第弐拾弐話 asobi
<ネオジオ国観光案内用PVより>
白いフエルトのベレー帽に、真っ白の絹からできたワンピースを着、金色の「現神様の為ならエンヤコラ」と刻まれたリストバンドを付けた女がこちらを向き、微笑みかける。
「みなさんこんにちは。今日も素晴らしい一日が始まりました」
「これから、この国の神々しさを、何も知らないアナタにこっそりお教えしましょう」
動画。首都ペスカトーレの市内の様子。高層の建造物は中央広場の櫓と「現神像」のみで、他は白いレンガからなる住宅と墨で塗りたくったような黒色の工場が網目状に整然と並んでいる。そこを縦横無尽にさっきの女が飛び回る。
「こちらは、現神様のお導きによって作られた近代都市ペスカトーレです。このマチには「囚人」たちの奉仕により、ゴミ一つ落ちていません」
車道と歩道。車道はコンクリート、歩道はタイルがそれぞれ敷き詰められている。そして何故か知らないが、キラキラのエフェクトが映像に付加されている。
次に映ったのは、現神の肖像画。胃がムカムカする程の自信に満ちた笑みを浮かべている。
「この方が、我が国を統率する、すべての神の末裔であらせられる、ヘンリ現神です」
PVの最後は、この言葉で〆られた。
「我々が全世界に平和と秩序をもたらす」
第弐拾弐話
asobi
ネオジオ国
首都ペスカトーレ
「おそうじのじかんです」
町内放送ではそう言っていた。
ここで言う「おそうじ」とは、敵を迎撃するという意味である。普段は別として、反逆者を処刑するという意味合いで使われている。
「お…おそうじ」
既に「おそうじ」という言葉に恐怖を植え付けられている庶民達は、その場で泣き崩れたり、高台へ避難したりなど、千差万別の行動をとり始めた。
町中にサイレンが鳴り響き、それと同じくして道路に丸い大きな穴がいくつも開き、そこから自称「神の使い」が出てくる。
「悪を滅せよ!悪は天罰を受けて地獄行きだ!!!」
そんな威勢のいい掛け声が飛び出し、それらは翼を広げ空へと飛んで行った。
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ネオジオ国
研究所
「っど」
奇妙な呻き声を上げる、アンとヤン。
「ケヘ」
狂った叫びを発し白目を剥く、バルケス。
指令室の中で、この恐怖に飢えた者たちが闊歩し、死ぬときをボクらは今か今かと待っている。正確に言うと、待っていることしかできない状態に陥っている。既にイオが被害に遭っているようだ。先程イオの
悲痛の声が耳元でハウリングを起こした。それで分かった。
不思議なことに、それ以降沈黙が続いている。
一体奴らは何を狙ってこんな行動を起こしたのか。何か行動を起こすためには、何らかの理由が必要である。それを推理すれば、次にボクらがすべきことが見えてくるんじゃないのか?
状況を整理しよう。
まず、いけ好かない中年ヒゲダルマがモニタでボクらに宣戦布告をしてきた。そして鈴を鳴らし、アン、ヤン、バルケスの3名にあらかじめ仕掛けておいたであろう暗示を発動させた。その後、停電し、誰も身動きが取れない状態になっている。
つまり、この状況を作り出すことが、奴らに討ち入り等の目的があるとするならば、この沈黙は相手の思惑通りに事が運んでいることになる。最悪の状況である。
何か行動を起こさなくては。
今まで何も出来なかったボクだけど、こんな時位頑張んなきゃ、一生屑の儘だ。
イオを救えなかった。ヱイラ国を見殺しにした。戦うことを躊躇った。
今までのボクは逃げてばかりいた。
今までのボクは誰かに依存して生きてきた。
これからのボクは、誰かのために、イオでもアルでも、尽くしたい。
役に立つ人間になりたい。
そうすれば、今までの死が無駄でなくなる。
ボクが殺した者の為、ボクが迷惑をかけた者の為。
ボクは勝負に出なきゃいけないんだ!!!!
すぐさまボクは、腹這いになり、匍匐前進を始めた。
「おや?」
その気配は、勘の良いバルケスに感知された。
早く電気室迄行かなければ、この状態で奴らの攻撃を受けたら犬死するのみだ。
ボクは慎重且つ迅速に移動する。
しかし、どうしても衣服の擦れる音が出てしまう。
「ここか?」
足音が近づいてくる。
ココで見つかったら、元も子もない。
「ここだろ?」
目前まで迫る。
仕方ない、と半ばやけっぱちになり、ボクは服を脱ぎ捨て、足音のする方へ投げ捨てた。
「な、なんだこれ!」
服の対処に相手が手間取っている間に、ボクは指令室を抜け出すことに見事成功したのである。
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ネオジオ国
現神祈り会館
神殿室
この現神祈り会館が、ネオジオ国の事実上の軍事司令室である。
「配備、完了」
一兵卒が、現神に報告。
「よろしい、全軍に告ぐ。研究所の人間は、一人残さず皆殺しだ!!!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
現神の勇ましい言葉に、兵士たちは狂気乱舞した。
<終>