第拾七話 ボクとキミ
スミの逃亡後、イオは、以前より勤めていたスフィア特別攻撃隊(特攻隊)に復帰し、来たるべき日に備え、数々の試練をこなした。
特攻隊に所属し直接スフィアを操る兵士は5人だけなので、司令官の指示も行き渡りやすい。
「イオ一等兵!ブレーキをあまりし過ぎると後で止まれなくなるぞ。必要最低限の力を加えてて停止しろ」
「はい!」
「そこのメガネ!何度言ったら腕動かせるようになるんだ!」
「……すいません」
スフィアの仕組み、操縦のテクニック、他のスフィアとの連携など、多岐に渡った。
その結果、短期間ながらも、capsuleと善戦出来るレベルまで到達できた。
そしてついに、幸か不幸か、決戦の日を迎えた。
第拾七話
ボクとキミ
ネオジオ国
特別攻撃隊専用基地
スフィア整備工場
「整列」
凍てついた掛け声がこだまする。
「これより、ネオジオ国侵攻作戦を開始する」
指揮官が、紙に書かれた作戦内容を淡々と述べる。
今回の作戦の目的はcapsuleの破壊と技術の強奪である。
パイロットは、見つけ次第拘束及び連行。技術者も同様である。
今まで学んだ経験を生かせば、絶対にこの任務はこなせるハズだ。
そう考えると、自然と心が躍り出した。
「各員戦闘用意」
指揮官の指示通り、私はスフィアのコックピットに乗り込んだ。
スミは元気でやってるかな……
ふとよぎるそんな懸念が私の心に躊躇を作り出す。
私は、あいつとは違って国を背負って戦っているんだ。覚悟の度合いが違う。
何を躊躇う?
もう闘うと決めたのだろ?
国の為にスミを殺して、英雄になるんだろ?
そしたら、無罪放免になって、幸せに暮らして死ぬんだろ?
「違う」
私は、国の為に殺すんじゃない。自分の命が惜しいから闘うんじゃない。
あいつが私を救えると信じて殺された人達の為に闘うんだ。
あいつの罪を、スミの罪を、私が晴らす。これは、私の存在が引き起こした悲劇。あいつに死を与えれば、それで罪から解放される。
だから私がケジメをつける。
その時、タイミング良く、発進のベルがなった。
「イオ一等兵、只今より任務を開始します」
イオの乗ったスフィアは、勢い良く空へと飛び出していった。
―――――――――――
ネオジオ国
第3緊急治療室
何か温かいものにくるまれている感覚がボクに伝わってくる。
「ここは?」
何も見えない。
おかしい。暗闇しか見えない。
目が見えない?
いや違う。暗闇の部屋にいるのか。
部屋としては狭いので、恐らく治療カプセルの中といったところか。
何時間位ここで寝ていたのだろう。
あの、ボクの脳に何かが入ってくるような感覚。それを感じた途端、意識が途切れた。
ボクは、果たして無事なのか?
脳は、思考回路には、異常は無いのか?
……既にこう考えられる時点で無事を確認出来ているんじゃないか。
ボクは安堵し、再び目を閉じた。
――――――――――
ネオジオ国
研究所長室
アルはずっと頭のどこかに引っかかっている事案がある。
それはcapsuleとは一体誰が何のためにどんな技術を使って作られたのかということである。
現在、手探りながらもcapsuleの性質等が段々解明してきている。以前capsuleの表面を削り、成分を調べたところ、固体でありながら、ある周波数の電磁波を通すと液状化する特殊な金属で出来ていることが分かった。
しかし、この金属は現代文明ではまだ発見さえされていないいわば「オーパーツ」なのである。
たとえ不思議な構造をしていても、ある特定の法則さえ掴めれば、操縦することが出来る。それを突き詰めた結果が、あのコックピットなのだ。
敵国のスフィアとは違い、遠隔操作なので動作に微小のラグが出てしまう。それを解決するために、capsuleとの人体融合を模索し始めたのである。
「なぜ拒否反応が起きた?」
おかしなことに、ヘスは難なく融合出来たのに、スミは融合出来なかった。capsule内に何かがあるのか?
この辺は、本人から話を聞くしかないな。
そうこうするうちに、室内の緊急回線の受話器が鳴った。
一体こんなときに何だ、と渋々受話器を取る。
「もしもし」
「所長、半径1km以内に敵性物体を発見しました」
「スフィアか?」
「おそらく、そう思われます」
「各位に伝えろ。迎撃用意だ。capsuleは動ける奴だけ出せ。いいな?」
「了解」
マズいことになった。我々に対してカウンター攻撃してくるとは、予想だにしなかった。
何と言っても、コックピットに近すぎる。コックピットを攻撃されたら、こちらは何も出来なくなる。
……とりあえず、全力でおもてなしするしかないな。
アルは、白衣を脱ぎ捨て、紺のビジネススーツが露わになった。こちらの方が気が引き締まるという。
扉を開け、指令室に急行した。
〈終〉