ハジマリの音と光
お題小説 ※ツイッターのお題箱から。
自分に自信のない男の子が優しい〇〇に惚れてもう一度頑張ってみようとしたところで、
実は〇〇は校内で嫌われていることを知って、その理由を嗅ぎ回していたら怪しまれてしまった・・・(続く)
みたいな純情ラヴストーリー下さい () というお題でした。
僕は目立つタイプじゃないし、自分から動くなんてもってのほかで、こういうなんていうか言うのも恥ずかしいけど、青春とかっていう言葉とは縁遠くて、そんなことある訳ないと思ってたんだ。
陳腐だけどそういうのは、ドラマとか漫画とかそういうものでしかないと思っていたから。
だからこそ、君には感謝しなくちゃいけない。君を好きになっただけでこんなに世界が変わるだなんて思っていなかったんだから。
好きになったのは、委員会の役決めで一緒になった時だった。そんなに役割がない、あんまり時間が取られない委員会はやっぱり人気がある。毎日やるものには立候補者が殆ど集まらなかった。
僕は俗に言う帰宅部だし時間はあんまり気にしないので、人がネームプレートを貼っていない委員会の下の所に、自分のネームプレートをすぐさま貼った。
そのとき一緒になったのが杉山さんだった。そのとき挨拶されたときの笑顔にやられたんだ。
自分でもベタだなと思ったけれども、気になってしまったんだから仕方ないじゃないか。
彼女、杉山さんの言動に注視するようになって、委員会も前期が終わりそうになったころ、もう居ても立っても居られなくなって、僕は告白することに決めた。
理由はいたって単純だ。この思いを抱えていくなんて僕には到底無理だからだ! 九割振られると踏んでいるが、別にそれでもかまわ、いや構うけど、このままでいるほうが僕には辛かった。
一応僕も男だし、度胸試しと行こうじゃないか。多分、しばらく立ち直れないけど……
ここでいついつまでに待っていてほしい。とかそういうことを言うと、自分の心臓に悪いので、杉山さんが一人っきりの所を見計らうことに決めた。
え? 度胸はどこに行ったって? 告白をしようということ自体が僕にとっては度胸試しなんだ! 察してほしい。……言い逃げなんて僕も男らしくはないと思うけれど、これが精一杯なんだ。仕方ないじゃないか。
昇降口の入り口で待ち伏せする。自分でもどうかと思った。けど、一番さりげなく自然に、二人きりになれそうな場所に心当たりがなかった。自分でもちょっとあれかと思ったけど、もういっぱいいっぱいなんだ!
結構待ったようで待っていないような時間が過ぎたころ、杉山さんの姿が見えた。心臓が跳ねたのを感じ、僕の時が止まったのを感じた。いけない、いけない、ミッションを果たさなければ! 僕は杉山さんに呼びかけた。
「どうしたの?」
あぁやっぱり声も可愛いな。まさしく鈴のなるような声とはこのことだと思う。
「あの、ちょっと聞きたいんだけど、あのさ、もしかして、ここにずっといたの?」
「え、あ、うん、そうだけど」
「……君だったんだ、あの時もだよね? 私のこと、そんなに嫌? 何かしたつもりはないけど、金輪際こういうことしないで」
えっ、と声をかける前に、杉山さんは去って行ってしまった。……いまのどういう意味なんだろう。
なんとも言えない気持ちを抱えながら、僕はPCでSNSを追っていた。あのまま僕は帰宅したけど、今はなにも考えられない。気分転換に友人に勧められたアニメでも見ようか。以前送られてきたアドレスの貼られたメッセージを探していると、スマホが鳴った。
例の友人からだ。何の気なしにメッセージアプリを起動する。そうして新着のところをタップすると、
女って怖えなという言葉と共に、アドレスが貼られていた。
なんだ? と思ってアドレスを開くと、そこには僕をこの気分に陥らせている張本人の、姿らしきものが写っている動画が見えた。
これってもしかして……アカウントの名前を見る。そこには知っている名前があった。いわゆるリアル用アカウントというやつだ。プロフィールを見ると、僕が通っている学校とクラスが書いてあった。……本名ならまだしも学校名とクラスまで書いているのに非公開にしておかないとか……悪用されるかもとか考えないんだろうか?
僕はこれが何であるか薄々感づいているものの、タップする。杉山さんの姿が分かる人にはわかる距離で写っていた。下校しているところだろう。歩いている姿が1分程度写っている動画だった。
……完全に盗撮じゃないか。これ犯罪だろ? 僕は思わずため息をついた。目の前が真っ赤になる。
何でこんな事されなければいけないんだ。嫌がらせにしてもほどがある。
うん? 嫌がらせ、もしかして……僕は、友人にこう尋ねてみた。
≪これいつから?≫
≪うーん
俺もよく知らないけどな
いま見つけただけだし、
何本かこの子のは撮っているみたいなのは分かったけど。
まぁこいつ性格悪いからな
いろんな奴に嫌がらせしているみたいだし
まぁこの盗撮されてる子も最近愛想悪い
よく無視されるって評判だけどな
外で声かけたら無視されたって話もきいたし≫
≪ふーん≫
今日声を掛けたら、そんなこと無かったけどな……そんなこと言ったら、いろいろ詮索されそうなので何も言わないが。
≪この女気を付けたほうがいいぜ
マジヤバいからな
他にも色んなやつが被害に遭ってるっぽい≫
≪わかった≫
メッセージアプリを閉じると、僕は明日何するべきか考え始めた。
翌日の放課後、僕はこの盗撮という犯罪を犯している女子に声をかけることに決めた。どうしても彼女に心から被害者たちに謝ってほしいと思ったからだ。
放課後、人がまばらになったころを見計らう。告白しようと思っていた時とは全然違う緊張感を味わう。
ため息をつきたくなるのを抑えながら、声をかける。逃げられない様に一言で済ませる。杉山さんの好ましい部分、はっきり言う所を意識しながら言った。
「久生さん、単刀直入に言うけどこれ盗撮だよね」
「は、えっ、な、なに言ってんのっ!? ば、ばかっじゃ、な、あいの?」
うわぁ……思った以上にうろたえてる……色々考えて来たのに、直ぐに主導権を握ったことに驚きながらも、このまま僕は久生さんから動機を聞き出すのだった。
色々話を聞き出そうと思ったら、呆気なく終わった。ただ単純にむかついたから撮っていただけらしい。
何で不特定多数の人に見せていたんだと言ったら、自分のことを登録している人にしか見えていないと思っていたらしい……そんな馬鹿な。でもそんな認識の人が多いのかもしれない。
久生さんは僕に見つかったことにすごく驚いているらしく、すごく僕に謝ってきた。平謝りだった。……いや、僕に謝られても。ということで、被害者たちに謝罪することにしたらしい。……行動が早い。
という訳で、僕も同行することになった。なんでだよと思うけれど、それはさすがに言えない。まぁ僕が声をかけて始まったことだから、見届けないととは思っているけれど、なんていうか展開が早すぎて拍子抜けだ。
幸い? いや、幸いじゃないけど、やっていることがやっていることなので、自宅は全員の分把握しているらしい。そう聞くと改めて怖いと思った。やっぱり言ってみてよかった。
僕も餌食になっていたかもしれないし。被害がこれ拡大していたらと思うと寒気がする。
そのまま久生さんに付き合うこと1時間ほどたち、杉山さんのの家に行くことになった。今までは緊張していなかったというのに、妙に緊張してきた。あの時の誤解もあのままだし。
はあ……久生さんが呼び鈴を押した。インターホンがなる。そこで出てきたのは杉山さんだった。
「こんにちは。急にごめん、実は」
「……」
軽く事情を久生さんが説明する。謝りたいことがあるということを。僕は付添だと。杉山さんは学校では険しい表情をして、こちらを見ている。鋭い眼光だ。あの言葉を投げかけられた時とは比べ物にならない。
完全に嫌われてしまったんだろうか? そう思うと、胸がうずいた。
「ちょっと待ってて」
杉山さんはそう言うと、玄関から姿を消した。誰かと話している声が聞こえる、何なんだろう。久生さんにアイコンタクトで疑問を訴えていると、杉山さんが二人姿を現した。
えっ? どういうことだ。人って本当に驚くと声が出ないんだな。と遠くで自分が思っているのが分かった。
「あっ、初めてだよね? 言ってなかったし。実は双子なんだ。どうぞ上がって」
「は? 言ってなかったわけ? ちゃんとしておいてよ。そういうので困るの私なんだから、
間違えられて声かけられて、訂正とかめんどいからしっかりしてって言ってるじゃん、まえも間違えられてめんどくさいから無視したけど」
「ごめんごめん、後で言っておくよ。ごめんねーこんな所でこんな話して、どうぞ」
うん? ちょっと待てよ。ということは、無視したっていうのは妹さんで、杉山さんじゃないのか。まぁ無視するのはよくないけれど、生きてきてからずっとそうなんだろうなと思うと、まぁ説明するのが面倒臭くなるのも分かる気がする。現に杉山さんも言ってなかったわけだし。でも、それが原因で嫌がらせを受けているんだから、その辺りもいった方がいいのかもしれない。
そのまま上がらせてもらい、事情を説明する。久生さんが、ただイライラしたからというだけで、盗撮したり、あることないこと噂を流していたりしたことなど。
話を聞いた杉山さんは当然だか驚いたようだ。口元を抑えている。杉山さんの妹は先程とは比べ物にならないくらいの眼光で睨んできた。
まぁ睨まれるくらいで良かったと思うけど。
いろいろ話をして、久生さんの反省している姿が本当だと分かったらしい。杉山さんは許してくれるらしく、久生さんはその場で例の動画を消して、もうしないと約束した。
「あーでもやっと分かってすっきりしたよ、でもよく謝ってくれたよね、こういうことする人って話聞いてくれないと思ってたし、誰がやったか分かっても、どうしようもならないと思っていたから」
杉山さんはそう言ってにっこりと笑った。かわいい。
「いや、そういう話じゃないでしょ? 警察沙汰なんだから、謝るのは当然でしょ? せめて後でお父さんとお母さんに言って、学校にも言わないと、当然だけど」
まぁそうだよな。本当全世界に盗撮していたのを上げていたんだ。そのくらい当然だと思う。犯罪だけれども、久生さんの処遇は被害者たちが如何するかで決まるだろう。
一応自首だし自分がきっかけを作ったと思うと、後味が悪いのは勘弁なのでそこまでひどいことにならないと思いたい。
「でもどうして謝ろうと思ったの?」
そう言われて、僕が偶然盗撮を上げていたアカウントを見つけた話をする。それを聞いて杉山さんは、ぴんときたらしい。
「あ、ごめん、私勘違いして怒っちゃったね、勝手に決めつけてごめん、飯田くんは関係なくて、あんなひどいこと言ったのに、解決してくれたんだ。ありがとう」
「あ、いや、別に、それは……」
僕は照れて何も言えなかった。彼女の妹がこちらを凄い目で見ていたけれど、それにも気づかないくらいに。