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18/29

18.圧倒



少女。いや、少女の姿を被った何か。その手に魂装が現れる。シンシーが今まで見てきたどの魂装とも全く違っている。


黒い大鎌。その刃の内側を中心にひび割れ、翠玉色の光を漏らしていた。シンシーの身体が強張る。冷たい汗が滲み出るような感覚を振り切り、シンシーは自分の出来る限りをつくす。


魔天廻法(サタナス・ノトリアス)!」


シンシーがそう叫ぶと、『廻典ノトリアス』の真の力が発揮される。基本はシンシーの魔法の精密さを底上げする魂装だが、当然というべきか。それはおまけのようなものだ。彼女を強者たらしめる真骨頂が存在していた。


「うん?」


自らの周囲、最も遠い場所で20mほど。全方位に渡り、全部で10箇所魔素が蠢いていることをテルラは感知した。


(生き物の気配はしないし、伏兵じゃないよね。……てことは、あの魂装か)


「____全てを見下ろす大いなる空よ。裁け彼の者の蛮逆を。定めよ彼の者の存在価値を。示せその威を____」


シンシーが丁寧に魔素を練り上げるのを見て、テルラは不快感を露わにする。一対一の戦闘で、詠唱の長い魔法など使い物にならない。大きな、それどころか致命的な隙になるのはもちろんのこと、そういった魔法の持ち味である威力の高さや範囲の広さも相手が一人では無駄になってしまう。一対一なら、無詠唱か一句で発動できる魔法でないと有効にはならない。


自分が舐められている、と感じて一瞬不機嫌になったテルラだが、すぐにその考えを捨てる。依然、全方位に魔素が蠢く気配はするし、何かがあると判断する。……が、あれこれと考えて行動するのはテルラの性に合わない。


故に、正面から叩き潰す。大鎌を握りしめ、テルラは馬鹿正直に突っ込んでいった。


「呑気に詠唱なんかしてる暇が……ッ!?」

(かかった……!)


テルラが踏み込んだ瞬間、数えて10の魔法が殺到した。


『廻典ノトリアス』。その真の能力はいわば「破壊できない固定砲台を作り出す」ようなもの。シンシーが視覚した任意の場所に術式を刻み続ける術式を設置することで、相手に向かって単一の魔法を無詠唱で放ち続けることができる。この「砲台」が10。対処の仕方も威力もスピードも属性もバラバラな魔法が同時に飛んでくるのだ。おまけに、この「砲台」は物理的な存在ではないので普通の手段では破壊できない。


こうして、テルラに10の中規模の魔法が炸裂する。加えて、本体のシンシーは恐らく即死級の魔法を詠唱している。どちらかの対処に気を取られれば敗北は必至である。


「へー、おもしろーい」


だが、この少女は。理屈を踏み潰す暴力は。


迸る華炎。鎌を振るい暴風で吹き飛ばす。

奔る雷電。身を捻り躱す。

刃となって飛ぶ石塊。周囲の魔素で雑に吹き飛ばす、魔法未満の力技。

身を縛ろうとする植物。脚力で引きちぎる。

突如倍になる重力。気合を入れて魔王へ迫る。


だが、ここまでだ。ここで詰み。残り五つの魔法を対処する術が無いのは、シンシーの目から明らかだった。


亜音速の水弾。刃となって飛ぶ石塊。圧縮された空気弾。生を蝕む瘴気。灼き尽くす聖光。その全てが、テルラに襲いかかる。だが。


崩籠万象ホロウ・スピナザイア


鎌を手に一回転。五の魔法が牙を剥く寸前、その全てが霧散した。


S-pNaZa(スピナザ)』。刃に触れた形を持ったものをその構成物質へと分解する力。形という理を刈り取る死神の鎌。


魔法という形を持った不自然を分解して平常な自然に還したのだ。


「なっ……!?」


更に一閃。完成しかかっていた即死級の魔法「気圧極散」も霧散する。黒い大鎌は、そのままシンシーへと迫り。


「……!?」


今度は、大鎌がテルラの手から霧散した。

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