停留話 最後の楽園
停留話
最後の楽園
全員の誤解が解消され、お互いに傷つけ合う理由を失った。
ヘスは、capsuleとの自然分離に成功したが、精神的にも肉体的にも不安定な状態にあった。そこで、アルは、独りきりにしてしまったことに対するせめてもの償いとして、当面ヘスを完治させることに専念することにした。
ミユは、その後意識は戻り、大好物のマアレナをたらふく食っているそうだ。
肝心のジョンは、意識が回復し、基地内のグラウンドを元気に走り回っているそうだ。
イオは、ヘスにやられた部位の骨にヒビが入っていることが判明し、しばらく治療するとのことだという。
ボクは、特に何も無く、只みんなと会話することしかできなかった。
みんなは必死で戦っていたというのに、ボクは只傍観していただけ。
ボクは卑怯者だ。
――――――――――
イオの治療終了後
会議室
以前から全員が危惧していたことだが、この戦いが終わったら、ボク達の処遇はどうなるのだろうか、いまだに分かっていない。
なにしろ、パイロットは全員ヱイラ国から拉致してきた人なのだから、ボク達の命を保証してくれるのか。
それが一番の悩みの種だ。
時期も時期だけに、会議室に呼ばれた用事は、そのことだと高を括っていたが、フタを開けてみると、全く違うことだった。
「で、君達はこれからしばらくお休みなのだが」
突然ココに呼ばれたボクとイオは、あまりに急な話に動揺していた。
「まあ、しばらく休みだし、旅行にでも行ってきなさい」
「え?」
ボク達は、アルがひょっとするとまだ寝ぼけているんじゃないか、と思わず疑ってしまった。
そもそも、ヘイロー島自体、ヱイラ国のリゾート地である。そんな平穏な島に、わざわざ敵が乗り込むなんて、火を見るより明らかだ。
「大丈夫だ。ちゃんと警護と変装グッズは用意してあるから」
そういう問題じゃないだろ……
もしボク達が殺されたらどうするつもりなんだ?
ボク達は苦笑いを浮かべた。
アル曰わく、交渉の末ヱイラ国が、ネオジオ国に資源の提供の確約を結んだそうだ。
その代わり、ネオジオ国は、戦争を起こした責任を取る形として、ヱイラ国に技術提供することになった。
「てなワケで、さっさと行ってこい。こっちもやることが有るんだから」
という訳で、ボク達はアルの強引な説得に屈伏し、ヘイロー島へ数日間の旅行に出掛けることになった。
――――――――――
数時間後
ヘイロー港付近
移動中の船内
客室
辺りは暗闇に包まれている。見えるのはランダムに波打つ海だけだ。
人目に付くと、ボク達はたちまち警察に捕まってしまう。ボクなんか、この国で大量殺人を犯しちゃったんだし……
アルによると、ボク達がネオジオ国に行き、ヱイラ国で殺人行為をしていたことは既にバレていたそうだ。
しかし、戦争も終結し、ボク達は戦争犯罪については強制的にやらされた事として、特赦を受けたようだ。
しかし、一部には、ボクらを快く思っていない人もいるというので、念の為に警護を付けてくれたのだ。
ネオジオ国を出てから、何時間経っただろうか。さっき覗いた窓には、まだ灯台の光しか映っていない。
「ねぇ」
船室で天井を見上げぼうっとしながら寝転んでいたボクに、視界を遮るように、イオの顔が飛び出てきた。
「なんだ?」
ボクは、あまり会話する気になれず、気だるく返事をした。
「もしかして、あんまり嬉しくないの?」
ボクも、あの時ちゃんとヘイロー島に行けたら、こんなことにはならなかった、と後悔することは何度もあった。願い続けたことが不意に叶ったら、誰しもが虚脱感に襲われるだろう。
「そりゃ、嬉しいっちゃ嬉しいけど」
ボクは、念願のヘイロー島観光を素直に喜べなかった。
喜ぶというよりも、現地でボクが殺した人の親族に殺されるのではないか、という不安にも苛まれていた。
「私だって、コワいよ」
不意に、イオは横に座り、ボクの手に五指を絡めてきた。
どうしたんだ?
そこまでする必要は無いのに。まさか……
「……」
確かにボクは、イオの存在で、今まで不思議と安心することが出来た。
だから、ボクはココまで来れたんだ。
感謝の気持ちを込めて、ボクは思わずイオを背後から抱きしめた。
「ありがとう。今まで迷惑かけてゴメンナサイ」
傍若無人に物事を進めてきたボク。イオに心配をかけさせてしまったことに対する謝罪。
すると、イオはボクの方に振り向いた。
「……良いよ。最初から許してるよ」
イオはボクにニッコリと微笑みかける。
「私こそ、スミに心配掛けさせちゃってゴメン」
ボクはその言葉に、思わずクスリと笑ってしまった。
「じゃあ、お互い様だね」
ボクの言葉に反応して、スミの頬が紅潮する。
すると、スミは、目を閉じた。
ボクは、今までボクの気持ちを胸の奥に押し込めていた。しかし、結果的にはボク達はずっとお互いに信用していた。
それが愛であると、ボクは気づいた。
ボクは、イオが求めていることに、応えるべきなんじゃないのか。
ボクは、意を決してイオに対する愛を込めて、イオと唇を重ねた。
「へへ。ファーストキスだね」
「実は昔にもうしてたりして」
「え―!この裏切り者っ!」
お互いの体を突っつき合い、笑いあった。何年振りのことだろうか。いつもながら、ボクがからかって、頬を膨らますイオも、またカワイイのである。
――――――――――
数時間後
ヘイロー港
接岸の衝撃と共に、到着を知らせる放送が入った。
楽しい一夜を過ごしたボクは、窓から差し込む太陽の光と大きな振動によって、強制的に起床させられた。
ボクは、まだ寝ぼけているイオを揺さぶり、問いかけた。
「……おはよう」
昨日のアレのせいなのか、勝手な思い込みなのか、ボク達の間に不穏な空気が流れている。別に悪いことはしてないはずなんだが。
「おはよ〜」
イオは目を擦りながら、上半身を重たそうに起こした。
とにもかくにも、ヘイロー島に着いたのだが、パンフレットや日程表は、2人とも無くしてしまった。
なので、どこからどう行こうか、ということを、暫定的に決める必要が出てきた。
「なあ、先ずどこから行く?」
「勿論、何と言っても、シュールパークでしょ!」
ヘイロー島に来たら、行かない人はいない位有名な観光地、それがシュールパークである。
噂によると、国内随一の心霊スポットだそうで、この地にまつわる、オカルト話が沢山あるのだ。(大抵は、虐殺された人達の呪いとか)
「で、そこ行って何するの?」
ボクは恐る恐る、イオに尋ねる。
「モチロン、お化けと記念写真を……」「もう言わなくていいっ!」
ボクは無理矢理イオの口に手を当てた。
実を言うと、ボクは目に見えない物にはめっぽう弱いのである。なので、病院はあまり行かないし、お墓は論外だし、まして暗闇なんて心臓が止まりそうになる。
それに対し、イオは恐いものがあまり無い。確か虫は苦手だったかな……
あれこれ、行きたい所を挙げて、まとめ上げたら、いつの間にか計画が大分固まってきた。
あんまり関係者を待たせても良いことはないので、荷物を持って、客室から出ようとした
その時。
銃声が、部屋の中を駆け巡った。
「お久しぶり、イオ一等兵」
軍服を着た男が、ボク達の方に銃口を向け、ドア近くに立っていた。
〈停留〉
次回予告
恨む者は恨み、許す者は許す。
だが、ボク達に待っていたのは、余りにも辛い現実だった。
次回
帰還は銃声と共に
来春連載予定。