29.格上
「て、天聖の勇者だ!これで勝てるぞっ!」
「あ、あの最強の……!助かったんだ!」
一転、緊張が走るルナリ達に対して、ミスナの登場で希望を見出す冒険者達。それ程までにミスナ・エルゲイルの名声は高い。それを分かっていないのはガイナスくらいのものだ。
「ルナリ!奴に防御魔法は無意味だ!全て支援に切り替える!君の剣で正面から打ち倒してくれ……!」
「っ!……は、い……!」
ルナリは強化された腕力で強引に押し切ろうと迫るが、ミスナはそれを剣で受け流すことで防ぐ。攻撃を逸らされたことで大きな隙ができたルナリは蹴りによる追撃をモロに食らい、吹き飛ばされてしまった。
「ルナリッ!」
「ふむ……技量はそこそこだが、土壇場に弱いな。格上とやるのは初めてか……?」
いつも通り、絶対的な余裕を崩さないミスナに、冒険者達の間で歓声が上がる。そんな状況に、納得できない男がいた。
炎の勇者、ガイナスである。
自分があしらわれた相手を圧倒しているのだ。しかも、その相手がとっくに超えたと思い込んでいた天聖の勇者である。いや、彼は今でもそう思い込んでいる。
まだ自分は本気を出していないし、先程復讐鬼に押し負けたのは運が悪かっただけ。だからベストが出せればミスナにも復讐鬼にも負けるはずはない、そういう理解をするのだった。
その結果、ガイナスは魂装に魔素を込める。機会を見て、手柄をぶん取ろうと画策するのだった。
そんなガイナスの策謀など露知らず、ミスナはルナリに追い討ちをかける。白い剣で叩き斬ろうとするが、ルナリは一瞬で体勢を変え、一閃を弾く。
真の力を封じられたとはいえ、『怨剣ブルドガング』の恨みによる身体強化は健在。シンシーの魔法も加われば、単純な力でルナリがミスナを上回っていることは確かだった。
「ハァァァッ!」
「ふん……っ!」
次の剣戟で鍔迫り合いになる。睨み合いになるが、ミスナは右側に力を込め地面にルナリの剣を押し付ける。そのままミスナは黒剣を足で抑えルナリの手と剣を封じ、白剣で突く。ルナリは咄嗟に首をずらすが完全に避け切ることができず、顔に擦り傷を負ってしまう。
ルナリは急いでバックステップで仕切り直そうとするが、それを許すミスナではない。突きの姿勢そのままに突進する。
「くっ……!」
詰み。その言葉がルナリの脳裏に走る。このままでは確実に胸を貫かれてしまう。
だが、そうはならなかった。
「ルナリッ!……ぐっ……!」
「シンシー様……なぜっ!」
シンシーがその身を挺してルナリを庇ったのだ。傷は深くはないし、シンシーならばすぐに治せるようなものだが、ルナリの精神的ダメージは計り知れない。
天聖の勇者は、それを見逃さなかった。
「ルナリ!集中しろっ!」
「……ッ!」
再びの鍔迫り合い。ルナリとミスナは互いに睨み合う。そこで、ミスナは堅く結んだ口を開いた。
「悪いが……私は善人ではないぞ」
そう言って、その視線をシンシーの方に向ける。それだけで、ルナリの心は大きく乱された。
ルナリは冷静さを失い、反射的にシンシーの元へ駆け寄ろうとしてしまう。そこを突かれる。
「ぐぅ……っ!」
防御手段を完全に失い、隙だらけ。正真正銘、ルナリは絶体絶命。
「終わりだ」
無慈悲に冷たく、白剣が振り下ろされる。その寸前。
「ルナリッ!」
天聖の勇者の魂装は埒外の一撃で砕け散った。
一日1000pvが見たかったので無理して書きました。