第拾八話 決戦、再び
第拾八話
決戦、再び
ネオジオ国
指令室
状況は、あまり芳しくはなかった。
既に敵は国境を越え、着々と基地に接近している。
現在ネオジオ国側が対抗し得る手段は、軍隊による射撃とcapsuleの直接戦闘。capsuleを出陣させられるパイロットは、ジョン、ミユ、ヘスの3人。
ヱイラ国のスフィアは、恐らく前々から入っている情報の通り、5機で攻めてくるに違いない。
3対5。
いくら奴らが努力しようとも、数の力でねじ伏せようとも、勝てるハズがない。ヱイラ国とネオジオ国間の圧倒的な技術力の差。この一言に尽きるだろう。
我が研究所は、背後に山がある。おそらくあの連中は、3方向(前、横)から攻めてくるだろう。なので、前方にジョン、右と左にヘスとミユをそれぞれ配置することにしよう。
まず、近づいてくるスフィアをジョンが食い止め、ミユが遠距離から攻撃し、ヘスがジョンのバックアップに回る。
これでおそらくは、基地に侵入されることはまずないだろう。
策は十分に練られた。あとは、実行するのみ。
指令室の連絡用のマイクを使い、研究所各位に作戦を伝達する。
直接アルの口から、策の全容が語られ、職員達は血眼で準備を進める。
レーダー観測の結果、スフィアはあと30分でこちらに到達するらしい。
「急げば、ギリギリ準備が整うかな」
タバコに火を付け、口に含む。何故かこの味に慣れているはずなのに、いつもより苦い味がした。
「ったく、自分の銘柄も忘れちまうなんて……」
――――――――――
スフィア内
『いいか、奴らは必ず研究所の前で、君達を足止めするはずだ』
ヱイラ国のスフィアの指揮官が、パイロット達に細かい指示を送る。
『そいつらを上手く相手して、突破しろ。練習でやったアノ戦法を思い出せ。お前らなら絶対に出来る』
イオはスフィアの操縦桿を堅く握り締めた。
操縦桿の直ぐ近くに、計器系統が集中している。速度や機体のダメージ具合をリアルタイムでモニタリング出来る。
見たところ、機体に残された燃料は残り85%。
長期戦に持ち込まれたら、恐らく全員戦えないだろう。
これ以上負けられない。
何しろ、ネオジオ国にヱイラ国は二度も襲撃され、敗北を喫している。今回負けたら、国民感情が悪くなるどころか、何をしようともネオジオ国に勝てない証明になってしまう。国を代表している以上、勝たなくては意味が無い。
国境を越えた途端、襲い掛かる無数のミサイル群。それをcapsuleのように華麗に避け続ける。
第一群を避けきった後、私はパイロット達全員に呼び掛ける。
「歯食いしばって、全力でぶつかれ!」
それに呼応し、シュプレヒコールが起こる。
『ヱイラ国に栄光あれ!』
絶対に勝って、全員生きて帰ろう。
その言葉は、今の良い雰囲気を壊しそうなので、胸にしまっておくことにした。
――――――――――
ネオジオ国
研究所
capsule格納庫
「本当に大丈夫なんですか?」
ミユは、コックピットの無線で訴える。
万が一研究所に侵入されたら、このコックピットを守る術がない。
そんな危機的状況を悲観することなく、アルはこう言ってのけた。
「大丈夫だ。お前らが全力で研究所を守れたらな」
capsuleの可動機体全機を前線に投入すれば、コックピットの警備が薄くなる。確かに、「攻撃は最大の防御」とかいう言葉はあるが……
「とりあえず、作戦を信用してくれ!何かイレギュラーが発生すれば、その場で何とかすれば良い」
いつもの調子で朗らかに言葉を紡ぐ。
スミを連れ出したあの日の時もそうだ。アタシ達にとっては初任務で、ガチガチになっていた体を言葉巧みに解してくれた。
だから、アルを信じることにする。
アタシにハッキリとした戦う理由は無い。でも、ここで出会った仲間といつまでも一緒に居たいから、ジョンにまだ気持ち伝えてないし、それに、アタシをアルが初めてアタシと認めてくれたから。
やりたいこともあるし、まだまだくたばる訳にはいかない。
結果的にみんなへの恩返しとして自ら戦うことを選んだ。
「だから、精一杯頑張んなくちゃ」
ミユの顔から、自然と笑みがこぼれた。
「パイロット各位、戦闘用意!」
アルは煙草を水の入ったバケツに投げ入れ、格納庫のシャッターを遠隔操作でゆっくりと開け始めた。
――――――――――
開戦
AM0830
――――――――――
AM0845
スフィア、研究所敷地内に侵入。
『ここからが正念場だ。気引き締めていけ!』
スフィアのパイロットに、緊張が走る。いつ何時capsuleと遭遇し戦闘に突入するか分からないからだ。
「周囲を隈無く警戒して」
アルは、スフィアの集団の先頭に立ち、他のメンバーに注目を呼び掛ける。
「……怖いです」
メガネをかけ直し、スフィアのパイロット、ルータが呟く。
「楽勝じゃん!張り切って行こーよ」
見事なシンクロで発言したのは、同じくパイロット、ショートヘアの青髪の双子、アンとヤン。2人とも、ピチピチの17才の女の子だ。
「ヒヒヒ、早く殺してぇ!殺したくてウズウズしてんだよ」
この会話に無関係な話題をねじ込んで来たのは、ロングヘアの赤髪の鋭い目つきの男、バルケス。空気を知らない奴なので、メンバーから村八分にされてるのも納得できる。
『コラーッ!みんな落ち着いて!』
気分が浮ついているメンバー達にイオが喝を入れる。
『もう目の前に居るよ、敵。油断してたら死ぬよ』
既に正面に、目視出来る所までcapsuleは接近していた。
アノ作戦を実行するには丁度良い。
『全員、エンジン出力をXからYへ変更。後、脚部の設定をCOに』
すると、スフィアは足を一つにまとめ、二足歩行から、ホバリングしながら前進するようになったではないか。
エンジンを使い、空気を大量にタービンで取り入れ、圧縮して足裏から勢い良く発射し続けることにより、スフィアの微弱ながらの浮上を可能にしている。
『ホバリングは5分で10%の燃料を費やすから、使い過ぎないで』
長時間使うと、スフィアが動かなくなってしまう。それだけは避けたい。
イオ達の作戦はまだある。しかし、それはもう少しcapsuleが接近してからのことだ。
――――――――――
AM0850
capsule、スフィアに接近。
「今だ!」
ジョンは先陣を切ってスフィアに飛び込んでいった。
絶対勝てる。そう信じ切って。
しかし、その願いは叶わない。
その瞬間、スフィアはいきなり凄まじい轟音を立て、空高く飛翔した。そして、見事にcapsuleの背後へと着地した。
「なんだこれは?」capsuleのパイロット一同、一体何が起きたのか把握出来ずにいた。
そうこうしているうちに、背後を取られたスフィアに、ジョンのcapsuleはスピアーで頭を一突きされた。
聞こえてくる、声にならない悲鳴。
次いで、ミユのcapsuleに二機のスフィアが接近。急いでニードルを生成しようとしたが、間に合わず、スピアーで体のあちこちをメッタ刺しされた。
涙で濡れる頬。その涙と堰を切ったように流れ出る鼻水、口から零れ落ちる涎が、ゆっくり顎から垂れた。
ヘスのcapsuleは、直立不動のまま動かない。
そこに、またスフィアが今度は三機がかりで跡形が残らない程に攻撃を加えた。
「capsuleが余裕でスフィアに勝てるんじゃなかったのか?」
目を見開いたまま、気絶するヘス。
こうして無情にも、一瞬にして出撃したcapsule全機共、土の味を覚えることとなった。
〈終〉