21.苛々
「くそがぁ!なんなんだアイツらッ!」
加護を手に入れてから初めて敗北したガイナスは苛立ちのあまり人目も気にせず叫んだ。動かなくなった腕はあくまで一時的なものだったようで、1日経てば動くようになった。魂装も同じだ。が、1日動かないなど実戦で食らえば死ぬに決まっているだろう。つまり、完璧な敗北。
「い……1対3だったからだ!あの女に技を封じられてさえいなければ……!」
「ガイナス様!これは何かの間違いですよ!おかしな夢でも見たんでしょう!」
苛立つガイナスを隣の女が持ち上げて機嫌を取ろうとする。女はガイナスの強さと地位を愛しているが、彼が本当に素性もしれない人間に敗北したとは思っていなかった。無論、見かけ上無傷なのだから無理もない。
「そうそう、狐につままれでもしたんじゃねーの?それに、今回のターゲットは女一人って話じゃねーか」
そう言ったのは、黒いフードの男勇者。ナイフの魂装使いだ。彼は普段からガイナスと共に行動しているわけではない。
彼らがここ、城塞都市にいるのは王令で近隣の勇者達に招集命令が出たからである。主に教会からの強い要望があったかららしい。勇者となる資格である加護を与えられる聖職者を有する教会の権力は大きい。
というわけで、現在この城塞都市は周辺地域の勇者が集結している。そしてターゲットはここ2週間程で村を7つ、街を2つを教会を中心に襲撃した『黒剣の復讐鬼』である。
「その3人組とやらはお前の夢かなんかだろ。にしても、女1人に勇者が集結ねぇ」
「ふん、過剰も過剰だな」
「その復讐鬼?って何者なんですかぁ?」
あくまで話題を変えるためだろう、ガイナスの側で女が問う。
「あー、なんでも端の方の村で邪神の生まれ変わりだ、つって酷い扱いを受けていた少女がそこのガイナス君に殺されたと思ったら黒い剣を持って復活して恨みのある人間を皆殺しにしたんだと。ほんとに邪神の生まれ変わりなのかもなー」
「与太話だろう。人の身でありながら魔王になっただの騒いでいる奴もいるが、大方錯乱した村人が訳の分からないことを言ったに決まっている!」
「お前苛立ってんなぁ」
男の目から見ても、ガイナスの機嫌が悪いのはよくわかった。普段は体面……というか女の目を気にして正義ぶったり自分に酔ったりしているものだったのだが。
「それに噂の天聖の勇者サマも来ているって話らしいな」
「何?」
「お、あれじゃねぇか?」
視線を向ければ、そこはまるで別世界のようだった。それなりに人が多いはずの街道がその女のいる場所だけがガラ空きになっている。孤高、そんな言葉が相応しいだろうか。誰も彼女に近寄ろうとしない。彼女を知らない者でも、その溢れ出る強さに気圧されてしまう。誰もがその美しさに目を奪われても、誰もが畏怖を抱いて道を開ける。
今代最強の天聖の勇者こと、ミスナ・エルゲイルがそこにいた。
うわ短っ()