6.軽蔑
あの修道女が去った後、ケネルは何をするでもなく自分の家でまるで魂が抜けたように過ごしていた。思い出すのは、自分の身体が動かせず、口すら操られて大切な友達を傷つけた最悪の光景。失望。驚愕。軽蔑。そして絶望。それらを内包したルナリの視線が彼の頭から離れないでいた。
夕方になり、ケネルは外がやけに騒がしい事に気づく。
「なんだろう……?」
村が変に活気付いていて、こんな盛り上がりは祭りの時ぐらいのものであるはずだ。今日は何も特別なことはなかったはず、とケネルは思い返し、嫌な胸騒ぎを覚えた。
「誰だろ……あれ……」
「勇者様!あの邪神の子を討伐してくださってありがとうございます!」
「いやぁ始末してくれてほんとにありがとうございます!うちの店の食べ物盗まれたりゴミ漁られたりしてて困ってたんですよ!」
「そうかそうか!まぁ炎の勇者であるこの俺の力を持ってすれば朝飯前よ!」
ケネルが恐る恐る家を出てみれば、装飾の多い鎧を着た見慣れない男が村人に囲まれてもてはやされているところを見た。
そして、不穏な会話も。
「討伐、始末……?一体、何が……?」
「あぁ、ケネル君じゃありませんか。こんばんは。遅かったですね?」
とぼけた顔でケネルに話しかけてきたのは、修道女のエルス。
「……一体、どういう……?」
「良かったですねぇ?永遠の別れが来る前にちゃんと決別できて。感謝して欲しいです……あら」
エルスが全ていい終わる前に、ケネルは走り出した。向かうのは、ルナリがいるはずの場所。村はずれの廃墟で、思い出の場所。
「なん、で……?嘘だよね……こんなの……?」
そこには、ただの焼け野原と黒い瓦礫の山があるだけだった。人の気配なんかどこにもない。
ケネルは、希望に縋るように瓦礫の山を漁り、少女を探した。いくら探しても死体すら見つからない。やっと諦めがついたケネルは1人泣きながら後悔した。
(助ける、と約束したはずだった。二度それを破り、結果ルナリは死んでしまった。
自分なんかより、余程生きるべき命だというのに。彼女は優しかった。あんな仕打ちをされて、自暴自棄になったり、人間不信になってもおかしくなかったのに、こんな自分を受け入れて、信じてくれた。
それに対して、村人達は囲んで彼女を晒し者にして憂さ晴らし。そして、その中に一度俺も入って……)
「はは……最低だ……」
これは、自分の罪だ。どんな罰でも甘んじて受け入れる。そんな思いを胸に、ケネルは1人家に帰った。