第拾弐話 心、涙に溶け合う
第拾弐話
心、涙に溶け合う
ボクは驚愕した。
ヘスは人間ではない、別の何かになっていた。
ボクは目を疑った。
capsule格納庫は、見るも無惨な有り様だった。アルは、入り口近くの壁にもたれている。壁にはクッキリと人型のくぼみが出来ていた。ミユは、操縦室のドア近くでグッタリしている。
「やっと来た!待ってたよ」
満面の笑みで迎えたのは、ヘスであった。その右手は、イオの首を握っていた。
「……スミ、た、助けて」
イオが弱音を吐いたことなんか、今まで一度も無かった。
ボクは、その光景を見つめていたら胸が詰まってきた。それと同時に、怒りも込み上げてきた。
「ヘス、ボクの仲間を……好き勝手弄んで、何が楽しいんだよ!!!」
ボクは、ヘスの下へ猛ダッシュで接近し、右腕を思いっきり振りかぶり、ヘスの左頬目掛けて拳を出した。
しかし、それはヘスの右手で簡単に弾かれてしまった。
「アハッ!そんなんでオイラに勝てるとでも思ったの?」
ヘスは、憎らしいねっとりした笑みを浮かべた。
「勘違いするんじゃねぇ」
ボクは、ヘスを指差して、鋭い眼光で睨み付けた。
一か八か。
ボクはこの瞬間、生と死の綱渡りに打って出た。ヘスの気持ちをなだめるなら、もう過去のわだかまりを解くしかない。
「もしかして、まだ根に持ってるの?あの日の誕生日パーティー」
ヘスの体が、ビクッと振動した。図星のようだ。
「ボクのせいなら、いくらでも償う。すまないと思ってるから」
「キミが悪いんじゃないんだ。全部イオの両親が悪いんだ!」
ボクの予想とは相反した答えが返ってきた。
ボクのせいでなく、イオの両親のせい?ちょっと待て。
そもそもヘスとの間に認識の相違がある。
だってあの日に、
イオの両親は居なかったはずだぞ?
「おい、ちょっと待て。ヘス、あの日に、確かにイオの両親は居たんだな?」
「ああ」
「それは有り得ない」
ヘスは、その言葉に仰天したが、それ以上に驚いていたのは、イオだった。
「既に数日前に、イオの両親は拉致されていたんだよ」
ボクは、ボクの知りうる事実を述べた。
ボクは、その当時、拉致しようとしていた工作員に必死に対抗しようとした。だが、ボクの非力故に、救うことが出来なかった。
不思議なのはその後だ。
その翌日、イオの両親が居た。イオの家に、何事も無かったかのように。
しかし、それに、イオは蚊の泣くような声で反論する。
「そんなハズ無いでしょ!あれは確かに私の両親よ。あの死体も、絶対に……」
「いや、絶対とは言い切れない」
その言葉に反応したのは、気絶していたアルだった。
全身打撲で、体が言う事を聞かないハズなのに、よろめきながらだが、二本の足でしっかり立っている。
「capsuleの特性で、コピー人間が出来るんだ」
その言葉に、全員が凍りついた。
「まさか、体の全組織を、丸々コピー出来るのか」
ボクは、その事実に反抗した。だが、返ってきたのは、残酷な結論だった。
「その通り。但し、そのコピーする人間の細胞の一部と血が必要だ」
これなら、ボクの証言と、ヘスとイオの証言が噛み合う。
「自分も、ここに拉致されてからこの事実を知った。capsuleは、未知な技術の集合体だ。故に、自分もどうしようもない。研究といっても、過去のデータの検証程度なんだ」
ヘスは、それに恐ろしくなり、思わず右手を緩め、イオを解放した。その瞬間、アルに駆け寄り、胸倉を掴んで叫んだ。
「なら、返しなさいよ!!私の両親、ここのどこかで生きてるんだろ?今まで殺した人間だって、全員蘇らせられるんだろ?」
すると、アルは息苦しそうに、返答する。
「君の両親はもう生きていない。それに生き返らせるのも無理な話だ」
悲観的な話に、イオは激昂する。
「無理な訳ないだろ!capsuleの研究者なんだろ!」
アルは、余りにも自分に責任転嫁するイオに怒り、イオの右頬を思いっきりひっぱたいた。
「言ったはずだぞ?自分にも良く分からないのに、君の両親を救うなんて、無理なんだよ!」
アルの目に、涙が溜まってきた。
涙がとめどなく溢れる。
ボクらの失われた時を、取り戻すことが出来た。
「すまない。自分の非力のせいで」
アルは、地面に膝を下ろし、両手を地につける。
「私、間違ってた。ヘスやスミを責めるなんて、筋違いだわ。……ごめんなさい」
イオは、静かにお辞儀をした。
「オイラ、じゃあ、何と戦ってたんだ?」
その瞬間、ヘスとcapsuleが分離した。ヘスは、力を使い果たしたように、倒れた。
ボクらは、一つやらなきゃならないことが見つかったみたいだ。みんなが持つ共通の認識。
それは、
ネオジオ国の平和を取り戻すこと。
「ボクらのやり残したこと、まだあるよね」
ボクは、みんなに問いかけた。
「何かあったっけ」イオは、首を傾げている。
「あるさ。ボクらが平和を取り戻す為に必要なことが」
ボクは、格納庫から見える青い空に向かって、誓いを述べた。
「ここから始めればいいんだ。ここから」
〈終〉
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次回予告
仲直りした三人。
まだ果たしていなかったヘイロウ島への観光へ出かける。
そして、アルは一人黙々と研究を続ける。
次回
停留話
最後の楽園
希望を持てば持つ程、その代償は大きくなる。