14.接敵
「僕に……加護が……?」
「セヴェル!一体どういうつもりですか!」
ようやく事態を飲み込んだラキエルはセヴェルに掴みかかる。それほどこの行動は考えられないことだった。
「問題はない。君が説明している間に主との交渉は済ませてある」
「……マスターが許可を出したのですか……全くあの方は……」
「それよりも、だ。少年、これで君はこの世界で言う勇者でも魔王でもない魂装使いになった訳だ。君がその力でこの世界を変えることができたのなら、消し去る必要もないだろう」
「……!自分の手で……」
もう無力な自分ではない、その事実を噛み締めるようにケネルは自身の手を握りしめる。
「どれほどの力を試す必要がありそうだが……何か、来ているな」
「……そうですね。数は約30、西3000です」
「来ている、って何がですか?」
「そうだな……ラキエル、詳しく視えるか?」
「当然です……教会の紋章ですね。あの修道女の死を察知して調査に来たのかもしれません」
西の方向、ケネルにはそれがどの向きを指しているかすら分からなかったし、そもそもどの向きの視覚も家屋に阻まれている。ラキエルが魂装も詠唱もなしに透視をしたのにケネルは驚愕した。
「……どうします?」
「ふむ……少年、君はどうしたい?」
「僕ですか……?」
突然決定権を与えられ、ケネルは迷った。
「……正直、教会は好きじゃないです」
「ならどうする?」
「それでも、あの村が特別おかしかったのかもしれないし……一度話してみたいです」
「そうか。任せよう」
セヴェルとラキエルは一歩下がり、来たる者達を待つ。
一方で、辺境の中の辺境の村に向かう一団は、自分達の行動が無駄になるのではないかと疑っていた。
「エルス殿が殺されたというのは……本当でしょうか?」
「上が言っているんだ。間違いない」
彼らが村に向かっているのは、そこの修道女であるエルスが殺された、という話を受けたからである。元々あの村は魔族の領域に最も近い場所。魔王の軍が攻めてきて真っ先に滅ぼされた、なんてことを警戒して派遣されたのだ。
「それに、諸悪の根源だっていう邪神の生まれ変わりとかいう子供はあそこの人が倒したんでしょう?」
そう言って、男が指差した方向には、炎の勇者と名高いガイナスがいた。自分が少し前まで滞在していた村が滅んだかもしれないということを聞いて真偽を自ら確かめようとついてきていた。
「邪神の生まれ変わり……俺はそんな危険な存在を討伐していたのか……やはり俺の力は最強……あの天聖の勇者とかいう女も目じゃない……いずれは俺の物だな……」
天聖の勇者。現状最強と目される女勇者。ガイナスは彼女に一目見たことはあっても話したことはない。故にその美しさは知っていても、どのような人物でどれほどの力量なのかは知りもしない。だが、彼は自分の力が劣っているはずもないと思っている。
「にしても……くそっ、俺がすぐに去っていってしまったばっかりにエルスが……あんなにも俺を慕ってくれていたのに……残念だ。俺がその場に居合わせさえすれば絶対に死なせずにすんだのだがな」
「……なんなんですか?あの勇者、ずっとブツブツ言ってますよ」
「気にするな。アレで実力だけは確かだそうだ……ほら、着いた、ぞ……っ!」
会話を中断し、彼らが村に一歩入ると、そこから先は地獄だった。そこら中に赤。血。死体。死後から少し時間が経ったことにより耐え難い異臭がこもっていた。
そして奇妙なことに、略奪や破壊の痕跡が無い。まるで人を殺すことだけを目的にしたかのように。
そしてその一団は、村の一画に佇む3人を見つけた。