第六話 嘘
第六話
嘘
capsuleは快調に飛行する。
ミユから、体大丈夫か、と聞かれた時は内心ドキッとしたが、大丈夫だよ、と伝えると、ミユは朗らかに笑った。
だが、出発する前、ミユは憂鬱な顔をしていた……
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発進前
ネオジオ国
capsule格納庫内
ボクは静かにコックピット室に向かってトボトボと歩いていた。
もう直ぐ着く、という所で、ボクに後ろへ引き寄せられるような感覚が服から伝わってきた。
そこで後ろを振り返ってみた。そこには今にも泣きそうになっているミユがいた。どうやら、どう声を掛けたらいいか分からなかったので、無理矢理ボクの服を引っ張ったようだ。
「どうしたの」
ボクが優しく話し掛ける。
すると、ミユは顔を歪ませて大粒の涙をこぼし始めてしまった。
「ジョンが……」
鼻水をすすり、涙を拭きながら苦し紛れに叫ぶ。
「ジョンがどうしたんだ?」
ボクは内心戸惑っている。
「……どこにもいないの」
まさか、あの時の、ボクを庇った時のあれが原因?
いや、それは有り得ない。
だって、capsuleは遠隔操作だから、人がどうこうなることなんか無いはずなのに。嘘に決まってる。
「何冗談言ってるんだ」
「冗談じゃないもん!!」
ミユは体を上下に激しく揺らし、ボクに訴える。
ボクは、何て言っていいのか、一瞬戸惑った。
「だってcapsuleって無人遠隔操作だろ?なんで運転してる本人が失踪しなきゃなんないんだ?」
ボクはミユに疑問を突きつける。
だが、ミユは微笑した。
「知らなかったの?capsuleと操縦士の精神はリンクしているんだよ。だからcapsuleが完全に破壊されたら、その操縦士は廃人になるの」
突然こんな話をふっかけるミユには、いつも驚かされる。
だが、そんな話は一度も聞いたことない。あの白衣の男からもそんな情報は伝えられなかった。
だからどうしろっていうんだ?
今からどうこう出来る話じゃ無いだろ?
「何で自分の精神とcapsuleを繋げなきゃならないんだ」
ボクは血が滲み出る程に拳を握り締めた。
だが、ミユはそんな様子に見向きもせず、こう言い放った。
「capsuleはAIを積んでいる。だけど自律行動するためには知恵がまだ足りないの。だからcapsuleはキミの思考を学習しているんだよ」
ボクは唖然として、しばらくその場から動く事が出来なかった。
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capsuleの飛翔音が耳障りだ。
雲はだんだん厚さを増していく。
capsuleが人を学ぶ?
一体どういうことなんだ?
capsuleって一体何なんだ?
思考が堂々巡りを繰り返す。
ダメだ。ここで迷ったら、今までやってきたことが水の泡だ。落ち着け。ボクはcapsuleがどうだろうと戦わなくちゃいけないんだ。
信念を曲げたら、ボクの存在意義が希薄になる。
この不安に飲まれるな。ボクはボクだ。
そうこう思案しているうちに、国境近く迄来た。
国境界隈は、芝生が生い茂り、ヱイラ国側に行くと、ちょっとした森林があり、その5km先に首都がある。
国境防衛基地と首都は幹線道路で接続しており、弾薬の補給などが容易に出来るようになっている。
前回の奇襲では反応がなかったヱイラ国の防衛システムが、今回は機能しており、随分と機関銃の音が鳴り響くようになった。
前回の反省を踏まえ、国境線の防衛を厚くしたのだろう。
突然機関銃の音が鳴り止み、一発の小型ミサイルが、森林の中から発射された。
デジャヴだろうか。こんなことが前にもあったような気がする。
ミサイルが、ボクのcapsuleに1km迄迫ってきた。
前はジョンに助けられて何とかなったのかもしれないが、今度は、そうはいかない。ミユに守ってもらうなんて、言語道断だ。
ボク自身が成長しなきゃいけないんだ。
ボクがしっかりしていれば、ジョンは……
無力。
ボクはいつだって何も出来なかった。いつも後悔ばかりしている。ボクが弱いから。
全部ボクの責任だ。
だから、ボクに力を。これ以上、何も失わないで済む程の力を。
力が……欲しい!
その時、コックピットが七色に光り出した。その光はボクの視神経を焼き切らんとする程強く、瞼を閉じても光が入ってくる。
「……うっ」
ボクのヘッドフォンから、不思議なことに、ボクの声が聞こえる。
「ようやくキミは力の存在を自覚したようだね」
その声は、上機嫌で語りかける。
何が何だかボク自身分からない。
何で自分の声がヘッドフォンから聞こえるんだ?
何でコックピットが光ったんだ?
その疑問には、ボクの声が答えてくれた。
「キミ自身が成長したんだ。だからそれにcapsuleが応えただけだよ」
ボクは問う。
「キミは一体誰なんだ?」
その声は引き笑いしながらこう答えた。
「capsuleの中のもう一人のキミだよ」
ボクの中に戸惑うボクも居たが、それ以上に歓喜に震えるボクの方が大きかった。
次回予告
覚醒したcapsule。圧倒的な力を見せつけるスミの前に現れる最強の敵。
次回
スフィア