13.誕生
「女神でも邪神でもない神様の天使、ですか?」
「そう思ってもらって構わない」
「どういう存在か、はわかりました。でも、なんでこの世界に……?」
「我々はアーリマ神とフラマズ神の処罰を決定する為の情報収集の命を受けて派遣されました」
「処罰の決定?」
「我々は彼らが数千年の間管理したこの世界が乱れているかどうかを判断する。均衡を保った良い世界を維持してるなら良し、あいも変わらず己のエゴにこの世界を巻き込んでいるのなら処分することになるだろう……この乱れた世界ごと、な」
そこまで言って、セヴェルはケネルの顔を覗き込み、次に辺りを見回した。そこには、昨日まで村だったはずの血の海がある。
「まぁ、この有様だ。望み薄だろうな」
「……っ!」
こんな惨状を作り出す世界も、その元凶たる二柱の神共々処分……消し去ることになるだろう、というセヴェルの言外の言葉がケネルに伝わってくる。
今回の悲劇は首謀者が人間の魔王、という点においては唯一無二だったが、村の人間が全滅する、という事態はこの世界では珍しくない。はぐれの魔族による蹂躙、略奪。勇者による魔物狩り。それらが世界のどこかで毎日起きている。
「こんな悲劇が繰り返される世界。続けていても仕方がないだろう。この分なら、すぐにでも消されるだろうな」
「……セヴェル、そんな言い方は」
「……だめです……」
ぽつり、とケネルがそう漏らした。
「あの子は……ルナリはやっとこの村という過去を断ち切れたんです!彼女は……これから今までの分幸せになるはずなんです……だから!」
だから、この世界を残して欲しい。そんなケネルの叫び。セヴェルは眼前の少年にそんな面もあったのかと驚き、ケネルを興味深く思った。
「ここにきても他人の話、か」
「え?」
「いや、気にするな。だが、そうだな……幸せになるはず、か」
「な、なんですか……?」
「私はそうは思えないな。一部始終を見ていたが、アレはまさしく復讐鬼だ。こんな村一つ滅したところで止まらないだろう。かなり強くはなっていたが……この世界で1番、というわけではない。虐殺で目立った結果トップクラスの勇者に見つかって始末されるのがオチだろうな……もっとも、それが彼女にとっての幸福だというならそれまでだが」
「そんな……」
この村一つ滅したところで、彼女は止まらない。セヴェルがそう断言し、ケネルは激しく動揺した。このままでは彼女は止まることなく、最後には殺されてしまうという。
(このままじゃルナリは笑えない……)
「だから、だ。どの道この世界は消される。覆ることはないだろう」
「じゃ、じゃあ!……お二人の力で……彼女を……この世界を……!」
「その……残念ですが……それは」
ケネルの懇願に、ラキエルは苦い表情を見せる。だが、セヴェルはケネルの方に歩み寄り、手を伸ばして言った。
「我々は任務内容に関連しない事柄に直接関わる事を禁止されている……が、そうだな」
「……セヴェル……貴方は……」
ラキエルは周囲の魔素の揺らぎを確認し、セヴェルの意図を推察し、彼の正気を疑った。
「……均衡を司る我が神よ。この者に超越の加護を」
瞬間、ケネルの足元に幾何学的な図形がいくつも組み合わさった見たことも聞いたこともない形状の魔法陣が形成される。
「君が望む未来を、自らの手で掴み取るといい」
そしてここに、初めてこの世界に女神でも邪神でもない加護により魂装に目覚めた者が誕生した。