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capsule  作者: 天川 榎
前編 
11/28

第拾壱話 Own Cake

出撃前

指令室





「失礼します」

ミユはドアを二度ノックした後、ドアノブをひねり、中に入った。


「……」

イオは、室内に入った後も、上の空を眺めていた。


やっぱり、スミはcapsuleのパイロットだったんだ。信じてきた私が馬鹿だった。



「おや、スミはどうした?」

「capsuleに乗りたくないそうです」

イオは、じっと床を見つめている。


「そっか、残念だな。今日はスミとイオに朗報があったのに」


イオは、その言葉に釣られて、アルの方に目線を移した。


「今日2人には、ある人をヱイラ国から回収して欲しい」


イオは息を飲む。

胸の高鳴りが抑えられない。

私も、スミみたいに、殺人マシンになってしまうのか。

そんなの、絶対に嫌だ。


「私は、行きません」

「回収する人物が、ヘスだとしても?」

絶句した。

まだ生きていたのか、アノヒトゴロシ……



これ以上、私が殺させない。









第拾一話

Own Cake






現在

capsule格納庫





「スミはどこに居る?」

ヘスは、辺りを見渡す。



アルの腕の中に女。その近くにも女。

その女の顔に覚えはある。が、その女と過ごした記憶は無い。





「今まで何してたの」

ヘスは、手の先をアルの首もとに突きつける。

ヘスの手の爪は10cm程あり、何でも切れそうなぐらい鋭くなっている。



「い、いや、け、け、研究だよ!capsuleの」

「研究?何が研究なの」

ヘスは苦笑する。



「過去の研究のサルベージをしているだけだろ?」

アルは、小刻みに体を震わせる。


しかし、アルにはまだ余裕があるらしく、ヘスの言葉を鼻で笑った。

「だから?」


その言葉に堪忍袋の緒が切れたのか、ヘスは舌打ちをした。

「あんたのこの研究のせいで、オイラはこんな役回りをやるハメになった。そうだろ?え?」

ヘスは、手の先の長さを元に戻しながら、アルに接近してくる。



「でも、そのお陰でキミは生体融合出来たんだろ?」

アルは、満面の笑みを浮かべる。

ヘスは、その笑顔に殺意を覚えた。



「罪を償え」



そう言い放つと、ヘスはアルの胴体を、伸びた右手の五指で掴み、格納庫入り口の所まで、軽々と投げ飛ばした、



その時。


「いい加減にしなさい」

イオは、フラフラしながらも、立ち上がり、叫んだ。



ーーーーーーーーーー


同時期

食堂






ボクは、何をしようにも、やる気が湧かなかった。


イオとミユは、もう居ない。アルは働いている。



ボクは、capsuleが無きゃ、何にも出来ない人間なんだ。度胸がないんだ。生きる力がないんだ。

どうしようもない人間なんだ。



どうしようか。

ヘスに会ったら、どういう顔をすればいいか分からない。


ごめんなさいで済んだら、苦労しないんだよな。




その時、

食堂全体にサイレンが鳴り響き、こう告げられた。



『緊急事態発生。至急、厳戒態勢に移行せよ。機動隊は、直ちにcapsule格納庫に出動せよ。繰り返す……』



一体何が起きたのだろうか。


時期的には、capsuleは出撃して、ヘスを回収して、到着した頃である。

格納庫で騒ぎが起きているということは、誰かが何かしでかしたのだろう。



……ヘスか?

やはりヘスの仕業なのか?

5年前、ボクが原因で起きた、アノ悲劇のように。




ボクは顔を上げ、capsule格納庫へ急行した。



ーーーーーーーーーー


capsule格納庫




「……」

ヘスは、イオの言葉に動揺した。


オイラの前にノコノコ現れるなんて、愚か者としか言いようがない。死にたいのか?



「忘れたの?」

イオは、首にかけていたペンダントを表に出し、ヘスに見せた。


イオが持っていたモノ。それは、両親を殺した凶器の破片だった。



「覚えてない、とは言わせないよ」

イオは、よろめきながらもヘスに近づき、そのペンダントを眼前に突きつけた。


すると、ヘスは冷笑し、こう呟いた。

「ああ、そんなこともあったね。もう墓に入ったんだから、忘れなよ」



その言葉に怒りが込み上げきたのか、イオは、凶器の破片を力強く握り締めた。イオの拳の隙間から、血がしたたり落ちる。



「アンタには、心底ガッカリしたよ。もう何年も経って、アンタはずっと逃亡して、気持ちが変わってきたのかと思ってたのに……」

イオは、顔をうつむかせ、涙をとめどなく流す。


それに対し、ヘスは高笑いをする。

「情けが通用するような、生ぬるい社会じゃないんだよ」

ヘスは、イオにどんどん迫ってくる。

イオは、怒りと恐怖で、二の句が継げずにいた。


ヘスは、更に言葉を紡ぐ。

「キミは、法律を勘違いしているんじゃないのか?法律は、弱者を全員救うような、そんな都合の良いように出来ていないんだよ!!」

ヘスの目がつり上がってきている。イオは、口をあんぐり開けたまま、立ち尽くしている。



「オイラの人種、知ってるよな」

その瞬間、イオはビクッと跳ね上がった。冷や汗が止まらない。


「……人種なんて関係ないよ」

「関係あるさ!!オイラたち先住民達に何をしてきたか、どういう立場に置かされたか、キミ達は忘れたのかい?」

イオは、足がすくみ、ひざを地面に落とした。



「……もしかして、5年前のアノ時に、私の両親がアンタに何か言ったの?」

イオは、頭を垂らしたまま、震える声でヘスに問う。



その問いに、しかめっ面になり、即座に答えた。

「ああ、『死に損ない』って言われたさ。オイラが、二人を見ただけでだ。しかも、イオが居ない時に、コッソリと」


そう言うと、ヘスは、自らの怒りを発散するかのように、イオの首を掴み、自分の目線ぐらいまで持ち上げた。


「アイツ等は下劣だ。イオの居ない時にオイラをイジメるなんてさ……」

ヘスは、目を潤ませ、金切り声で必死に訴えた。


ふと我に返り、自分に陶酔しているのか、嘲笑しているのか、ヘスは声を上擦らせて、

「だから、イオが穢れる前に殺した」

と、憎たらしく叫んだ。



「…ご……めん…な……さい……」

「今更言っても遅い!!!」



私の両親は、いつもニコニコして、どんな人にでも分け隔てなく接していたと、今まで思っていたのに。


私も、両親と同じような人間になろうとしていたのか。


軍に入隊して、独りで生きていけると思っていた。そんなの、只のエゴだったんだ。


軍の作戦目標も、人を人と見ないネオジオ国を壊滅させる、なんて、差別の塊みたいなものだ。


人を殺さずに戦争するなんて、ヱイラ国は綺麗事を言っていたが、今考えれば、そんなことは、絶対に不可能なことなんだ。


なんで、もっと早く気づけなかったんだろう。




そんなこと考えているうちに、だんだん、ヘスの首締めで、脳に血液が回らなくなってきた。






イオは必死に祈った。「誰か助けて」



最後は運頼み。

結局、私は独りじゃ生きていけないんだ。




その時。






「やめろ!!!!」

スミが、精一杯声を振り絞って叫んだ。


イオは、薄れゆく意識の中、スミの姿を見て、独り笑みを浮かべた。





「馬鹿だな、私」





〈終〉






次回予告





遂に旧友三人が一堂に会した。


語られる真実。溢れる思い。


三人の記憶の欠片が噛み合い、お互いを認め合った時、この物語に更なる飛躍をもたらす。






次回


心、涙に溶け合う








それは、一つの希望の形。


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