あん、はっぴーばーすでー、とぅーゆー
朝の情報番組で若い女芸人が周りの出演者たちから誕生日を祝われていた。私も今日が誕生日、なのに私を祝ってくれる人は一人もいない。
「どうしてこんな女が祝ってもらえるのに、私は誰にも祝われないのよ」
無茶苦茶なことを言っている自覚はある。でも、彼氏に浮気をされて先週別れたばかりの私は、テレビに向かって文句を言わずにはいられなかった。
あん、はっぴーばーすでー、とぅーゆー
なんの前触れもなく、部屋に大音量で不快な歌声が響いた。抑揚も感情もない、若い女の気だるい大きな声が部屋の空気を震わせる。
あん、はっぴーばーすでー、とぅーゆー
声の発生源はわからないが、床がびりびりと声の振動で震えるのを感じる。よく聞く誕生日の歌だが、「あん」という部分が不安をかきたてる。理解不能な出来事により、私はただただ体を硬直させた。
あん、はっぴーばーすでー、でぃあ……
私は大きく目を見開いた。なぜなら、「でぃあ」の次に来た言葉が私の名前だったから。
あん、はっぴーばーすでー、とぅーゆー
歌が終わり、再び部屋に聞こえるのはテレビの音だけになった。なのに私は冷や汗と震えが止まらない。テレビの中の人たちは楽しそうに何かを話しているが、会話の内容がまったく頭に入ってこない。
「お誕生日、おめでとう」
耳元でさっきの歌声と同じ女の声がし、私は右耳に吐息のようなものを感じた。そしてその直後、テレビが突然消えて画面が真っ黒になった。すると真っ黒の画面越し、私の後ろに長い黒髪の女のような何かがいるのがぼんやりと見えた。
「私がお祝いしてあげる」
抑揚のない女の声。右耳の後ろに再び女の吐息を感じると同時に、生臭い匂いが鼻をかすめる。私は頭の中が混乱して呼吸が乱れ、息苦しさを感じた。怖いのに、いや怖いからか、暗いテレビに映る私の後ろにいる女から目が離せない。
ああ、どうして私はさっきあんなことを言ってしまったんだろう。絶望の中、自分の行いを悔やんでいると、するりと女の腕が私の首に巻きついた。そして女の顔が私の右の頬に触れた。
動けないまま声にならない叫びをあげる私の耳元で、女が抑揚のない声で囁く。
「あなたも不幸にしてあげる」