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第31話 無垢ゆえに

「デートはどうだったんすか?」


 先週通りに黒瀬と達樹はともに講義を受けていたが、2コマ目が終えたのちに断りをいれてから黒瀬はどこかに行ってしまった。

 ずっと黒瀬と昼飯を取っていたわけだから、今日は誰も昼食を取る人がいないとぼんやり考えていたら、薫が代わりにやってきた。

 今までが黒瀬だったことを考えると、どうにも役不足の感じが否めない。おまけに触れたくない話題にも触れてきていたし。

 どこから嗅ぎつけ来たのやら。

 もうしられてしまったことを今更誤魔化してしまっても意味が無い。達樹はため息をつく。


 薫は不満げな達樹もおかまなしとばかりにテーブルの上へと食器が載ったトレーをがたんと置いた。味噌汁が波打ってこぼれかける。

 達樹の向かい座っている薫はにやにやとしている。非常にうざったい顔をしているが、これでいて憎めないのが薫だ。


「あれはデートとかじゃなくて……」


 傍から見ればあれは誰しもがデートというのだろうが、そのつもりなんて一ミリもなかったので嘘は言っていない。

 夏帆に言われてしまっていたし、客観的にみた情報が正しかろうとなんだろうと、達樹はデートと思っていない。黒瀬にはもっとお似合いで素敵な人はいるし、それは断じて達樹でない。


「というよりどこでそれ知ったの?」

「……? 普通にSNSですけど。からかうために明日見せようかと思ってたら、いつの間にか消えてましたけど」

「だったら薫はその投稿が見れた数少ない一人になったわけだ」

「そりゃ名誉っすね」


 薫はとんかつを一切れを丸々口に入れて頬張った。咀嚼している間、なぜか達樹からずっと目を離さなかった。

 首を傾げながら、達樹は味噌汁をすする。


「あれっすよね、園田さんも隅に置けない人っすよね」

「それはどういう意味で?」

「入学式のときに気になってる女の子と、俺が知らない間に仲良くなってるじゃないすか」

「あんまり否定はしないけど、やんごとなき理由があって」


 詳しく話すのも黒瀬の名誉に関わる。理由自体はぼかしておこう。


「やっぱりデートだと思うよね」


 もう一人聞きなれた声が後ろからした。夏帆だ。

 パンをテーブルに置いて、達樹の隣の席を引いた。


「ごめんなさい、ちょっと話聞こえちゃってた」


 夏帆は手のひらを合わせて首を傾げる。話をきいてしまったことに謝罪をしているらしい。

 プライバシーの観点から言えば褒められてことではないが、謝ったし、夏帆も既知のことであるため特段、責めるようなことでもなかった。


「男女で出かけたら意思は有無は関係なくたいていデートって思われても仕方ないと思いますよ」

「そうっすよ」

「それは早計する考えじゃないかなぁ」


 この先誰でも関係が続けば男女ででかけることだっていくらでもあるだろう、それを一々デートだのなんだのと揶揄っていてもきりがない。

 第一、夏帆はそこまで人に何か言える立場でもないと思うのだが。仕返しだからと言って重箱の隅をつつくような真似も無粋だし、必要ではない。


「なんの話ですか?」


 再び、達樹の後ろから声がかかった。


「美緒ちゃん!」


 夏帆のテンションが露骨に上がる。このまま抱き着かんとするが、場所関係的に思うようにはできないようだ。


「か、夏帆」


 少し引き気味で夏帆の呼びかけに答える。この二人の関係は本当に仲良くなったのだと実感する。

 SNSのアイコンからも仲良くしているのは分かっていたが、目の前にすると改めて安堵感が湧いてきた。


「噂のあの人登場っすかね」

「あんまり、黒瀬を揶揄ってやるなよ?」

「そりゃもちろん」


 当の本人である黒瀬はきょとんとしたまま、三人を見ている。

 立ち尽くす黒瀬を薫の隣に夏帆が誘導した。


「ども、俺は田中薫。できれば下の名前で呼んでほしい」

「ど、どうも。私は黒瀬美緒です。よろしく……薫君?」

「よろしく、黒瀬ー……でいいかな?」

「は、はい」


 おずおずといった様子で黒瀬と薫が自己紹介をする。


「夏帆、終わったの?」

「はい、今日からだそうです」

「それは……はやいね」


 夏帆と黒瀬の間だけで話が進む。男二人の達樹、薫は意味も分からずそれを呆然と眺めている。

 話のな流れ的に言えば、黒瀬にはなにかしないといけないことがあって、昼休みはすぐどこかに行ってしまったのだろう。

 だからこうして薫と食事をとっていたわけだが、その用事も終わって黒瀬は達樹たちのもとに来たらしい。

 しかし、その用事の内容が見えなかった。夏帆と黒瀬はつながりあっているようだが、達樹と薫は蚊帳の外だ。


「園田さん園田さん」

「ん? どうしたの」


 黒瀬は随分と嬉しそうだった。多分、犬だったら尻尾をめいいっぱい振っている。


「私、さっきサークルにはいるって伝えてきました! 今日から活動らしいです!」

「おー、折角入ったんだし、頑張ってね」


 達樹は素直に驚いていた。黒瀬の行動力は拍手ものだし、今日から活動だってのにも。

 達樹が昔、入っていたサークルは普通ではなかったし、そもそも文科系だったというのもあって運動をするサークルがどんな活動しているのか分からなかった。


「服も先日、買いましたし、準備は万全です!」


 その発言をきっかけに薫と夏帆の視線が達樹に突き刺さる。


「言い逃れは無理っすね」

「あたしもそう思う」


 黒瀬は悪くない……。これは身から出た錆だ、甘んじて受け入れよう。

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