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capsule  作者: 天川 榎
前編 
8/28

第八話 真実の果てに

第八話

真実の果てに








目眩がする。

自分が見ている全ての物が信じられない。



なんでイオがスフィアに乗ってるんだ?



ボクのcapsuleの中に入っているんじゃなかったのか。ウソをつかれたのか。



ボクを裏切ったのか……あの男!




「どういうことか、説明して下さい」

ボクは毅然とした態度で、男に詰め寄る。


「すまない」

「すまないで済むことじゃないだろ!!!」

憎んでも憎んでも憎み切れない。今すぐにでも、あの男を殴り倒したい。

だが、恨んでも解決する問題では無い。ぶん殴った所で、失った物は返ってくるハズはない。


先ずは、戦の処理をしなければいけない。

話はそれからだ。





イオを回収した後、ヱイラ国のあらゆる地方の基地から戦闘機が出撃したのか、空が騒がしくなってきた。



『早く戻ってこい』

男の声が耳を伝う。


「イオをどうするつもりなんだ」

ボクは拳を握り締めたが、そのやり場に困り、解いてしまった。


『今は言えない。帰って来てから話すだから、早く基地に戻って来い』

と、男は帰還をボクらに催促した。


ボクらは、3機全てのスフィアと、無数の戦闘機及びミサイル等を始末し、基地へ向かった。

――――――――――


ネオジオ国

capsule格納基地





無事にcapsuleを基地に帰し、コックピットから降りる。

ボクは、居ても立ってもいられず、capsuleの元へ向かう。



「イオ」



それは偶然だったのか。それとも必然だったのか。ボクは再びイオに会うことが可能になった。


だから?


元々は、あの男が悪いんだ。capsuleの中にイオが居る、なんて嘘をボクに吹き込んだ。

たくさんの人を殺せば、一人が死の淵から蘇る。今考えれば、馬鹿な話だ。



だが、ボクはイオに会う資格はあるのだろうか。

あくまでもボクは数千以上の人を殺してきた殺人鬼だ。

そんなボクが、イオと対等に会話することが出来るのであろうか。



いや、出来るハズがない。



国民を殺した罪。しかもボクの国の。

許されることは、一生無いだろう。



待てよ……

そもそも、ボクが男に騙され脅迫され、capsuleを操り、仕方無く人殺しをしたことにすれば問題無い。


事実を作らなければ。早く、イオに気づかれないように。





コックピット室の重い扉を開け、capsule格納庫に着く。


そこには、只虚ろにcapsuleを眺める男と、気を失ったまま床に仰向けに寝ているイオの姿があった。


「へへっ」

意味も無く、ボクは不敵な笑みを浮かべる。


「まさか、君がやってきた犯罪を、彼女には隠蔽するんじゃないんだろな」

ボクの笑顔から読み取ったのだろうか、男はボクの思考は読めていたらしい。



「いつまで、自分の真実から逃げるつもりなんだ?」

男の言葉が、ボクの胸を貫く。



そうじゃない。

ボクは、

ボクは、悪くない。

悪いのは、あんただ。全ての元凶。ボクと相反する敵。

ボクは、あんたの掌で遊ばれていただけ。ボクは被害者だ。


それなのに、あんたはイオに真実を言えとボクに責めよる。

真実を言って何になる?

真実の果てに、イオはボクを突き放すに決まってる。



なら、言わない方がマシじゃないか。



「イオには、この施設に拉致された、とだけ言っておいて下さい」

ボクは、男の耳元で囁いて、その場を後にした。




そのままボクは、男に指定された部屋のベッドに、現実から逃れるように、そそくさと眠りについた。


‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡





ボクに支給されている部屋は、北側にドアがあり、その右手には洋式便器が粗末に設置されている。

南側に行くと、縦横の長さが共に1m程度の小窓が地面から高さ4mぐらいの所にある。その窓の左手には、シングルベッド。



面積は四畳半程。生きていくには少し窮屈だが、そうとも言えない。ボクには、これぐらいの方がお似合いということか。




朝目覚めると、小窓からの日光が眩しいので、まともに目が開けられない。



寝ぼけ眼で、併設の食堂で朝食を、と思っていたその時。




「ギャアアアア!!!!」

けたたましい叫びと共に、隣の部屋からポニーテールの少女が飛び出してきたではないか。



「会いたかったよ、スミ」

イオは、ボクにあどけない笑顔を見せ、抱きついてきた。

スミの両腕が首に絡み付く。

ボクもイオをしっかりと抱擁しようとしたが、躊躇ってしまった。


半端なまま。ボクはこのままで良いのか。


「ああ、久しぶり」こんな言葉で全てを片付けようとしているボク自身に、払いきれない嫌悪感が、いつまでもつきまとった。








〈終〉




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