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第一話 孤児を拾いました

「そんじゃレオンの旦那、これがアンタの取り分だ。受け取ってくれ」


 俺が臨時で加入したパーティのリーダーから、ずっしりと重みのある皮袋が渡される。

  

「…………」


「今回の討伐報酬が銀貨300枚。6人で均等に割ったから、その中には銀貨が50枚はいってる。確認してみてくれ」


「……あ、ああ」


 皮袋の口を開き、中の銀貨を数える。

 くすんだ色の銀貨が、確かに50枚入っていた。


「か、確認し――」


 確認した。そう言おうとして顔をあげると……


「よーし、みんな今日はお疲れ! カネも入ったことだしパーッと飲みに行こうぜ!」


「やったー! 早くいきましょう!!」


「今日は飲むぞ~!!」


 あら不思議。

 俺のまわりには誰もいないじゃありませんか。


「ねーねーリーダー、レオンさんは誘わなくていいの?」


 パーティで唯一の女性が、俺をチラチラ見ながらリーダーにご進言。

 途端にリーダーは渋い顔になった。


「……いいんだよ。アイツ、いっつも小声でなに話してるのか聞き取れねーし、正直絡み辛いんだよなぁ。確かに強いけどよぉ、仕事(依頼)とプライベートはきっちり分けようぜ」


「えー、でも…………こっち見てるよ?」


「ば、バカ見るなっ。うっかり目でもあって打ち上げに参加されても困るだろぉが?」


「……ごめんリーダー。バッチリ目ぇあっちゃった……」


「はやく逸らせ!」


「う、うん」


 二度と振り返ることなく、足早に去っていく『元』パーティメンバーのみなさま。


「別に参加するなんて言ってないし……」


 俺はひとりそう呟くと、銀貨の入った皮袋を握りしめ逆方向に歩きだすのだった。


 

 ◇◆◇◆◇



 世界で2番目に孤独を愛する冒険者であるこの俺は、基本的にソロで活動している。

 数日前、たまたま親しくもない冒険者に、


『なぁレオンの旦那、いい儲け話があるんだ。一口乗らないか?』


『え? も、儲け……ばな、話……?』


『ああそうだ! なんでも北の森にオーガが出やがったそうなんだ。それも上位種がな。そしたらよ、なんとギルドが報奨金に銀貨300枚もだすっていうじゃねぇか。300枚だぜ、300枚!』


『…………』


『あーあー、そんな顔しなさんなって。旦那の心配はわかるぜ? 確かにオーガの上位種は強敵だ。王国の騎士団が出張ってきてもおかしくねぇモンスターさ。だがよぉ……旦那とおれたちが組めば倒せないモンスターでもねぇはずだ。どうだ旦那? 一時的に手を組まないか?』


 と頼まれ、しかたなく受諾。

 銀貨300枚は確かに魅力的だったが、なにより『仲間と一緒に戦う』という状況シチュエーションの方が、俺には遥かに魅力的だった。

 かくて、俺は冒険者パーティ『銀翼の翼』という、名前からしてツッコミどころ満載なパーティと一緒に北の森へ向かった。


 俺の技術スキルで標的であるオーガを探しだし、俺の剣でオーガを斬り伏せ、オーガに驚いた拍子に転んで手首を折った仲間(元)を俺の回復魔法で治す。


 あれ? これひょっとして俺ひとりでよかったんじゃない?


 とは思ったけれど、口には出せない。

 そして追い打ちをかけるように、報奨金はきっちりと人数分で割られていた……。


 もう2度とパーティに入ったりしない。

 俺がそう固い誓いを立てた帰り道。


「……ん? あれは……馬車か?」


 森の出口付近で、1台の乗合馬車を見つけた。

 馬車のまわりには10人ほどが血を流して倒れ、本来なら馬車を引いているはずの馬がいない。


「野盗にでも襲われたか……」


 全員が刃物によって殺され、馬も連れて行かれている。

 十中八九、野盗による襲撃をうけたのだろう。


「運がなかったな」


 すでに事が終わった現場に、俺ができることはなにもない。

 俺は短く祈りを捧げ、その場から立ち去ろうとした、その時――


「ぅ…………ぁ……」


 微かにうめき声が聞こえた。

 俺は声のした方に視線を走らせる。


「ぁ……ぅ……」


 折り重なるように倒れている男女の死体の下から、その声は聞こえていた。


「生存者か!? なら――」


 俺は急いで死体をどかす。

 出てきたのは、まだ小さな女の子だった。おそらくは7歳から10歳の間。

 お腹を押さえる小さな手の隙間からは、次から次へと血が浸みだしている。


「んなっ、まだ生きてる!? まま、待ってろ! いま俺が治してやるからなっ。最上位回復魔法、オメガヒール!!」


「あ……」


 優しい光が血まみれの少女を包み込む。


「ど、どうだ? 大丈夫か? 生きてるか?」


 俺の質問に女の子が、


「…………うん」


 と頷きかけ、背中まで伸びた銀色の髪がはらりと揺れた。


「…………おとさん……おかさん……」


 安堵する暇すらなかった。

 女の子に覆いかぶさっていた男女は、両親だったのだ。

 娘を守ろうと、命を賭して盾となっていたのだ。


「おとさん……おか、さん……」


 少女が冷たくなった両親にすがり、涙を流す。


「おきて、ねぇ……おきて……。おきてよぉ……おきってってばぁ……」


 少女の嗚咽が響く中、俺はなにも出来ずに右往左往。

 かける言葉がまるで浮かばない自分に腹が立つ。


「やだよぉ……やだよぉ。アーシュをひとりにしないでよぉ……」


 こんなに小さな女の子が泣いてるってのに、慰めの言葉すらでてこない。

 なら――ッ


「ぁ……」


 俺は少女を抱きしめた。

 怖くて怖くて、哀しくて哀しくて、この広い世界にたったひとりで放りだされてしまって不安だったのだろう。

 カタカタと女の子の震えが伝わってくる。

 うまい言葉が思い浮かばなくて、でも、何かしてあげたくて、俺はぎゅっと女の子を抱きしめる。


「……っ」


 女の子が小さく吐息を漏らし、体を強張らす。


「ご、ごめん!」


 俺は慌てて手を放した。


「そ、そうだよな、いきなり知らないヤツに抱きしめられても困る……よな。悪かった」


 ふるふる。

 女の子は小さく首を振ったあと、俺から離れず、むしろ背中に腕を回してきゅっと抱きついてきた。


「おとさんとっ、おか、おかさんがぁ……」


 俺の胸の中で、女の子が泣きじゃくる。

 こ、これって、こんなときって、え~っと……。


 俺はおそるおそる、もう一度女の子を抱きしめる。

 今度は女の子は体を強張らせることなく、むしろ体を預けてきてくれる。


 それから女の子は、ずっと泣き続けた。

 嗚咽を漏らしては何度もしゃくりあげ、動かぬ両親へ届かぬ言葉をかけ続けた。



 ◇◆◇◆◇



「……おじさん、これおとさんとおかさんのお墓?」


「あ、ああ。その……即席だけど、さ。ないよりはいいと思って……」


 俺は女の子両親を街道の外れに埋葬し、石を積み上げた。

 野ざらしにするには、あまりにも不憫だったからだ。

 両親にも、生き残った女の子にも。


「…………」


「ご、ごめんな、下手くそなお墓で……」


 ふるふる。

 お墓の前にしゃがみ込んでいた女の子が、首を横に振る。

 しばらくして、俺に抱き着いてきた。


 ぎゅっと、強く抱き着いてきた。

 その小さな肩はまだ僅かに震えている。


 優しい言葉一つかけられないコミュ障な俺だけど、少しぐらいは彼女のために何かできたんだろうか。

 だとすれば、うれしい。


 小さな身体は、折れそうなぐらい華奢で、頼りない。

 けど、すごく暖かかった。

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