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8.報復

「ありゃ……アイツは……?」


その村人は平凡な人生を過ごしてきた。この村に暮らす村人と同じようにごく普通の生活を営んでいた。ある日、親が死んだ。魔族の領域に最も近いこの村では珍しくない。激しく恨んだ。しかし、魔族達に復讐するほどこの村人は強くなかった。故に、その恨みはより弱い者へ向けられた。そして、その村には格好の獲物がいたのだ。白髪紅目の少女。邪神とやらに容貌が似ている、と教会で聞いただけだが理由はどうでもよかった。普段魔族に蹂躙されるばかりの力のない自分でも、それより下の立場の存在がいる。そんな事実がその村人に優越感を与えてきた。


だから今度もが目の前に現れたいるはずのない少女にも、よく考えずに声をかけた。自分が絶対的優位に立っていると思って。自分に危害が及ぶ可能性など考えもせずに。


「おいおい、なんでてめぇがいるんだぁ?化けて出てきたのか?やっぱりお前は人間なんかじゃなかったん……」

「……『怨剣ブルドガング』」


一閃。少女、ルナリの手に突然現れた黒い剣が一瞬ブレたと知覚した村人はその認識を最後に絶命した。


「人間なんかじゃなかった、って。やめたよ、そんなの」


そう吐き捨て、ルナリは黒い剣を振るい血を払うと、嗜虐的な笑みを浮かべる。


「……皆殺しだ。全てを後悔させてやる」


次の瞬間、村人達は混乱に呑まれた。


……ここを既に出て行った勇者が昨日殺したはずの忌み子が突然現れた。


……話しかけた1人の男が一瞬で殺された。


……男を一撃で屠った少女のようなナニカが嗤って皆殺しを宣言した。


信じ難い出来事が連続して起こるが、それぞれの頭に鳴り響く危険信号。ほとんどの人間が初めて体感するそれが殺気というものだと気づいた村人達は一斉に逃げ出して行った。


「ふ、ふっざけんな!なんだありゃ!?」

「あ、あの武器……絶対普通じゃねぇ!」

「あんなやつが勇者に選ばれたってのかああああ!?」

「そんなことはどうでもいい!逃げろ!……そうだ、教会だ!エルス様なら……がっ」


ルナリは我先にと逃げていく村人達を尻目に、1番近くにいた村人を切り捨てた。


「……逃げ場なんてないのに」


そう言うとルナリは地面を蹴り飛ばし、その場から消える。次の瞬間、十数人の村人が物言わぬ肉となった。


「キリがないや……よし、教会は最後にしよう……」


そう呟いたルナリは、民家を一つずつ潰していくことに決め、手始めにすぐ側の家に入る。皆殺しだ。そこに区別はない。


ルナリはこの家に逃げ込んだ男を殺すと、その家にいた女と子供に剣を向ける。


「ひ、ひぃぃぃ、ア、アナタ……なんで……!」

「と、父ちゃんを……お、おまえぇ!」


恐怖に引き攣る女、怒り以外頭にない子供。ルナリは表情一つ変えずに2人に歩み寄る。


「こ、来ないで……くだ、さい……こ、この子だけはぁ!……あっ、や、やめなさい!」

「何すんだよ母ちゃん!コイツは、父ちゃんをぉ!イミゴのくせに!きたないやつなのに!」


ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる人間二匹。それ自体は煩いだけで、ルナリには鬱陶しいだけだ。だが、その怒りを、その恐怖を、ルナリは知っていた。全て自分が味わってきた。同じ思いを奴らがしている、その事実が、ルナリに悦楽を、剣に力を与える。


「お願いだから、やめっ」


一閃。


「お、おまぇぇ!がっ」


殴打。


一つ目を片付けたルナリは、次の獲物の巣へ向かった。


……そんな惨状を村はずれから遠見の魔法で見ていたシンシーは、ルナリの力、そして執念に驚嘆した。


「とんでもないな……」


強敵と戦ったわけではないが、元々のルナリはあまりにも虚弱。しかし、シンシーは今の彼女からとてつもない力を感じた。


ルナリの魂装、『怨剣ブルドガング』。怨念を力とし、使用者に与える。恨みが深ければ深いほど強くなる。現にルナリの力が普通の人間など相手にもならないのは、それだけ人への憎しみが深いということ。


「魂装は、魂の具現化……あの子の心は、既に復讐者、か……」


村人達は当然の報いを受けたまで。シンシーは彼らに対しては少しも同情しなかったが、同じ種族を嗤い続ける少女を哀れむのだった。






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