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第6話 もう一度彼女を

 三人はキャンパスに戻るとすぐに入部式の会場を目指した。キャンパスまでの道や、キャンパス何にもサークル勧誘をしている人はいたが、入学式直後に比べれば人もまちまちで気合も随分と抜けていた。なんなら勧誘をするどころかサークルメンバーの人と話している。近くを新入生が通れば思い出したように声をかけるくらいだ。

 達樹はキャンパスを改めてぐるりと見渡してみた。

 前日のオリエンテーションでは浮いていたことを気にしすぎていたせいでちゃんと見ることはできなかったし、企画で朝に来たときは薄暗さも手伝って子細には見れなかった。

 だから、あまりキャンパスのことを知らないことに気づくと見渡してみたくなったのだ。

 思ったよりも高い建物は多かった。見上げなければその全貌が分からないほどには高い建物がある。

 そして、大体は二、三階の建物がメインでそれらが横に広がっている。

 植えられている木の種類は桜が少なくて、入学式の春というのには少し寂しい。このキャンパスには名前は忘れたがなぜか常緑樹がおおく植えてあるらしい。

 二人の会話に相槌をして辺りを見ているうちに、すぐ会場にはたどり着いた。そこはオリエンテーションの会場にも近かったこともあり、迷うこともなかった。


「誰もいないっすね」


 薫の言葉の通りに学生は誰もいなかった。準備のために教員が少数いるが、席の数に比べるともうその数人ですらいないように思えてしまう。

 達樹はどこにでも席座れるなと思っている程度には呑気だった。


「どこ座ります?」

「後ろの方に座りたいところだけどね」


 入口の方にも座席をしているする旨を示しているものは無かった。わざわざそんなものを前に掲示する理由もないし、あるのならばあとで指定された席に座ればいい。

 入り口側というのも出やすいのだが、その分出入りする人に見られやすいから自動的に排除された。より取り見取りなので、せっかく空いている窓側の一番後ろの席に座った。春の日差しが差し込んでいてい心地が良い。

 なぜか達樹が真ん中に陣取ったまま、ちょうど三人掛けだったそこに並んで座る。


「俺が真ん中でいいの?」


 別に太っていてスペースを取っているわけでは無いが加齢臭はそこそこに気になる年頃だ。入学式のように席を選びづらいところならともかく、一番乗りしたのに達樹がそこにいるというのも不思議な話だ。

 できるなら端っこ、さらに欲を出すなら窓側のほうに行きたかった。そこでなら教授たちのつまらないここ土地良さで相殺できる気がする。


「まぁ、このコミュニティは園田さんが中心のですし」

「いいと思うっすけどね」


 その言葉の割には謎の連携を発揮して変わる必要がないということを伝えられた。

 真に残念なことではあるが、せっかくできた学部内の知り合いということもあり、消極的なことは口にし辛かった。


 あーだこーだと達樹をはさみながら三人で会話しているうちに入部式は十五分前に差し掛かっていた。そこでようやく多くの人がぞろぞえと入室してくる。

 昼をはさんだこともあって大概の人は昼ご飯をはさんできたのだろう。

 キャンパスに向かう経路の間でもちろん三人の間でもその選択は上がっていたが、入部式も一時間程度で終わるということなので、あとで食べるというのが結論になった。

 昼食に誘われた達樹だったがこれは断った。可能であるならご随伴預かるところではあったが、あいにく達樹はいまでに荷ほどきを終えてなかった。

 無趣味無趣味とは言っていたものの、なんだかんだで達樹の私物はかなりの量存在した。引っ越す前に捨ててきたが、それでも段ボールは未開封のままになっている。

 明日から講義もはじまるから、そろそろそれらを片付け切りたい。


 開始五分前にもなればもうほとんどの席は埋め尽くされていて、残すところはグループで座った列の余りであったりと決していいといえるところではない。

 達樹は意図しないうちに目だけをきょろきょろと辺りに何かを探していた。

 その行為に気づくと思わず苦笑いをしてしまう。

 それはきっと入学式の会場が開かれる前に観察していた彼女のことを探していたのだ。


 達樹は彼女の学部がどこなのかは知らないし、いないのも当たり前だがどこかで落胆していしまう自分がいた。

 お近づきになりたいとかそういうわけじゃなくて、あの時彼女を眺めているだけでなぜか楽しかった。浮世離れしたその容姿に興味がないわけじゃないが、それよりも挙動がなんだか達樹にとって新鮮なものだった。

 いままでああいう人とは一切会話したことないのがそれを助長させたのだろう。


(まぁ、いないよな)


 はっきりとは言葉にしないが、心の中だけで呟く。


 その時だ、こつこつとパンプスにしてはいささか元気のよすぎる足音が廊下から聞こえた。

 思わず期待してしまう。その音は入学式前に見た彼女にぴったりな音だ。

 思わず机の下の膝に置いてある手を握りこぶしに変えていた。


 きぃという甲高い扉の音とともに入ってきたのはまさしく彼女だ。両手には嬉しそうにサークルのチラシを抱えている。

 少し息を切らせた様子で教室全体を見た。そして、席が空いていないことに気づくと少し、残念そうな表情をする。


「あの子が気になるんすか?」


 達樹が彼女の様子を眺めていると横から薫に小突かれる。まさか、と首を振った。


「入学式のときに結構目立ってたから、うちの学部なんだと思っただけだよ」


 本心ではある。しかし、その言葉には真意の一部しか含まれていない。


「確かに目立ってましたよね」


 やはりのほかの人から見てもそう映ったらしい。達樹の感じた存在感は決して勘違いなのではなかったと理解すると、妙に安心できた。

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