第拾伍話 行く末ブラック
第拾伍話
行く末ブラック
目の前に瓦礫が一つ、落下した。
「迎えに来たぜ、スミ」
男性の声。恐らくヘスだろう。
「何しに来た?ボクらはこれから死刑を宣告されるところなんだ!」
救ってくれと心では思っていたが、ボク独りで解決することが出来なかったことに苛立ちを隠せず、強がってしまった。
すると、彼は強い口調で、こう言い放った。
「オイラの役目は、キミ達を有無を言わさず再回収することだ」
つまり、ボクらはまたネオジオ国に殺人マシンとして使われるということだ。
そんなの御免だ!と言いたいところだが、ボクとしては一刻もこの状況から抜け出したいという願望の方が勝る。
ここまでしてくれたということは、ボクに少しでも期待してくれているということだ。
だったら、ここで死ぬより、ボクの存在を認めている向こうの為に死んだ方がましだ。
でも、ヱイラ国の兵士であるイオも一緒に来てくれるのか?
イオは、恐らく首を横に振るんだろう。一国を守る立場に居るのだから。
「イオはどうする?」
ボクは、鋭い目つきでイオに視線を送る。
「……」
イオは、閉口したままで、何も言おうとしない。
何を考えているか、ボクには分からない。
ここに残り、運命を受け入れるのか。それとも、ボクと一緒に戦うのか。不安と期待が入り混じる。
「イオ、ボクと一緒に戦おう」
イオに右手を差し出す。ボクは、この右手を掴んでくれると信じている。もちろん、幼なじみだから。世界で一番信用出来るから。
イオは必ずボクについてきてくれる。そう信じている。
だけれども、イオとボクの考え方に相違がある。イオはイオなりに生きている。
だから、イオが決断したことに文句は言えない。
イオは、下を向いて、少し考えた後、ボクの目を見て、キッパリとこう言った。
「だって私、一応兵士だからね。ごめん、やっぱり無理!」
イオはニコッと笑い、深々とお辞儀をした。
ボクは、黙ってうなずいた。
イオはボクにとって普通の友達ではない。
いくら言っても、頑固なイオは決意を曲げたりはしないだろう。その事は、昔から良く知っている。
ボクは、イオに手を振り、capsuleの手に乗った。
イオは、声を聞くことは出来なかったが、おそらく、ありがとう、と言っていた。
こうして、ボクとイオは再び離れ離れになった。
――――――――――
ネオジオ国
capsule格納庫
ボクは再びここに帰って来た。前回来た時は、イオを助けるのに必死だったっけ。
辺りを見渡すと、あの日の傷跡があちこちにまだ残っている。
「おかえり、スミ」
アルが満面の笑みを浮かべ、ボクを出迎える。
「たっ……ただいま!」
ボクは、アルの笑顔を見た途端、はにかんでしまった。
「早速だけど、君にやってもらいたいことがある」
そう言ってアルは、おもむろにポケットから小型の立体映写機を取り出し、起動させ、壁に光の射出口を向けた。
すると、壁に光が到達した瞬間から、立体の映像が浮かび上がってきた。
その内容は、以前ヘスが成し遂げたcapsuleとの人体融合の過程が克明に記録された映像だった。
「つまり、簡単に言うと、これを君が再現してくれということだ」
アルは、ボクの真横に立ち、そう囁いた。
「そんなの……ヘスが出来るんなら、それで良いじゃないですか。何でボクがやんなきゃならないんですか?」
ボクは、溜め息混じりに呟いた。
「……詳しい話は後でする。とにかく、ついて来い」
そう言って、アルはその場を去ろうとした。
その瞬間、ボクの脳裏に、ある出来事が浮かんだ。
ちょっと待った。この状況は、まるでボクがcapsuleの初陣の時と全く同じなんじゃないのか?
詳しい事は後回しにして、結果的にボクが騙された。
そんなの、二度と御免だ。
そう思い、ボクは振り向き様に、アルに向かって、こう叫んだ。
「言えよ。またボクを良い様に扱いたいのか?え?そうなんだろ!」
しかし、その言葉はアルには届かず、そのまま、出口に向かって歩いていった。
ボクは立ち尽くしたまま、身動きが取れなくなった。
――――――――――
その頃
ヱイラ国
軍法会議
「イオ、君にはまだ使命があるんじゃないかい?」
裁判長が私に問いかける。
「はい、確かに」
「なら、その使命が達成出来るなら、君を刑に処すことはしないと誓おう」
「はい、必ずやり遂げます」
私自身、兵隊の身だから分かる。国家の命令は絶対。
だから必ず……
capsuleをこの世から消滅させる。
以前、イオはスフィアに乗り、何をすべきかを考えたことがあった。
スフィアを操縦し、少しでも敵の戦力を削ぐ。それが私の使命。その為にも、練習を積み重ねなければならない。
だがしかし、その努力は報われるのか。それは、全くもって分からない。でも、少しでも勝利に近づけるなら、努力をするべきだ。
以前と同じ様に戦える保障は無い。
でも私は、どこかで望んでいる。
いつかこの苦難が国民の幸せに繋がることを……
〈第拾伍話 終〉