15.一端
「お……おい!なっ、何者だ貴様ら!」
村の異様な雰囲気に呑まれないよう、教会所属の男は自分を奮い立たせるように強い言葉で叫んだ。
「なぜ貴様らだけ無傷で……いや!お前たちがやったのか!?」
「違います!……その、聞いてください」
ケネルは必死に訴えた。この惨状を作り出したのが忌み子と呼ばれた少女だということ。本当は彼女がただの人間で、何者かが力を与えたと思われるということ。むしろ復讐を選ばせるほど追い詰めたこの村の人間達に非があるということを。
しかし、ケネルの必死の訴えむなしく返ってきたのは望まぬ反応だった。
「な、何を言っている!貴様の話が本当なら……それならやはりその者はまさしく忌み子……いや、もはや邪神そのものではないか!」
「そ……そうだ!ただの子供がこんなことをするなんてことがあるか!嘘をついているんだろう!適当な嘘で女神様に仕える我々を侮辱するとは……!やはり犯人は貴様らか……!」
そして、教会の調査隊は完全にケネル達を敵として認識した。調査隊の矢面に、炎の勇者ガイナスが立つ。
「お前たち、気をつけろ!村を丸ごと滅ぼして傷ひとつ負っていない連中だ……何をしてくるか分からないぞ!」
「ガ、ガイナス様!」
「これは俺の責任でもある……あの時この村に滞在していればこんなことにはならなかったのなら……ここで失態を取り戻す!下がっていろ!」
「……いえ、我々も魔法で援護します!」
「っ!来る……!」
ケネルの身が強張る。殺気に当てられるのは二度目だが、今回は抗わなければならない。その事実が恐怖と緊張を招いていた。そんな彼の様子を見て、セヴェルとラキエルは一歩踏み出す。
「少し荷が重いか……少年、お膳立てをしてやろう」
「我々の直接的な手出しは……」
「その為に器用な君がいるのだろう。……付与を頼む」
「……なるほど、了解しました」
ラキエルはセヴェルの意図を理解する。すると、2人は耳に嵌め込んだ極小の機械に手を当て、言う。
「クラスA、セヴェルより主神へ。魂装の使用を申請する」
「マスター、魂装の使用許可を」
そして、彼らの耳にだけ、その声が届く。
『外神イオリの名の下に魂装の使用を許可する……お前らァ!アタシの代わりに思いっきり暴れてこい!』
突然の大声に、2人は顔を歪ませる。
「思いっきりやったら命令違反じゃないですか……」
自分の命令に背くような事を言う主にラキエルは呆れる。彼らの主は人情家なので、ケネルの話を聞いて見ているだけの自分にイライラしていたのだろう。
ともあれ、許可は下りた。セヴェルとラキエルは、力の片鱗を見せる。
「『A-dos』起動」
「……『I-DeA』、起動します」
瞬間、セヴェルの手には黒い弓のような物が現れ、ラキエルの手は黒いグローブに包まれる。
「こ、魂装!?勇者か!?いや……アレは魂装なのか……?」
ガイナスや調査隊の面々は一様に驚く。あんなタイプの魂装は勇者の物はもちろん伝え聞く魔王の物にも似通った物を聞いたことがない。
セヴェルの黒い弓は曲線部が無く、角ばった図形が何個も重なったかのような形をしていて、所々に翠玉色に光る線が入っていた。弦も糸のようには見えず、翠玉色に光っていた。おまけに矢を持っている様子もない。
ラキエルの右手に現れた肘まである極薄の黒いグローブも同様に翠玉色の線が入っている。これをガイナス達は自らの常識に当て嵌め、魔法使い型の勇者が稀に発現する指輪型の魂装に相当する物だと推測した。
「セヴェルさん、ラキエルさん……!?」
「後ろの奴らは我々がなんとかしよう。君はあの饒舌な男をやるんだ」
お喋りな奴、と暗に言われたことをガイナスは気づかなかったが、なんとかしよう、と軽く言われた調査隊の者達は黙っていなかった。
「ふ、ふざけるな!お前たち、一斉に放つぞ!」
号令により、調査隊は一斉に魔法を紡ぎ始める。
「「「「我らの祈りよ信仰よ、怒れる炎となって、我が敵を______」」」
周囲の魔素が蠢き、勇者のそれには及ばないものの、人を殺すに充分な威力の焔が生まれ……
「呪言黙殺」
……ラキエルが呟いた瞬間、一斉に消し飛んだ。
「な、何が起こった!?魔法が消されたのか!?」
「も、もう一度……っ!魔素が反応しない!なんで!」
……ラキエルの魂装『I-DeA』。能力は最大半径50mの魔素を完全に支配下に置き、自分以外の魔法や魔素を取り込む能力の使用を禁ずる力。それにより、調査隊は打つ手を失った。
「如何しますか?」
「麻痺でいいだろう」
「……麻痺付与」
付与を受けたセヴェルは矢のない弓を構える。
「繊光百条」
瞬間、黒弓から無数の光線が射出されガイナスだけを避けて辺り一帯を串刺しにした……が、調査隊の人間に怪我人は出なかった。
セヴェルの魂装『A-dos』に矢は無く、全てを貫く光の線を放つことで攻撃する。そして最大の特徴は、任意の対象を透過させることができる点だ。
例え堅牢な城砦に立て篭もる王だとしても、その位置を知覚さえしていれば、壁を、盾を、兵を、全てを透過し王だけを殺すことができる。
「うっ……」
どさり、と調査隊の全員が倒れる。透過によって怪我は負わなかったが、付与された麻痺効果によって動くことができなくなったのだ。
こうして、炎の勇者ガイナスとケネルの一騎打ちの構図が完成した。
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