第拾九話 急転直下
第拾九話
急転直下
AM0850
ヱイラ国攻撃開始
「オレが先に行って手本見せてやる」
バルケスは、そう鼻高々に宣言した後、capsuleへと我先に飛び込んだ。
既にcapsuleの行動パターンは予測済み。奴らは遠隔操作で、動きに若干のラグが生じる。だから、こちらがそのラグを上回るスピードで襲いかかれば奴らは反撃出来ず、確実に倒せる。
その為に、ヱイラ国はスフィアを新調し、ブースト機能を追加し、軽い素材への変更等で機体が更に高速で動けるようにした。
これで、奴らの息の根を止められる。
バルケスは、スフィアの右肘にあるブーストを解放し、目前に迫って来ているcapsuleの頭部を一突きし、前方に放り投げた。capsuleは為す術無く、地面に勢い良く叩きつけられ、微動だにしない。
それに続いて2機のcapsuleがこちらにやって来た。それを迎え討つのは、息ピッタリの双子アンとヤン。2人はそれらのcapsuleに対し、ブースト機能をフルに生かし、超高速で接近した。そして、両腕をタイミング良く交互に且つアットランダムにcapsuleを刺していった。capsuleの両腕が微かに震えているのを2人は嘲笑し、
「弱すぎ」
あまりの手応えの無さに、アンとヤンは溜め息をついた。
更に前方に1機のcapsuleが居るが、何故か先程から立ったまま動かない。
「サッサと片付けようよ」
何も仕掛けて来ない敵に苛立ち、先程capsuleを倒したスフィア3機は、その1機に襲いかかった。今迄受けた屈辱を晴らすかのような、一方的な容赦ない攻撃に、敵は為す術も無く、粉々に砕け散り、まるで鳥葬された格好となった。
「つまんねえ!もっと強え敵はいねえのか?」
バルケスは、高笑いし拳を手のひらに思い切りぶつけた。
するとイオが、
「待って」
とメンバーの勝利の余韻に水を差すように、小さく震えた声で言い放った。
「まだ一機足りない」
事前に仕入れた情報では全部で4機のはずなのだ。しかし、倒した数は3機。何故か1機だけ出撃していない。
一体奴らは何を企んでいるのだろうか……
「とりあえず厳重に警戒しつつ、研究所に侵攻する」
スフィアの一団は、見事なまでの逆襲を果たし、意気揚々と研究所へと侵入していった。
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AM0910
ネオジオ国
第3緊急治療室
緑色の人民服を着せられたボクは、集中治療を終え、意識を取り戻した。何時間ここに居たかは、時計がこの部屋に存在しないので分からない。
先程から止まることのないサイレンが耳の中でハウリングを起こす。そして無機質な機械音声によって、敵が侵入してきたことを告げる。恐らく、先のネオジオ国の奇襲に対するヱイラ国の報復で、それに対し、ボクの仲間達が応戦していることだろう。
ボクは只、ここに居ることしか出来ないのか。茫然と彼らの戦いを見守る事しか出来ないのか。
……ボクが出たところで、なんになる?ボクは、殆ど戦闘経験が無いままcapsuleを操縦した。只幼なじみを救う為にひたすら人を殺した。しかし、結果的にはそれに意味は無く、虐殺という事実のみが残った。
元々はアルの嘘から始まったんだ。更にアイツはボクを実験台に使った。そんなことをしてきた奴を、本当に信用できるのか?普通に考えれば、無理な話だ。
しかし、アルにはヱイラ国での危機を救ってくれた借りがある。わざわざ危険を冒してまで救いに来たのだから、ボクを不用意に殺したりすることは無いだろう。少なくとも、今の状況だとこちらの方がボクにとっては安全であると言える。
居候させてもらってるんだから、何か役立たなきゃ釣り合いがとれない。……こうしちゃいられない。capsuleでみんなを援護しなければ!
ボクは、部屋から出て、一目散にcapsule格納庫へと向かった。
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AM0905
capsule格納庫
「やっぱり」
イオは青いビニールシートがかけられたcapsuleを見て確信した。一機故障していて動けない。恐らく、この研究所からのこれ以上の反撃はないだろう。
スフィアのパイロット達は、機体から降り、拳銃片手に正面の扉を開け、研究所の内部への潜入を果たした。
中では、赤いパトライトが回転して、緊急事態であることを淡々と伝えていた。
構造図までは、諜報活動で得られなかったので、近くの非常口案内の看板に載ってるもので代用する。それを見る限りでは、格納庫から真っ直ぐ続く廊下の突き当たりに、この研究所の本部があるようだ。
「ついに、総大将のお顔拝見か。ワクワクするぜ」
バルケスは、口角を上げ、遠くを見詰めるような目つきをしている。
他の3人は、緊張からか、体が硬直している。なので、イオがその緊張をほぐしてやろうと躍起になった。
「じゃあ、この作戦終わったらさ、私がみんなに好きな物買ってあげるよ」
メンバーの注目が一気にイオに集まる。
「よし!その言葉絶対忘れないからね」アンとヤンは、満面の笑みを浮かべる。
ルータはというと、にやけながら何かブツブツと唱えている。
「じゃ!中に入りますか」
皆の緊張も解けたようなので、作戦に戻る事にした。
カウントダウン
3
2
1
GO!
本部に無事入ることが出来た。しかし、本部に居たのは、何故かアル只1人であった。
「さーて、何から話そうか」
〈終〉