4.絶望
ルナリはその時、廃墟の隅で1人蹲っていた。思い出すのは、昨日までただ1人の友人だったはずの少年。どうやら、そう思っていたのは私だけらしい、所詮彼も他の人間と同じ私の敵でしかなかったのだ……と、そんな想いが胸中に渦巻いていた。
「……」
ルナリはもう半日程そうしていた。動く気力も湧かないほど、あの経験はショックだったのだ。とうに空腹は限界を超え、喉は渇き切って声を出せる自信すらなかった。けれども、食べ物を探す気力も水を汲んでくる気にもなれなかった。……彼女は、いっそこのまま死んでしまおうかとそんなことをぼんやりと思っていた。
「……」
とうとう、彼女の空腹は限界を迎えた。一層ありありと感じる飢えが、彼女を苦しめる。
唯一の理解者と思っていた少年のあの時の冷たい目が、彼女の心を刺す。
「……なん、で……」
私は、こんな目に遭うだけの罪を犯したことがあっただろうか。いつもあいつらは私を囲んで笑う。私はこんなに苦しいのに……そんな感情が、ルナリの心に浮かんでくる。それは、死を前にした後悔だった。必死に生きてきて、それでも報われなかった彼女の精一杯の怨嗟だった。
「や、だ……」
母が死んでからずっと、人間は全て敵だった。その考えを否定する材料だった少年は、裏切りを以ってそれを証明した。
(絶対、許さない。私が死んで、あんな奴らがのうのうと暮らしてゆくなんて、許されるはずがない。私の敵が、人間が、あいつらが死ぬべきなんだ。私に力さえあれば、今すぐにでも……ッ!)
ドゴォ、と轟音。次いで衝撃、紅蓮の炎。それらが少女の間際の思考を掻き消し、吹き飛ばした。
勇者……ガイナスの渾身の技に、無力な少女が耐えうるはずもなく、ルナリは意識を失った。
もっとも、本来なら即死していたはずだったのだ。しかし、そうはならなかった。
「……どういうつもりだ?あんな無駄に派手な技を使っておいて、いたのはただの人間の少女が1人……?」
そこには、さっきまではいなかったはずの女が、ルナリを抱えて障壁を展開していた。炎上、崩壊する廃墟の中には似つかわしくない高貴な気風。何より、象徴的な角が、彼女が人外の存在であることを証明していた。
「ふむ……この娘。どうしたものか……」
抱き抱えたルナリを見て、彼女は思案する。一瞬でとりあえずの応急魔法はかけたが、放っておけばすぐに死んでしまうだろう。魔族である彼女に、ルナリを助ける理由はない。だが、それ以上に、彼女は魔族の中で変わり者だった。
「全く……そうだよ、私は甘い。その通りだ」
ここにはいない相手にそんなセリフを吐くと、彼女はルナリを助けることに決めた。
これは慈悲などではなく、単なる興味でしかない……と尤もらしい理由をつけて、彼女は自分を正当化すると、彼女は構えた。
「我が手に力を。『廻典ノトリアス』」
そして彼女……優しき魔王、シンシーはルナリを連れて自らの城に一瞬で移動した。