かしら?


 昨日の夕方、冬宮へ入らした煌月(コウゲツ)殿下は彼女を“流れるように美しく言葉を発するお方だ”と仰っていた。

 少しの緊張と共に、まだ見ぬ秋宮のお妃候補へ想像を膨らませる。その間にも宮女達の手によってわたくしの着替や化粧の準備が進められていた。

 最後に髪飾りをセットして、準備が整った自分を姿見で確認する。鏡に映るのは何時もより華やかで美しく着飾ったわたくしだ。不安だったけれど、その姿を目にして自信が湧いてくる。


 きっと、今日の行事は大丈夫ですわ。


 準備を終えて廊下に出ると天佑(テンユウ)様が待っていた。儀式には宦官と女官しか参加できない為、必然的に冬宮からは天佑様と鈴莉(リンリー)美玲(メイリン)蘭蘭(ランラン)麗麗(レイレイ)が参加となった。


「参りましょう」と呟かれた天佑様に頷いて、わたくしたちは儀式が行われる会場の近くにある控室へと歩き出した。


 始まりの儀は皇帝陛下と皇后陛下、それから煌月殿下のお母上である皇貴妃様へご挨拶を行うことと、お妃候補として煌月殿下をお支えする誓いを立てることが目的となっている。その為、煌月殿下とお妃候補であるわたくしたちは、皇后陛下たちの準備が整うまで控室で待機することになる。


 控室へ辿り着くとまだ誰も到着しておらず、わたくしが一番だった。案内役の女官の指示で用意されていた席に座ろうとした時、香麗様がいらした。

 桃色をベースとした生地に細かな刺繍が施された彼女の衣は、春の宴とはまた違った華やかさを纏っていた。


「雪花様、おはようございます」

「香麗様、おはようございます」

「雪花様の衣、素敵ですね。とてもお似合いです」

「ありがとうございます。香麗様も華やかでお似合いですよ」


 ふふふっと、二人で笑い合う。と、「お二人とも先にいらしていたんですのね」と声がした。振り向けば、朱色を基調とした衣を身に纏った万姫様の姿がある。


「わたくし達もついさっき到着したばかりです」


 答えると「そうでしたの」と万姫様。


「まぁ、わたくしの方が歳上ですし、到着するのは基本わたくしが最後で当然ですわよね」


 その言葉にわたくしと香麗様は苦笑いで誤魔化す。


「ところで(フォン)家のお妃候補はどちらに?」


「まだ到着されていませんよ」とわたくしが答えると、万姫様は少し大袈裟に声を上げる。


「まぁ! 一番最後に後宮入りした方がわたくしたちより遅れて会場に来るだなんて!!」


 そうお考えなら、もっと後からいらっしゃれば良いのに。


 そんな風に思いながら、わたくしはまだ見ぬ秋宮のお妃候補の肩を持つ。


「昨日到着されたばかりですし、お忙しいのだと思いますわ」

「雪花様! そのようなお考えでは序列が乱れますわ!」


 万姫様が言う序列は恐らく、実家のことを指している。

 わたくしたちお妃候補の間に序列はまだない。だけど、(シァ)家が一番広い土地を収めているから、ご自分を敬えとでも言いたいのでしょう。


「何や騒がしいですねぇ。そんなにわたくしが来るのを心待ちにして下さったんやろか」


 流れるように紡がれたのは、聞き慣れない言葉の響きだった。振り向くと入口から翠色を基調とした色合いの衣を纏った美しい女性が現れる。瞳と同じ色の衣は彼女によく似合っていた。


 彼女が秋宮に入らしたお妃候補かしら?


「貴女が秋宮のお妃候補ですの?」


 万姫様の問いかけに、目の前の彼女がわたくしたちに恭しく挨拶をする。


「お初にお目にかかります。豊家から参りました梨紅(リーホン)と申します。どうぞ宜しゅうおたの申します」


 わたくしと香麗様も順に名乗って梨紅様に挨拶を返すと、万姫様もその後に続いた。


「夏宮の万姫ですわ。ところで梨紅様は昨日、後宮入りされましたわよね?」

「えぇ。その通りです」


 何食わぬ顔で頷いた梨紅様に万姫様は持っていた扇子で口許を隠すと、キッと鋭い視線を向ける。


「どういうおつもりですの? 梨紅様は昨日、わたくしたちの元へ挨拶に来ませんでしたわよね? 普通は先に後宮入りしたわたくし達に挨拶をしに来るものではなくって?」


 感情が高ぶっているのか、万姫様が隠すことなく不愉快だという感情をぶつけていた。その様子を見て梨紅様は扇子でお顔を隠すとクスクスと笑う。


「なっ、何がおかしいんですの!?」

「だって、わたくしみなさんと馴れ合う為に後宮へ上がったわけやありませんから、つい」


 その返事を聞いて万姫様がムッと顔をしかめた。


 これは………すごい方がやってきましたわ。万姫様を相手にここまで言われるとは。


「そういう問題ではありませんわ! 貴女は後から後宮入りしたんですから、挨拶ぐらいするべきでは無いかと言っていますの!」

「えぇ。そやから、今ご挨拶しましたでしょう?」


 けろっと、何でもない様子で言ってみせる梨紅様に、万姫様が益々感情を高ぶらせて声を荒げられる。


「まぁ! 開き直るおつもりですの? 大体、年長者や位が上の者は敬うものですわよ!」

「そんなの、わたくし達お妃候補の間で関係ありますやろか? わたくしたちはおんなじように集められたお妃候補でしょう? 年なんて関係ないと思いますけどねぇ」

「なっ……!」

「まだ上も下もないわたくしたちの何処に位がありますのやろか?」


 スッと梨紅様が目を細めて万姫様を見た。まるで見下ろしているかのような視線。梨紅様が言葉だけであの万姫様を追い詰めていた。

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