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18 后妃様方へご挨拶

 宮女の機転により、一人で后妃様方の挨拶に行けることになったわたくしは席を立つ。後ろに控えていた女官や宮女数名を席に残し、鈴莉(リンリー)天佑(テンユウ)様を連れて動き出した。


 朝来(チャオライ)庭園に到着して直ぐは雪欄(シュェラン)様の姿しか見えなかったけれど、今は皇后陛下以外の后妃が全員揃っている。

 皇貴妃様のところには香麗(シャンリー)様がいらしていた。お二人とも春の宴の主役として、とても華やかな衣に見を包んでいる。皇貴妃様は煌月殿下のご生母とあって、とてもお優しい方だ。


「大変でしたね。何かあればもっと皇太子を頼って良いですからね」とお言葉を頂いた。


雪花(シュファ)様! お久しぶりです」


 皇貴妃様の隣にいらした月鈴(ユーリン)様がきらきらした眼差しでわたくしを見つめていた。


「月鈴様、お元気でしたか?」

「はい! 雪花様もお元気そうで!!」

「お見舞いの品として月鈴様がくださった果物、とても美味しかったです。ありがとうございました」


 にこっと笑いかけると、月鈴様は無邪気な笑みを浮かべた。それからわたくしは月鈴様たちと少し話をしたあと、貴妃様にも挨拶を済ませる。

 一度辺りを見回したけれど、まだ皇后陛下の姿は見当たらないので雪欄様の元に向かう。


「雪欄様、秀鈴シューリン様」


 ご一緒だった秀鈴様にも挨拶をすると、満面の笑みを浮かべて「雪花ぁ!!」と立ち上がって抱きついてくる。


「ああ、雪花。……これ、秀鈴! はしたないですよ」


 雪欄様が注意すると、秀鈴様付きの女官がわたくしから秀鈴様を剥がした。


「ごめんなさい……」としょんぼりする秀鈴様に笑いかける。


「わたくしは秀鈴様に歓迎されてとても嬉しいですよ。それに元気があって良いではありませんか」

「雪花、そなたまで秀鈴を甘やかしては困るのだ。そうでなくても陛下が秀鈴には甘くてな」

「皇帝陛下がですか?」

「そうなのだ」


 皇帝陛下は基本お優しい方だが時に厳しく、少し気難しい方だと煌月(コウゲツ)殿下から聞いたことがある。

 もしかすると、煌月殿下を跡継ぎとして育てる為、わざと厳しく接しておられるのかもしれない。やはり、ご自分の子は可愛いという事でしょう。煌月殿下を時に厳しく育てられたことも、秀鈴様をつい甘やかしてしまうことも、親としての愛情から来ているものだと感じた。


「それにしても、すっかり元気そうで良かった」

「はい。雪欄様がくださった砂糖菓子のお陰です」

「わたくしにはあれぐらいしか出来なかっただけのこと。陛下も雪花のことを気にしていましたよ」

「えっ!? 皇帝陛下がわたくしを?」

「えぇ。皇后の行き過ぎた対処のせいでそなたが倒れてしまったと。すまないことをしたとお仰っていた」

「そんな、皇帝陛下がお気に病むことではありませんのに……」

「立場上、直接そなたに詫びれないから、そなたに会ったときは代わりに伝えて欲しいと頼まれたのだ」

「お心遣いありがとうございましたと、お伝え下さい」

「えぇ。お伝えしましょう」


 雪欄様が微笑んだとき、辺りが一瞬ザワつく。


「おや? 雪花ではありませんか」


 声の方に顔を向けると皇后陛下がいらしていた。そのお姿を確認した途端、わたくしの体が緊張で強張る。


「……皇后陛下、お久しぶりでございます」


 私を含め、周りにいた雪欄様たちも皇后陛下にサッと一礼してご挨拶する。


「元気になって良かったわね」

「はい。おかげさまですっかり良くなりました」

「そなたの回復が新年の祝に間には合わなかったが、こうして春の宴で元気な姿が見られて嬉しく思いますよ」


 皇后陛下の持つ扇子がミシッと音を立てる。

 丁度、わたくしへの面会が許される前日に新年の祝という宴の席があった。わたくしはそれに参加出来なかったので、“間に合わなかった”とはそのことだと直ぐに分かった。

 隠していらっしゃるけれど、皇后陛下の話し方に棘のようなものを感じる。それに言葉とは裏腹に皇后陛下のお顔はどこか強張って見えた。


 当たり前だけれど、わたくしは皇后陛下にあまりよく思われていないようですね。


「ありがとうございます」

「まだまだ冷える季節ですから、体に気を付けて宴を楽しみなさい」

「はい」


 わたくしの返事を聞いて、皇后陛下が通り過ぎていく。

 存在からして圧倒的な佇まい。それが、この国の皇帝の隣に並び立つ者として覚悟を決め、その道を全うしている人の放つ存在感なのかも知れない。

 わたくしは皇后陛下にあまりよく思われていない。それでも、彼女の堂々とした姿や振舞には尊敬を覚える。


 煌月殿下はわたくしを皇后にしたいと仰ったけれど、あんな風に到底なれる気がしない。今のままではとてもでは無いけれど、わたくしは皇后の器には程遠いと思わざるを得ない程の存在感だった。

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