表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
capsule  作者: 天川 榎
後編 
16/28

第拾四話 帰還は銃声と共に

第拾四話

帰還は銃声と共に









火薬の匂いが、部屋に充満し、物々しい雰囲気を漂わす。


「何ですか」

ボクが、恐る恐る切り出す。

「連行しにきた」


軍服男の話によると、ネオジオ国から要請があった。

その内容は、capsuleの内通者を引き渡す代わりに、講和を結ぶというものだったという。


つまり、ボクたちは、交渉の材料に使われたのである。



「ごめんなさい」

イオは、軍服男に深々とお辞儀をした。勝手な真似をしたことを詫びているのか。


「とりあえず、軍法会議にかけられることは既に決定してるんで、そこんとこヨロシク」


軍服男は、銃を人差し指で引き金の輪の所でクルクル回し、ホルダーにしまった。


その後、ボクたちは、兵士に連れられ、軍の拘置所に収容された。




ーーーーーーーーーー


拘置所内

取調室




「……つまり、それが何なのか、研究者達も分からないということか?」


ボクの取調が始まった。

何も誤魔化す必要性を感じられないので、capsuleについて洗いざらい話した。しかし、ボクが、重要な秘密を隠していると疑い、執拗なまでに、尋問が続いた。



「君は、その軍事兵器をどのように操縦していたんだ?」

「だから、基地にあるコックピット室から……」

「そんなの、今の技術じゃ、不可能だ!精密な操作は、直接操縦でしか出来ない!」


こんな事を、昼夜問わず2週間攻め続けられた。



勿論、イオもそのことについて知っていないハズなので、捜査は一向に進むハズが無い。




しかし、取調の最終日。


「イオさんが全て白状したので、もう結構です」



突然、イオが白状したと言い出したのだ。


ボクが知っている限りでは、イオがcapsuleの構造について学んだという事実は無い。




「例えば、どんなことを言ったんですか」

「答える必要はない」


ボクの問いは、完全に遮断された。


それと同時に、ボクの中に一つの結論が導き出された。


こいつは嘘をついている。ボクに供述させようと、ワザと嘘をついたんだ。


ボクを「囚人のジレンマ」に陥れる為に!!!!!




ーーーーーーーーーー


イオの取調室




「で、結局capsuleは一体何なんだ?」

上官が、イオに詰め寄る。


「司令部も、具体的にどういう物か、分かっていないようです」


私はニタリと満面の笑顔を浮かべて答えた。


未知の存在である人型ロボット『capsule』。私達の国の持つ技術スフィアに遠く及ばない存在。


一体アレは、誰が作り出したのだろう?

その設計者は、今頃更に凄いロボットを考えているに違いない。


私達は、何時になったらネオジオ国に勝つ事が出来るの?


イオは思わず、右手の親指の爪を力一杯噛み締めた。

ーーーーーーーーーー


数日後、ボクらは軍法会議にかけられた。

ほぼ死刑判決確実の出来レースであるが、反論する所は反論しなければ、虫の居所が悪い。



中央の証言台にボクは立たされた。



裁判長である軍隊のお偉いさんが、ちょびひげをいじりながら、ボクに問う。



「君は、何故capsuleとやらに乗って闘おうとしたのかい?」

「もちろん、ボクの大切な人のためです」


ボクの答をお偉いさんは鼻で笑い、ボクの目を鋭い視線で威圧する。


「だからって、君が犯した大量虐殺という大罪が赦される訳ではない。勘違いするな若造」


確かに、正論かもしれない。しかし、そんなことは戦争ではありふれたことなんじゃないのか?


そう主張するヱイラ国の今まで殺して来た人々についても同じ事が言えるのか?


「……間違ってます」


予期せぬボクの発言に、お偉いさんは不意をつかれ、口をポカンと開けたまま、ボクの動向を窺う。


「アナタ方は、何故戦うんですか?」

「もちろん、国の為さ」


「だったら、アナタだって、ボクと同じだ。何かの為に戦っている点で」


場が騒然とする。

静寂から解放され、どよめきが次から次へと生まれる。


「バカな!君は我らと同じと言いたいのか?この国賊が!!!」




それ以降、その日の裁判に進展は見られなかった。


審議は翌日にも行われることになった。



ーーーーーーーーーー


翌日


軍法会議





「ところで、君の両親は何の仕事をしてるんだ?」


これ以上、事件に突っ込むとしっぺ返しを食らうと悟ったのか、お偉いさんは、ボクの家庭事情から、事件の原因を立証しようと試みる方針に変えたようだ。



「父は、ボクが幼い頃に亡くなりました。母は現在機械等の設計をしています」

「片親なのか。それじゃ、君も家に帰っても寂しいんじゃないのか?」

「確かに、寂しいといえば寂しかったです。でも、ボクにはもう一つの家庭があったんです」


「それが、イオ一等兵の家庭だったと」

「その通りです」



いつもボクは家に帰って真っ先に見るのは、誰も居ない空虚だった。

母は、詳しくは語ってくれないが、昔とても凄い機械を設計したと鼻高々に自慢していた。そのキャリアを買われたのか、今ではこの国で大手の電子機器会社の設計士として働いている。

ボクとの生活を充実させる為に、母は深夜迄働いている。なので、小さい頃は平日中はイオの家に行って、ご馳走させてもらっていた。


「そんな生活を続けた結果、君の心に人知れず悪魔が飼われ始めた可能性は、否定出来ないんじゃないのか」


「なら、両親を一晩で失ったイオなんか、もっと大きな悪魔を飼ってることになりますよ」


あの事件後、イオは親戚の家に引き取られた。

それ以来、イオの瞳から涙が零れ落ちた所を一度も見ていない。



「なら、両者共動機充分だな。死刑し処せ」


ボクは、墓穴を掘ってしまった。

ボクだけならまだしも、イオまでも巻き込んだ結果になってしまった。


ボクらの死刑が、否応無しに確定した。

動機も証拠も挙がっている。逃れようが無い。




ボクら、もう直ぐ死ぬんだ。あんまり実感が湧かないや。



…………………………………………………




やっぱり死にたくない。ボクには、まだやり残したことがあるんだ。



そう思った刹那、涙が溢れ出てきた。



誰か、この絶望的な状況を打破出来る奴は居ないのか。




そう思った直後、屋上が二つに割れ、瓦礫が無数に飛び散った。



「迎えに来たよ、スミ」



ボクの目に飛び込んできたそれは、紛れもなくcapsuleだった。




〈終〉




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ