プロローグ 胎動
西暦二千年も過ぎて数度の産業革命が訪れ、人間社会全体が今や機会と融合された監視誘導期に至っていた。
それは当然国民全員、強制的に識別方法として、何らかの機械的な物を、
インプラントされている事が常識の、そんな近未来時代の事である。
人類は、環境ホルモンの影響等で不妊症の女性が増え、その結果、超高齢化社会の状況下でエイジングケアに金をかける事がトレンドになっていたのだ。
過去におおよそ人間は百歳まで生きると唱った者もいたが、
今や化学や医学の進歩で、平均寿命はそれ以上になり、機械による身体改造、新薬やナノマシーン、AIインプラント等で、脳の萎縮治療やアップグレードで人類は更に長寿になっていたのであるが、これも格差社会の中、エイジング不安の克服も千差万別であった。
そんな中で人類は種が滅亡する事を恐れ、遺伝子操作でゲノム編集された人口出産ベビーブームが訪れていた。
各国の福祉財源も、いよいよ持って限界に来ている中、新しい優秀な子供達の誕生は、喜ばしい事では有るが、ここでも格差がついて回るのだ。
平均的、または低所得で、限りなくノーマルボディの、長寿な年寄り達への福祉財源が、枯渇して来ている現実なのだ。
それは今や世界的な問題として、特に先進国は何らかの打開策を見出している中で、死に対しての人権問題で肯定論や否定論で双方揉めている中、既に本人意識で法的に認められている国も有ったが、日本国に至っては、余命を宣告された者、或いはそれに順ずる者に、安楽死の選択権法案が可決された。
直後、まるで時期を見計らっていた様に、とあるゲーム業界、ヴァーチャル業界、先進医療機関、AI脳化学業界等で
転生プロジェクトが設立され、研究開発の結果、完了するまでに至った。
ここは都内総合病院の病室であるが、どうやらこのフロアー内には、ターミナル期を迎えた患者ばかりである様だ。
その中の一病室で、身体中に点滴や、何らかの管が通され、時折やって来る痛みに堪えていた初老の女性患者がベットに横たわっていた。
患者名のプレートに旭川 夢子68歳と書かれている。
身体中に点滴や、何らかの管を通されていて、あちらこちらに褥瘡(床ずれ)が出来ているので、時間を見計って看護師が寝返りをさせにやって来る。
夢子は自分には時間がもう少ない事を解っていた。痛みや、投与されている薬で、意識が少し朦朧としていたが、人の気配がするので、目覚めて見ると、ベットの傍らに、自分の息子が心配そうに見守って居た。
旭川 開、夢子の生涯で産んだ、たった一人の子供である。
若くして夫に、事故で先立たれた夢子は、開を育てながら、人工知能AI開発に携わる仕事についていた。
そんな母親の背中を見ながら育った開は、子どもの頃、母親と遊びで始めたゲームであったが、43歳になった今は、AI補助システムを取り入れた有名VRゲームデザイナーとして業界に名を馳せていた。
夢子と開で、ゲーム遊びを通して、交流した思い出が多過ぎる。親子でどれだけゲームが好きなのか、見舞いの会話もそんな話しばかりである。しかし、それが互いに時間が無いもの同士の、ある意味気遣いだったのかもしれない。