24 わたくしが目指すもの
煌月殿下と想いを通じ合わせたわたくしは、今までと気持ちを切り替えて後宮での日々を過ごし始めた。
鈴莉や美玲たちにもゆくゆくは皇后を目指すと決めたことを説明した。
初代皇帝の時代以降、冬家の者が皇后の座を全う出来たことはない。わたくしはそんな歴史的な挑戦にも挑もうとしていることになる。そんなわたくしの話を聞いた鈴莉はとても燃えていた。
「良いですか! 今以上に雪花様の身の周りの安全を強化するのです!!」
そう言って美玲たち女官や雹華たち宮女に気合を入れて、それはそれは頑張ってくれている。
「天佑様も今後はお酒をお控えください! いざという時に前回のように体調を崩されていては困るのです!! また以前の様なことが起こった場合は、天佑様のお酒はわたくしたちで管理しますからね!!」
「ははははっ……、鈴莉さんは厳しいお方ですねぇぇぇ……」
苦笑いを浮かべる天佑様のお顔が引き攣っている。お酒を制限されることは相当キツイようだ。
「天佑様、鈴莉は一度決めたことは滅多なことでは曲げません。ですから、お酒の量にはお気を付けください」
「雪花様……お気遣いありがとうございます」
あとから聞いた話によると、天佑様と飲み比べをされていた憂龍様は翌日もいつも通り煌月殿下にお仕えされていたらしい。煌月殿下が冬宮を訪ねてきた際、普段通りの憂龍様を麗麗たちが目撃していて、様子を教えてくれた。
「雪花様、煌月殿下がお見えです」
蘭蘭の声にわたくしはパッと立ち上がる。サッと髪を気にしながら、そこに煌月殿下から頂いた白い椿の髪飾りがあることを軽く指先で触れて確認する。今までは付けたり付けなかったりしていたこの髪飾りだったけれど、煌月殿下への気持ちを自覚してからは毎日付けている。
「煌月殿下、お待ちしていました」
どこかそわそわした気持ちでお部屋の入り口まで出迎えに行くと、煌月殿下がわたくしを見つけて口元を緩められた。
*****
「今朝、豊家から知らせが来てな。秋宮に入るお妃候補が決まったそうだ」
雹華たちが出してくれたお茶を一口飲むと、煌月殿下はそう教えて下さった。
「では、漸くお妃候補が全員揃うのですね」
「あぁ。それまであと二ヶ月だ」
二ヶ月後にお妃候補が全員揃う……
もう何ヶ月もこの後宮にいる。けれど、それぞれの宮にお妃候補が揃ってからが、正妃の座を巡るお妃候補たちの本当の戦いだと言える。
「ここからの二年間が戦いだ」
「はい……」
基本的に後宮は一度入ると滅多なことでは出られない。けれど、この二年の間にお妃として素質なしと判断されれば、そのお妃候補は故郷に帰され、代わりの者が家門から後宮に呼び出されることも稀にある。
元よりわたくしの居場所は故郷にないも同然。だから、後宮に入った以上はここで静かに暮らすためにこの試練を乗り越えるつもりだった。けれど、今は少し違った想いでこの試練を乗り越えようとしている。煌月殿下が即位されたその時、わたくしが皇后の座を獲得出来るように頑張らなくてはいけない。
「煌月殿下のお傍にいるためですから、わたくし頑張ります」
改めて口にすると恥ずかしさが込み上げてくる。殿下のお顔を見つめていられなくて、赤くなっているかもしれない顔を誤魔化すように視線を逸らすと、殿下がクスッと笑う声がする。
「私も他のお妃候補との公平性を損なわない程度に、そなたの力になれるよう努力しよう」
「! 煌月殿下……」
殿下のお言葉や殿下の笑顔はどうしてこんなにも眩しくて、わたくしの心をキュッと締め付けるのでしょうか。
先程までよりも顔に熱が籠もっていくのが分かる。
「そなたの表情はずっと見ていても飽きが来ないな」
「う……。それは、わたくしのお顔がどこか可笑しいからですか?」
「いいや? とても愛らしいくて、いつまでも見ていられる」
「な……! 煌月殿下はわたくしを……かっ、からかっていらっしゃるのですか?」
ボンッと顔から火が出そうなほど熱くなる。
「殿下、お戯れもそこまでにされた方が宜しいかと」
殿下の後ろに控えていた憂龍様が口を挟む。
「何を言う。私は本気でそう思っている。雪花にははっきりと言葉にしておかなければ、私がどれほど雪花を大切に想っているか伝わらないからな」
「も、もう十分伝わっていますっ!」
「そうだと良いのだが」
そう言うと、わたくしを見つめて微笑む煌月殿下。お互いを想い合うようになってから、煌月殿下と一緒に過ごす時間はわたくしにとって以前よりも心地よくて楽しいひと時になっていた。