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capsule  作者: 天川 榎
前編 
12/28

第拾弐話 心、涙に溶け合う





第拾弐話

心、涙に溶け合う











ボクは驚愕した。

ヘスは人間ではない、別の何かになっていた。


ボクは目を疑った。

capsule格納庫は、見るも無惨な有り様だった。アルは、入り口近くの壁にもたれている。壁にはクッキリと人型のくぼみが出来ていた。ミユは、操縦室のドア近くでグッタリしている。



「やっと来た!待ってたよ」

満面の笑みで迎えたのは、ヘスであった。その右手は、イオの首を握っていた。

「……スミ、た、助けて」

イオが弱音を吐いたことなんか、今まで一度も無かった。


ボクは、その光景を見つめていたら胸が詰まってきた。それと同時に、怒りも込み上げてきた。


「ヘス、ボクの仲間を……好き勝手弄んで、何が楽しいんだよ!!!」

ボクは、ヘスの下へ猛ダッシュで接近し、右腕を思いっきり振りかぶり、ヘスの左頬目掛けて拳を出した。


しかし、それはヘスの右手で簡単に弾かれてしまった。



「アハッ!そんなんでオイラに勝てるとでも思ったの?」

ヘスは、憎らしいねっとりした笑みを浮かべた。


「勘違いするんじゃねぇ」

ボクは、ヘスを指差して、鋭い眼光で睨み付けた。


一か八か。

ボクはこの瞬間、生と死の綱渡りに打って出た。ヘスの気持ちをなだめるなら、もう過去のわだかまりを解くしかない。


「もしかして、まだ根に持ってるの?あの日の誕生日パーティー」

ヘスの体が、ビクッと振動した。図星のようだ。


「ボクのせいなら、いくらでも償う。すまないと思ってるから」

「キミが悪いんじゃないんだ。全部イオの両親が悪いんだ!」


ボクの予想とは相反した答えが返ってきた。

ボクのせいでなく、イオの両親のせい?ちょっと待て。

そもそもヘスとの間に認識の相違がある。

だってあの日に、



イオの両親は居なかったはずだぞ?




「おい、ちょっと待て。ヘス、あの日に、確かにイオの両親は居たんだな?」

「ああ」

「それは有り得ない」


ヘスは、その言葉に仰天したが、それ以上に驚いていたのは、イオだった。


「既に数日前に、イオの両親は拉致されていたんだよ」

ボクは、ボクの知りうる事実を述べた。

ボクは、その当時、拉致しようとしていた工作員に必死に対抗しようとした。だが、ボクの非力故に、救うことが出来なかった。


不思議なのはその後だ。

その翌日、イオの両親が居た。イオの家に、何事も無かったかのように。



しかし、それに、イオは蚊の泣くような声で反論する。


「そんなハズ無いでしょ!あれは確かに私の両親よ。あの死体も、絶対に……」


「いや、絶対とは言い切れない」

その言葉に反応したのは、気絶していたアルだった。

全身打撲で、体が言う事を聞かないハズなのに、よろめきながらだが、二本の足でしっかり立っている。



「capsuleの特性で、コピー人間が出来るんだ」

その言葉に、全員が凍りついた。


「まさか、体の全組織を、丸々コピー出来るのか」

ボクは、その事実に反抗した。だが、返ってきたのは、残酷な結論だった。


「その通り。但し、そのコピーする人間の細胞の一部と血が必要だ」

これなら、ボクの証言と、ヘスとイオの証言が噛み合う。


「自分も、ここに拉致されてからこの事実を知った。capsuleは、未知な技術の集合体だ。故に、自分もどうしようもない。研究といっても、過去のデータの検証程度なんだ」

ヘスは、それに恐ろしくなり、思わず右手を緩め、イオを解放した。その瞬間、アルに駆け寄り、胸倉を掴んで叫んだ。

「なら、返しなさいよ!!私の両親、ここのどこかで生きてるんだろ?今まで殺した人間だって、全員蘇らせられるんだろ?」


すると、アルは息苦しそうに、返答する。


「君の両親はもう生きていない。それに生き返らせるのも無理な話だ」

悲観的な話に、イオは激昂する。


「無理な訳ないだろ!capsuleの研究者なんだろ!」

アルは、余りにも自分に責任転嫁するイオに怒り、イオの右頬を思いっきりひっぱたいた。



「言ったはずだぞ?自分にも良く分からないのに、君の両親を救うなんて、無理なんだよ!」

アルの目に、涙が溜まってきた。



涙がとめどなく溢れる。

ボクらの失われた時を、取り戻すことが出来た。



「すまない。自分の非力のせいで」

アルは、地面に膝を下ろし、両手を地につける。


「私、間違ってた。ヘスやスミを責めるなんて、筋違いだわ。……ごめんなさい」

イオは、静かにお辞儀をした。


「オイラ、じゃあ、何と戦ってたんだ?」

その瞬間、ヘスとcapsuleが分離した。ヘスは、力を使い果たしたように、倒れた。



ボクらは、一つやらなきゃならないことが見つかったみたいだ。みんなが持つ共通の認識。


それは、

ネオジオ国の平和を取り戻すこと。




「ボクらのやり残したこと、まだあるよね」

ボクは、みんなに問いかけた。


「何かあったっけ」イオは、首を傾げている。


「あるさ。ボクらが平和を取り戻す為に必要なことが」

ボクは、格納庫から見える青い空に向かって、誓いを述べた。



「ここから始めればいいんだ。ここから」






〈終〉

――――――――――





次回予告





仲直りした三人。

まだ果たしていなかったヘイロウ島への観光へ出かける。

そして、アルは一人黙々と研究を続ける。





次回

停留話




最後の楽園




希望を持てば持つ程、その代償は大きくなる。


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