終焉話 Your smile
既にヱイラ・ネオジオ反逆軍は首都セングーレを圧倒的な戦力を以て占領した。残るはヘンリ現神の在らせられる地下施設のみだ。
「そっちは大丈夫か?」
スミは首都の建物の中から、住民や捕虜にした兵士の証言を元に、地下施設への入り口を発見し、先行している。その中の様子をアルに伝える。
「大丈夫」
中は暗闇であるが、地下へ続く階段以外は何かある訳でもなく、兵士の気配すらない。ライトで足元を照らしていれば何も問題は無さそうだ。
「よし。突入!!!」
アルの号令と共に、連合軍の兵士達は地下道へなだれ込んだ。
地下道の階段は螺旋上になっている。コンクリートで固められた通路に電灯は無く、監視カメラが10m毎に天井付近に設置されている。深さの表示がこれも10m刻みに、蛍光塗料で壁に描かれている。
延々と螺旋の階段を駆けているため、方向感覚が定まらなくなる。ロードランナーを走らされているような感覚。どれほどの深さがあるのだろうか。捕虜の兵士によると、地下500mの所に存在するという。この基地に、住民を一切避難させていないという。住民は放って、保身のみを考える長が、存在して良いものか?
「そろそろ見えてきたぞ」
深さ表示がついに490mになった。もう直ぐだ。
全ての階段を降り切ったところに、鉄製の扉がある。指紋認証やカードキーなどのセキュリティがあるが、これをアルが難なく解除する。
重く鈍い動き。金切音を響かせ、その扉は開く。
「な・・・・・・」
そこに広がっていたのは、無数の兵士の死体と、ヘンリ現神の笑い声であった。
「アハハハハハ!ようこそ、我が根城へ」
ヘンリ現神は両手を広げ、歓迎の意を表した。
「お前、人の命を何とも思ってないのか?!」
スミが辺りの光景を目にし、堪らず叫んだ。
「何を言っている?君だって、人、いっぱい殺してるだろう?」
ボクはその言葉で我に返った。ボクは確かに多くの人の命を奪った。だが、それはイオを救うためにやったことだ。ボクは正義を行った。ボクの良心に基づいて行動した。それの何が悪いというのだ?
「君が人を殺した、という事実は一生君に付きまとう。一時の感情に身を任せ、誰かの為という傘を着て、我と同じことをしたのではないのか?」
今まで、そのことにボクは目を背けてきた。結局、ボクはこいつと同じようなことをやっておきながら、叱責した。ボクにはそんな資格は無いというのに。なら、ボクが今までしてきたことは無駄だったのか?
「……ボクは、ボクがやらなければならないことをやったまでだ。お前みたいに目的も無く殺しはしない!」
「なら、目的のある殺生なら許されると?」
「そ、そうだ!誰だって、人間以外も、虫とか、害になるとか言って殺している」
「ほう、人間以外なら殺しても良いと?なら、それは君、矛盾だよ」
「この世に奪って良い命など、存在しない。そうだろ?」
「それこそ、矛盾している!お前は、こうして多くの命を奪っている!」
その言葉を待っていたかのように、上機嫌に笑みを浮かべ、ヘンリ現神は高らかに叫ぶ。
「ハハ八ハハ!!我を誰だと心得る?我はこの世に存在する唯一の神だからだ!裁きを与えるのは当然だろう?」
「なら、その傍若無人な神に裁きを与えるのは、ボクラの使命だ!!!」
スミは持っていた短刀を取出し、両手で構え、一直線にヘンリ現神の胸元へ突進していく。それは一瞬の出来事で、その場に居る者は圧倒され、微動だにしなかった。その短刀の行く末に、全神経を集中させているのだ。これが成し遂げられることになれば、世界が変わるのだ。
スミの短刀はヘンリ現神の目前まで迫った、その時。
「本当にそれでいいのか?君の母さんがどうなっても?」
スミはその言葉を聞いた瞬間、手元が狂い、短刀はヘンリ現神の腕をかすめた。直線状の創傷が刻まれる。今まで暗闇に包まれていたヘンリ現神の後ろのガラス扉の向こうが照らされる。そこには、四肢を縄で縛られ、傷だらけになっている母の姿があった。
「お前、オレの母さんに何をした!」
「何も。只、息子さんについて何も話して下さらないから、ね」
「貴様……」
スミは短刀を捨て、右手に拳を作り、体を思いっきり捻じり、ヘンリ現神の頭に直撃させた。そしてすかさず、胸倉を掴む。
「おい、どういうことだ。説明しろ」
「威勢の良いこと、威勢の良いこと。それ以上暴れたら、どうなるのかな、君の母さん」
その言葉に再び我に返る。凝縮していた右手が即座に弛緩する。
「母さんが何をしたっていうんだ?!」
「君の母さんのしたことは、実に偉大なことだ」
ヘンリ現神は、続けて次のように話した。
スミの母ことサヤカは、かつてネオジオ国でも名高い機械技師であった。あるとき彼女は気づいてしまった。自らの行っている研究はひょっとして世界を変えられるのでは?そう気づいた時には、最初のcapsuleの設計図は完成していた。彼女は自らの可能性に陶酔していった。数々の兵器開発を務め、みるみるうちにヱイラ国の力は増していった。しかし、その兵器に使われている素材は人間から取られるたんぱく質と伸縮性に優れる金属を混ぜたものだった。これにより伸縮自在になり、様々な攻撃方法を可能とした。スミが人殺しに利用されたのも新機体を作成する素材を収集する為であった。その研究に国も陶酔し、他の研究者が技術と功績を奪い、突然彼女を放逐した。その研究者というのが、他でもない、アルのことである。彼女は志半ばで研究所を追い出された。失意と挫折の内に彼女は結婚を果たし、スミが誕生した。夫は亡命してきた元ネオジオ国民で、こちらも研究者であったという。しかし、彼はネオジオ国からの技術スパイであった。彼女の類まれなる才能を知っていた彼は、新たな兵器の開発に取り掛からせた。そうして誕生したのが、capsuleやセングーレである。
そして時は経ち、スミの両親は自宅にスミを一人置いて何処かへ行ってしまった。それと時同じくして、アルも陰謀の件が明るみに出て、放逐され、ネオジオ国に匿われることになった。それが1年前のことであった。
「今では我々の力になって貰っているという訳だ」
とどのつまり、サヤカはネオジオ国に拉致されていたということだ。
スミは、何も言わず、短刀を取り、ヘンリ現神の頸動脈を掻き切った。涙と笑顔が入り混じっていた。
「さようなら」
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その後
ヱイラ国
ある家
「おはよー!朝だよ」
スミが目覚まし時計が鳴ったにも拘わらず、一向に起きてこないので、イオがスミの肩を揺さぶって起こしにかかる。
「……んん、まだそんな時間じゃないだろう?」
時刻は6時30分。身支度等を考えると、そろそろ起床しなければキツイ時間だ。
何かに驚いたように上体を起こすと、イオがビクンと跳ねる。
「ちょっと、驚かさないでよ~!」
イオはやり返さんとばかりに、スミの頬を人差し指で突く。
「驚かす気は無い。絶対にだ」
こんな応酬を毎朝繰り返している。
あの戦乱の後、スミは裁判にかけられた。罪状は殺人であったが、アルの供述により詐欺に遭っていたことから、終身、国への労働奉仕により型がついた。スミの母であるサヤカは元のさやに納まり、国の研究所勤めとなった。イオは、戦争後軍を退役し、入籍した。お相手はもちろんスミである。
ネオジオ国の研究所の方々(アル含む)は、全員自らの意思で国に反逆したということで、日も経たぬうちに絞首刑となった。ただパイロットのジョンとミユはスミと同じく拉致されて騙されて働かされていたということで、二人は終身刑となった。
ヱイラ国は戦争の結果を受け、ネオジオ国との併合を宣言。島一つがヱイラ国で統一された、歴史的瞬間であった。今ではすっかり平穏を取り戻しているが、ネオジオ国の戦争による荒廃は予想以上で、復興には時間が掛かるとのことである。
スミはある意味サヤカの功績に守られる形で、ある程度の自由を獲得したのである。
そして二人は念願のヘイロウ島へのハネムーンを見事果たした。二人は終始、仲睦まじかったという。
終焉話
Your smile
<capsule 完>