第拾六話 拮抗
第拾六話
拮抗
ネオジオ国
capsule格納庫
ボクは、何か言葉を発そうとしたが、喉の奥につっかえてしまった。
ボクは、見捨てられたのか?それとも、突き放しても付いてくる程の忠誠心があるのか、試しているのか?
解が無い。
当の本人は扉の向こうへ消えてしまった。聞こうにも聞けない。
このまま立ち尽くしたままで良いのか?
……良いわけない。折角ここに戻って来たのに、何もしないなら戻って来た意味がない。
今置かれている状況もあまり知らないし、何しろcapsuleって一体何なのかも知りたい。
だったら、ここで立ち止まってはいけない。
「追いかけてみるか、アルの背中を」
こうしてボクは意を決し、格納庫を後にし、アルの足音の聞こえる方向へ歩を進めた。
――――――――――
ネオジオ国
研究開発室
無事にアルを眼前に捉えたボクは、追従し、ある扉の前にたどり着いた。
その扉に掲げられている標札には『いこいのプール』と書かれていた。
ちょっと待った。まさか、ここで融合実験をやるのか?もっと設備をマシにした方が良いんじゃないか?
色々と突っ込み満載だが、挙げればキリがないので、とりあえず中に入ることにした。
アルは、ボクにどんな顔を見せるのだろうか。突き返されるだけなのか……
逸る手を抑え、扉をゆっくりと開ける。
中から、塩素の匂いが漂ってくる。
「ごめんください」「……どうぞ、お入り」
気だるい返事が返ってきた。
部屋を見渡すと、だだっ広い空間の中心に、25メートルプールが1つ。その周りには、透明のビニール袋に包まれた機械群が陣取っている。
そして、プールを真剣に見つめるアルと、見知らぬ女性。
「どうした?早くこっちに来い」
アルが温かい笑顔を浮かべ、こちらに手招きする。
……とりあえず必要とされているようなので、一安心。
「あら、この子がcapsuleのパイロット?」
女性が、ボクを指差す。
すると、アルはボクの肩に手をかけ、自分の方に引き寄せた。
「そう!自慢のパイロット、スミだ」
そんな滑稽な紹介をされ、ボクは赤面した。女性は、その光景を鼻で笑っていた。
「で、早速だけど、capsuleとの融合実験をやりたいのだが」
アルは、ボクに計画表を手渡した。
そこには、こんな事が書かれていた。
①電子パルスを利用し、capsuleとリンク
②徐々にcapsuleと部分的に融合
③capsuleと完全融合
本当に実現出来るのか?
ヘスもこんな過程を経て生体融合したのか?
数々疑問は挙がるものの、やらないことには何も始まらない。ここに来た意味が無くなる。
「分かりました。早速始めましょう」
ボクの心に、迷いは無かった。
ボクに手渡されたのは、ゴーグル付きのヘルメット。そのヘルメットから、コードが何本も出ていて、サーバーと思わしき所に繋がっている。
プールには、ボクが使っていたcapsuleが沈んでいた。capsuleからコードがサーバーへと延びている。
サーバーを介して、ボクとcapsuleを同期させるということだ。
コックピットとは、一線を画したシステムと、アルは豪語していた。
「VR-X2、始動!」
という掛け声と共に、ボクの脳の中に、ぼやけた何かが入ってきた。
暗闇の中で、僕がボクに話しかける。
「久しぶり」
「またあったね」
「ところで君はボクに何を求めているんだ?」
「ボクと1つになって闘うんだ」
「なんで?」
「そうした方が良いから」
「理由が無いのか?」
「有るよ!融合すれば、この世界で負けることなんか無くなる」
「そんな力を手に入れて、どうする?」
「ヱイラ国とネオジオ国を破壊する」
「破壊した後どうする?」
「先住民がまた独立国家を自然発生的に作るだろう。そいつに手を貸して、ボクは偉くなるんだ」
「偉くなったところで、キミは何も変わらない」
「変わるさ!世界がより良くなる」
「キミは人の幸せについて考えたことある?」
「無い。考えた所で何になる」
「じゃあ、キミにそんな事言う資格なんてない」
「この世で幸せになれる者なんか、ほんの一握りしか居ないんだ」
「でももし、一人一人が独自の幸せの定義を掲げていたら?」
「そんなの、単なる気休めだ」
「分からず屋。キミは少々頭を冷やした方が良い」
その瞬間、頭に激痛が走った。
あまりの激痛に、涙が止まらなくなっていた。
「大丈夫か?スミ」
女性は、システムを緊急停止させ、アルはボクの方へ駆け寄った。
「幸せなんか、ありゃしないんだ……」捨て台詞を吐き、ボクは深い眠りについた。
〈終〉