33 試着
宮女たちと面談をしてからニ週間が過ぎた。志願者およそ40名の中から選んだ宮女は25名。その中には勿論、明霞も含まれる。早速、引き継ぎや私物の移動など、都合が付いた者から冬宮で仕えてもらっていた。
そして、以前から鈴莉のご両親に探してもらっていた前冬家当主時代の使用人、つまりわたくしのお父様に仕えてくれていた使用人たちからも幾つか返事が届いていた。手続き等もある為、遅れているけれど来月から10名程来てくれる事になっている。
これから返事が来る予定の者は現段階では30名程。その中から何人後宮に来てくれるかは分からないけれど、目標の50人に近い人数が集まりそうだった。
「雪花様、只今戻りました」
「おかえりなさい、若汐。夏宮の様子はどうでした?」
「はい。万姫様も夏宮の宮女を増やす為に動いているようです」
「そうですか」
「雪花様が30名程集められる予定だと伝えていましたので、万姫様は冬宮は全部でおよそ50人の女官及び宮女が集まると思われているようです。そのため、夏宮では女官と宮女を合計60人にする予定を立てていました」
元々冬宮に使えていた鈴莉たちと、今回新たに仕えてもらう人数を足すと冬宮は約60人になる。つまり、万姫様と同じぐらいの人数になりそうね。それでも宮仕えの人数としては少ない方だ。けれど、わたくしはまだお妃候補だからこれくらいで丁度いい。多すぎても后妃様方から目を付けられかねないからだ。
后妃様方の中で一番宮女や女官の数が少いのは、雪欄様のところで百数十名程。それを超えるのは暗黙のうちにタブーとされていた。
目立たない範囲を狙うのであれば、増やすにしてもあと20名辺りで止めにしたほうが良いでしょうね。
「蘭蘭、現在の冬宮における女官試験の教育希望者は?」
「はい、現段階では20名近くおります」
「雪花様、私の両親の文にはこれから後宮入り予定の者も数名が女官を希望しているとありました」
鈴莉が付け足す。
「では、将来的に女官の数では冬宮の方が多くなりそうですね」
「はい」
「若汐、前にも言いましたけれど、女官試験を受けるための教育を行っている件は万姫様には秘密よ。単純に“読み書きを教えたり、簡単な計算を教えている”と伝えておいて」
最初は雹華と明明に女官の試験を受けさせるために始めた読み書きの教育だった。けれど、実際に試験を受けるとなるとそれだけでは事足りない。今では女官になるための試験対策のようなことも行っていた。
わたくしからの指示に対して「はい」と若汐が返事をした直後、美玲がわたくしを呼んだ。
「雪花様、始まりの儀でお召しになる衣が仕立て上がったと連絡が来ました。それで、直しが必要か一度確認したいとのことです。いかが致しましょう?」
始まりの儀とは、お妃候補が全員後宮に揃ってから初めて4人のお妃候補と皇太子殿下が集う行事だ。それがあと数週間後にやって来ようとしている。
絶対に失敗出来ない行事だから、一月前から打ち合わせを重ねて、反物選びから刺繍の施し方まで試行錯誤を繰り返していた。
「分かりました。お通しして」
*****
試着した衣はサイズがぴったりだった。いつも着ている衣よりも濃い青と淡い水色をベースにした鮮やかな青に白が映える衣だ。青い生地には金色と衣と同系統の色糸を何種類も使って刺繍が編み込まれている。
帯や髪飾りなどの小物も、衣に合わせて選んでいた。それでも外せないのはやはり煌月殿下から頂いた髪飾り。この髪飾りに合うような組み合わせでと、他の髪飾りをお願いしていた。
無理難題だったかしら? と、少し心配していたがそれは杞憂に終わり、これがまたとても良く似合っていた。
「サイズも丁度でしたし、早く仕上がって良かったですね」
試着後、お茶を飲みながら休憩していると鈴莉がそう声を掛けてきた。
「えぇ。後は当日が来るのを待つだけだわ……」
初めて4人のお妃候補が揃う日。他の宮のお妃候補もわたくしと同様に皆、衣を仕立てている筈だ。
誰が一番華やかに着飾れるか。
これもわたくし達にとっては大事なことだった。
煌月殿下の正妃の座を巡る争いは、既に始まっている。けれど、この行事から正式に始まるのだ。