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17.衝突



魔王シンシーがルナリという名の少女に出会ってから3日が経っていた。その手によって人の身でありながら魔王となったルナリはこの日もとある村に立った。


家屋の上に佇み、ルナリは村の様子を眺める。真っ先に、眼下の民家が目に入る。


「ふむ。お宅はまだ教会の免罪符を買っていませんよねぇ?」

「い……いやその!そんなお金無くて……!国からの徴収も最近終えたばかりなのに……これ以上教会に、なんて……!」


細い神父が扉の前で嫌味たらしい顔で笑っていた。この家の主人は土下座で許しを乞う。


「いけませんねぇ……免罪符が無ければ女神様からの許しを戴けず、罪人のままになってしまいますよ?……この村でどんな扱いをされても文句は言えないんですがねぇ」

「ど、どうかご勘弁を……!」

「お、お父さん……!あの、神父様!来月になれば余裕があるはずなのです……ですから……」

「バ、バカ!出てくるなと言っただろう……!」


父親の助けになろうとしたのか、静止を押し切って家から娘が飛び出した。なんとかしようと必死な村娘を見て、神父が舌舐めずりするのをルナリは冷めた目で見下していた。


「……あぁ。そういえば、教会の働き手が不足していましてねぇ……ちょうど良い。娘さんを修道女見習いとして担保にしましょう。まぁ?その来月になれば壊れてしまうかもしれ__」

「……『怨剣ブルドガング』」


全てを言い終わる前に、神父の人生は幕を閉じた。肩から腰にかけて、真っ二つ。ルナリの手によって、神父は肉塊へと変わったのだ。


「……へ……?……っ!?……まさか、噂の……邪神の生まれ変わりだっていう……」


眼前の光景を男は今噂になっている白髪紅目の悪魔によるものだと理解し、恐怖で動けなくなる。だが、その娘は噂を聞いたことが無かった。


「も、もしかして……助けてくれたんですか……?」

「……」


ルナリは答えない。俯いているせいで目元も見えなかった。


「あ、ありがとうございます!私、あのままじゃきっと酷い目に遭っていたと思うんです!だから、その……私を不幸から救ってくれて、ありが……」


……ルナリは、擦り寄ってくる少女を地面に叩きつけた。


「あっ、……が……」

「だ、大丈夫か!?」


娘の危機に、父親が恐怖を忘れて駆け寄ってくるのを尻目に、ルナリは少女を冷たい目で見下ろす。


「優しい親がいて、幸せ者だね」


それだけ言うと、ルナリは神父の死体の……頭のある方……を引きずりながらこの村の教会へと向かう。その不気味な姿は禍々しい赤黒い剣をより一層際立てる。


……そんな姿を、魔王シンシーは村から少し離れたところで遠視の魔法で見届けていた。


「無差別に皆殺し、というわけではないのか」


魔法陣に、ルナリが教会を赤く染め上げようとしている光景が映る。普通の村人には基本手を出さないらしい。シンシーとしては好きにしろと言ってあるし、文句はない。むしろ良い傾向だと考えていた。


(人間全てが悪、なんて偏った考えは魔族が全て信用できる、とか危険な価値観に陥りかねないからな)


そうでなくても、盲目的なのはいけない。盲目的であると唆されたらすぐに騙されてしまう可能性もある。シンシーとしては、唯一にして強力な部下を他の汚い手を使う魔王に奪われたくなかった。


「お姉さん、何してんの?」

「っ!?なっ……」


不意を突かれるなど、いつ振りだろうか。見ると、人間の少女が横から魔法陣を覗き込んでいた。つい先程まではいなかったはず。少なくともシンシーは認識していなかった。その事実に、彼女は大きく動揺する。


(だが、どう見ても相手はただの子供。それに害意も感じない……)


シンシーは少女が弱いから知覚できなかったと自分に言い聞かせ、あくまで平静である風に振る舞う。


「……これは遠視、少し遠くの場所に定点を置いて監視する魔法でな……ではなく、君は何者だ!?どこから来たんだ!?」

「うーん、迷子?あ、私ちゃんの名前はテルラだよ」


テルラというらしい少女があっさりとそんな返答をしたものなので、シンシーはすっかり毒気を抜かれ、拍子抜けしてしまう。


「迷子、って……」

「なんか面白そうなことしてるから話しかけちゃった」

「この角が見えないのか!?私は魔族だぞ!なのに一人で寄ってきて面白そうだから話しかけるなんて……人間の子供はそんなことも教わらないのか!?」


言われて、テルラはシンシーの角を見つめる。


「あー、うん。大丈夫かなーって」

「は……?」


そう言って、少女は笑う。


「分からない?」


それがシンシーには、自分を嗤っているように見えて。


「私ちゃんが人間見えてる時点で、底が知れてるって言ってるんだよ」


瞬間、シンシーは後方に跳んだ。


「ッ!?『廻典ノトリアス』!」


思わず身がすくんでしまうような殺気。自然体に表れている絶対強者の余裕。シンシーがこれほどの危機感を感じるのは初めてのことだった。


一気に距離を取ったシンシーに、テルラはきょとんとした顔をするが、すぐに笑顔を見せる。


「あー、なに?やるの?……いいよー、そういうつもりじゃなかったけど遊び相手になってくれるんだよね?」


お姉さんは優しいね、と呟いて。


「起動、『S-pNaZa(スピナザ)』」


この瞬間、シンシーは完全に獲物だった。

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