表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
capsule  作者: 天川 榎
前編 
7/28

第七話 スフィア

第七話

スフィア








胸騒ぎがする。

なんだろう、この胸の高鳴りは。



恍惚。

この表現が一番しっくりくる。



ミサイルが直前まで迫ってくる。だがボクは、そのミサイルを避けようとしなかった。


「早く避けて!!」

ミユの叫び声が聞こえる。だがボクは、その声に耳を貸さなかった。


「大丈夫、一瞬で終わる」

今のボクにはミサイルがゆっくり進んでいる様に見える。自信が心の底から湧き上がる。


ボクはcapsuleの右腕を剣に変形させ、ミサイルを真っ二つに斬った。

二つに割れたミサイルは、ボクのcapsuleの両脇を通過し、後方の平原に墜落し爆発した。



「……スゴい」

ミユの嘆息が聞こえる。


ボクの興奮は頂点に達する。

「さあ、演舞の始まりだ!!」

ボクは決め台詞をカッコ良く言ってのけた。(ミユは鼻で笑ったが)



ボクのcapsuleを防衛基地めがけて急降下させた。兵士達が慌てて準備する姿が見えたが、それには目もくれず、右腕の剣で、基地ごと二分した。


だが、一つの基地を破壊しても、この国境線には無数の防衛拠点が存在する。森林内に至っては何処に有るのか分からない。


ミサイルが一斉にボクとミユのcapsule目掛けて発射される。だが、ボク達は空高く急上昇し、迫り来る弾幕をヒラリヒラリとかわしていった。目標を失ったミサイルは、次々と地に墜ちていった。



「今度はこっちの番だ」

そうボクは言い放つと、ミサイルの発射準備で忙しい基地達目掛けて再び急降下した。ボクのcapsuleの右腕の剣を10m程度まで長くし、森林ごと斬った。


すると、丸裸になった森林に、4〜5発のミサイルが現れた。そのミサイル達は用意周到に、地上に設置されておらず、地下から発射するものであった。



「生意気な奴らだ」ボクの頭に血が昇る。正々堂々と勝負しない狡猾な態度に。


後は任せて、とミユは基地から離れることを勧める。

ボクはその勧告に従い、基地からある程度の距離をとる。


ミユはボクが離れるのを確認すると、ミユのcapsuleから無数の針が生えてきて、その全ての針の先が基地の方向を指した。


「一斉射撃、『ニードルインフェルノ』!!!」

その叫び声と共に、森林にあった基地だけでなく、国境に沿うように配置された基地にも針による攻撃が加えられる。


ミユから発射された針が基地に当たる。すると、半径5m程度の爆発が建物や兵器を焼却していくではないか。


「スゴい!スゴいよミユ!!!」

ボクは思わず歓喜の声を上げた。



国境沿いの基地はほぼ全て破壊され、ボク達に向かっての攻撃は無くなった。




「じゃ、行きますか、首都」

ミユはゴキゲンである。

だが、ボクは内心複雑であった。


故郷である首都エルべスタに攻撃を加えるということは、今まで生きた証しを自ら抹消することと同じだ。

いくらイオが大事だからといって……


ボクはどうすれば良いんだ。






10分もしないうちに、首都郊外に着いた。

相変わらず閑静な住宅街が大きな道路を挟んで整然と並んでいる。この住宅街を抜けると、ガラス窓が眩しいビル群が乱立する中心部に辿り着く。


だが、住宅街に入る道路には既に戦車や対空ミサイルが配備され、物々しい雰囲気を漂わせている。

ボクらは住宅街に侵入を試みる。



それと同じくして、彼らが、ミサイルの発射準備を始めた。



相手にならない、とミユはボヤキながら、地上に向かい急降下した。

一瞬の油断も許さない緊張感がボクを襲う。それと対称的に、ミユはこういうことに手馴れているのか、リラックスしている。



迷っている時間は無い。やらなきゃやられる。




ボクもミユに続いて地上に急降下しようとした、その時。



突然サイレンが鳴る。


あの日のように。



それと同時に、どす黒いカラーに、角張ったフォルム、肩から巨大なスピアーが飛び出ているヒト型のロボットが3機、こちらに向かって、基地から発進する。


すると男が、

『あれがスフィアだ』

と一言添える。



スフィア?

一体それは何なんだ?

ヱイラ国民だったボクでさえ分からない。国民に知らせず秘密裏に開発されていたのか。


『気を引き締めて行け。何が飛び出すか分からんぞ!』

男の助言にボクは動揺する。



冷や汗が、髪の毛から滴り落ちた。




基地から発進して、何秒も経たないうちに、ボクらの目前まで迫ってきた。


突然ミユが、

『先に1機破壊してくる』

と言って、ボクの傍から離れる。


「おい、勝手なマネするな」

思わずボクは一喝した。だが、ミユは、止まろうとはしなかった。



急に雨が降り出す。地面に水滴の当たる音が張り詰めた空気をほぐす。



ミユは、スフィアの先頭の機体に攻撃を仕掛けようとする。

全身から針を出し、目標を定める。全ての針が先頭のスフィアの方を指す。

ミユが針を発射しようとした、


その時。


スフィアが、右肩のスピアーを左手で引っこ抜き、急加速してミユを襲う。


距離は、既に100m程。


ミユは反射的に針を、迫ってくるスフィアに発射する。

だが、そのスフィアは、スピアーで針の軌道を反らし、軽々と攻撃をかわす。


『……くっ』

無線越しに、ミユの歯ぎしりが聞こえてくる。



そして、スフィアは、ミユのcapsuleを一突きしようとする。が、



「そんなことはさせない!!」

ボクは、スフィアに倒されそうになっているミユの姿を、見ていられなくなった。

気がつくと、ミユを庇って、ボクのcapsuleの右手に、スフィアのスピアーが刺さっていた。


右手に激痛が走る。精神がcapsuleと一体化している、というミユの言葉は本当だった。


ミユは地面に突っ伏したまま、動かない。


スフィアは、ボクの右手にスピアーを刺したまま、直立不動になった。



ボクは、どうすれば良いんだ?



もし、ここでミユを助けるのであれば、スフィアの攻撃をいっぺんにボクが引き受けることになる。

一方、正面にいるスフィアの相手をすると、他のスフィアがミユを襲撃することになる。




ここは、やっぱり……





ボクは、右手に刺さったままのスピアーを握り、手前に引き寄せ、勢い良く相手の足をくじかせる。

正面に居たスフィアは、ボクの策にハマり、地面に引き寄せられたまま、立ち上がらない。


ボクは、この隙にミユを立ち上がらせる。


「大丈夫か」

ボクが、ミユに穴の空いた右手を差し出す。

『……ありがとう』

けなげな、純粋に可愛い声。ボクは思わず、義理だ、と言ってしまった。





その後ボク達は、残りの2機の破壊の体制を整えた。だが、


『お前らが倒したスフィアのパイロットの回収が済んだら、サッサと撤退しろ』

突然の男の命令に、ボクらは納得出来るはずがない。


「まだボク達は戦えます!」

『無理だ。capsuleにガタが来てる。無理し過ぎたんだ』

ボクの意見は、一蹴された。




早く回収しろという男。スフィアと戦いたいボク達。

意見の二項対立。


ボクは、どちらか選択することを躊躇っていた。


だが、ミユは迷わなかった。



『私が回収します』


そう言って、倒れているスフィアに近づき、背中に手を入れる。

その光景を見て、他のスフィアがこちらに向かい始める。


ボクは、とっさに、2機のスフィアの足止めに向かう。

その時、


『回収出来ました』

ミユが無機質に報告する。

ボクはスフィアの両足を剣で切り落とし、ミユの方へ向かう。


ミユが、スフィアのパイロットを取り出す。


『この人、ポニーテールなんだ。私より美人じゃない』

ミユが、パイロットに嫉妬している。恐らく女だろうか。


『なに?どれどれ』

ボクは、ミユのcapsuleの手中にあるその女を、恐る恐る覗き込んだ。




「え?」

ボクは絶句した。


それもそのはず、スフィアに乗っていたのは、そこにいるはずのない、









イオだったのだ。






〈終〉










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ