第弐拾壱話 終わりと始まりと、世界というもの
第弐拾壱話
終わりと始まりと、世界というもの
ネオジオ国
首都
ペスカトーレ
「諸君!御加護の時である」
偉そうなヒゲ男が、神殿の前の大きい広場の櫓で、民衆に対して高らかに叫ぶ。
「先日、神殿にてステンプルの儀式を執り行った」
その言葉に、民衆は動揺する。
「西方より、大災厄来る」
その言葉を聞いた瞬間、民衆は右往左往とし始め、その場で泣き崩れる者まで出ている。しかし、そんな状況に対しても、ヒゲ男は眉一つ動かさない。
「静まれ!!大災厄は必ず我々ケンチオール大司教団が撥ね退けてみせよう。皆の者、安堵せよ。我々が居る限り、皆は苦しむことは無いのだ!」
民衆はその言葉に歓喜した。
「ヘンリ現神万歳!ヘンリ現神の御加護あれ!」
民衆は、ヘンリ現神を称える言葉を矢継ぎ早に叫ぶ。その様子を見て、ヘンリ現神は右手を振り上げ応える。
「それでは、ケンドゥセの剣を借りて、悪魔を淘汰することを宣言する」
そう言い残し、ヘンリ現神は櫓を降り、そのまま白いリムジンに乗り込んだ。
ドアを閉め、シートにドッカと腰かける。その瞬間、今まで市民に向けて浮かべていた笑みは、みるみる内に憎悪の顔に変ってしまった。
「ふっ!市民など操るに容易い愚民共だ」
ヘンリは嘆息し、スモークガラスから、市内の景色をながめた。
「研究所の工作員から、何か報告は?」
向かい合って座っている黒服の男に尋ねる。
「はい。無事に全員潜入完了とのことです」
ヘンリは不気味な歪んだ笑みを浮かべ、こう告げた。
「では、これより『聖戦』を開始する」
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ネオジオ国
研究所
指令室
スミは、アルの口から語られた事実を、指令室のドアの前で一つも漏らさず聞いていた。
目を覚まし、この研究所が緊急事態に陥っていることをサイレン等で知り、アルに指示を仰ぐために、指令室まで赴いてきたのである。
一体どういうことなのか?ボクの母さんがcapsuleを作った?
そんな話、信じることは到底不可能だ。第一、母さんは普通に会社に勤めていて、普通に家事をこなし、普通にボクに接している。そんな母さんが、あんな殺人兵器を作れるはずがあるまい。
ボクは我慢ならなくなり、指令室の中へ飛び込む。
「ボクの母さんを侮辱しやがって!!許さないぞ、アルっ!!!」
その叫び声に、その場に居合わせていたヱイラ国の軍隊の人々の注目がこちらに行く。
その軍隊の人の中に、もちろんイオもいた。ルータも。
「今は君如きの相手をしている暇は無いんだ。とっとと失せろ」
今までボクに優しくしてくれたアルだが、今の表情にその面影は無い。
「何で?ボクに今までそんな話、微塵もしなかったじゃないか!」
「お前には、知って欲しくなかったんだ」
アルの瞳が、赤く染まる。
確かに、ボクに対してcapsuleの説明が余り真面目にされていなかったのも、そうした配慮からなのだろう。ボクは、意図された善意によって、利用され突き動かされてきたのだ。
「ありがとう。ボクも、これであれについての合点がいった」
「そうか、それは……良かったな」
時間差はあるものの、ボクの母とアルが共同で開発した『capsule』。
これから、こいつはどうなっていくのだろうか。
只の殺戮マシンとしてその名を轟かせるのか。
それとも、世界を救った救世主として崇められるのか。
どちらにしろ、ボクは最後まで見守る必要があるようだ。
そう納得し、そろそろヘスたちのお見舞いと謝罪をしようかと思っていたその時。
何も映していなかった巨大スクリーンに、ヒゲを立派に蓄えた中年男性の笑みが映り出した。
「やあやあ、侵略者及び裏切り者の諸君!これより、ワタクシが用意したゲームに参加してもらいたいのだが、当然返事はイエスだろうと思う」
ヒゲおやじは、勝手にペラペラと語り始めた。
「ワタクシからは、素晴らしい騎士たちを君たちにプレゼントしよう。行け、我が騎士たちよ!!!」
ヒゲおやじが、おもむろに胸ポケットからベルを取出し、優しく鳴らした。
すると、アン、ヤン、そしてバルケスが頭を抱えて床に転がり悶絶し始めた。
「さあさあ、君たちの頑張りに期待しているぞ。ハハハハハハ!!!!!」
唐突に、スクリーンが切られた。
それと同時に、施設の電源が切られた。
時刻は既に夜。
何も見えない中、手探りで仲間を探していると、突如、遠くの方からけたたましい、おそらくイオの、叫び声が聞こえてきた。
「大丈夫か?」
ボクは、姿無き被害者に遠くから声を上げる。
しかし、返答は無い。
その代わりに、足音がだんだん近づいてきている。
「来るな!!!!」
だが、遅かった。既に暗闇にされた時点で雌雄は決していたのかもしれない。
ボクは、その靴音から逃れられず、首に勢い良く棒のようなもので叩き付けられ、床に吸い寄せられてしまった。
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ネオジオ国
秘密地下軍事施設
「グラン・ローマ」
「セングーレの調整は上手く言っているか?」
ここでいうセングーレとは、軍事用人型戦闘用兵器のことである。
兵士たちは、正常に動くかどうか、検査していたようだ。
「緊急命令!緊急命令!スクランブル発信。目標、特別遊撃研究所」
「サー!!!ハイルヘンリ」
お決まりの掛け声をしたところで、全員、セングーレに乗り込む。
細いフォルムに強靭なボディ。ほぼcapsuleの受け売りだが、遠隔でなく直接操作というところが大きな違いだ。
「行け!ヘンリ現神のために、死しても勝利をもぎ取るのだ!!!!」
指揮官の声が基地中に届き、兵士たちは射出口へ走っていった。
<終>