サードミッドモーニング・雑誌の最後のアレは危ないよね!
『ぴんぽんぱんぽーん!じゃじゃじゃーん!現在、11時11分11秒!イレブンナイツのお時間です!』
『お相手は、私イレブンナイツの広報担当、ミツミが担当していきます!』
『昼の部は、こちらのお便りからー。』
『医者から薬漬けにされていますが、一向に良くなりません』
『あー!不安になるよねー!わかるよー、わかるぅわかるぅ!』
『飲んだからすぐ風邪が治るように思って、なかなか咳が収まらないとイライラするよね!』
『まぁ大体は寝たら治るから、風邪ひいた人はネトゲしてないで、ゆっくり寝てようね!』
『それではでは!イレェェェェブゥウウン…ナァァァァアアアイツ!!!』
「うーん、駄目だなぁ…」
無性にイライラする。指示通り、薬は飲んでいるんだけどなぁ。
もしかして、詐欺にあってるんだろうか。薬を飲み始めたころは、よく友人から注意されていた気がする。
雑誌の最後のページ。そこには、こう書かれていた。
「なんとなく不安が多い人へ!この薬は、そんなあなたの気分を改善することができます!」
まるで麻薬のような売り文句だとは思ったが、さすがに雑誌の広告にそんなものは出ないだろうと思い直した。医者からの処方という文句も、信憑性を高くした。
丁度いい。最近会社で上手く行っていないこともある。これを飲めば、多少は楽になるかもしれない…
今思えば不思議だが、その時は何も躊躇せずに電話をとっていた。
結果がこれだ。毎月金だけが吸い取られていく感覚。何故か止められない自分。
どうしたものか、自分がいうことを聞かないのは困ってしまう。
「まぁ、最初のころはそんなものですから」
それを繰り返す医者に疑問がないわけではないが、彼の喋り口調に引き込まれるとどうしようもない…
「ふぅん、これがそのお薬かぁ」
いきなり女性の声が聞こえた。目をやると、そこには騎士の兜を付けた女の子がいた。
「うわ、やっぱり変な薬だったか…幻覚が」
「ちょっと失礼しちゃう!ナナエ様を幻覚だなんて、もう怒った!」
女性が平坦な胸を強調して歩く。かと思うと、薬を全部ごみ箱に捨ててしまった。
「あ!おい、何てことを…高いんだぞ!」
「そうかしら?私にはこのカプセルの中身、小麦粉に見えるんだけど」
そういうとゴミ箱を抱えて中身を見せた。そこには…天かすの山ができていた。
「なっ…い、いつの間に?カプセルはどこ行ったんだ…?」
「どこって、ほらきれいにサクサクに揚がってるじゃない。なんなら食べてみる?」
俺は、やっぱりおかしくなってしまったのだろうか?
「そんなものよりさぁ、この飴はどう?気分爽快になること、その薬よりは確実だとは思うわよ」
そういうと、彼女は黄金色の飴を差し出してきた。やけになっていた俺は、奪い取るように飴を取り、口の中に放り込んだ。
「どうかしら?まるで、青空のような気分にならない?」
…ミントの香りが爽やかで、柑橘系の香りも実に心地いい。落ち着くようで気分の晴れていく、実に不思議なキャンディーだった。
「…なぁ、これって、どこで売ってたんだ?」
「何てことはないわ。そこのコンビニで売ってた一袋500円ののど飴よ。あなた騙されやすいんだから、これからは気をつけなさいね」
そういうと、彼女はスタスタと玄関から外に出て行った。
…何度確認しても、ゴミ箱の中身は天かすだけだった。
「次の方、えっとスズキさん、どうぞ~」
美人だが、さえない顔をした女が入ってきた。こういう奴は、引っかけやすくて最高だ。
「どうなさいました?」
「なかなか、自分に自信が持てないんです…きっと、何か心の病だと思うんです」
ふーむ、とわざとらしくカルテをめくって見せる。読み方もろくにわからないが。
「そうですなぁ、ここはとっておきの薬があるので、それで行きましょうか」
「えっと、私ってどういう病気なんでしょうか…?」
「ハハハ、気にすることはないですよ。何、軽いストレス性のうつ病ですよ。」
こうやって不安をあおれば、コロンと行ってくれるもんだ。
『いれぶううううんなああああいつ!!!!こんにちは藪医者さん!』
いきなりスピーカーから元気な少女の声がした。あんまり驚いてしまってイスから転げ落ちてしまった。
『うつ病も吹き飛ばす美声、広報担当のミツミちゃんです!初めましてスズキさん!』
「は、はぁ・・・?」
『元気がないですね!そういうときは体を動かすといいんですよ!イレブンナイツ式ラジオ体操、行ってみましょうか!』
『まずは深呼吸してみましょう!はい!それでは次にストレッチをしてみましょう!』
その声は目の前の女に次々と運動の指示をしてゆく。女はだんだんと、顔に血色が戻ってきた。
『いい調子ですね!そうそう、腕をしっかり伸ばしたら次は脚の運動です!軽くその場で足踏みしましょう!』
「…なんか、楽しくなってきました!」
すっかり女はノリノリになっている。
『それは良かった!それでは締めに、目の前のやぶ医者を〆ちゃいましょう!シメだけに!』
「ハァイ!」
ドォン!渾身のストレートが頬を直撃した。骨に当たってかなり痛い。
「う、うがああああ!!なんなんだ一体!ふざけてるぞ畜生…!」
『ではでは!イレブンナイツ式ラジオ体操、おしまいです!ハンコを押すので病院の外に出ましょう!』
「わぁい!」
女はそういうと、さっさと診察室を出て行ってしまった。
「あっ、待っ…診察代…」
『これは驚きました!藪医者でもお金をとるんですね!仕方ないです!じゃあ私も治療のお手伝いをした分、お代をいただきましょうか!』
「というわけだ。すまんね、これは頂いていくよ」
後ろから声がしたので振り返ると、そこには俺の財布を持った騎士面の男がいた。かと思うと、その男は影になって掻き消えてしまった。
『もちろん、これだけじゃ足りないので!搾り取れるだけ搾り取ってあげます!それではではでは!』
そういうと少女の声は聞こえなくなった。いつの間にか待合室からも患者が消え、病院の中は一気に静かになってしまった。
後日、資金がごっそり口座から消えていたその病院は倒産してしまった。
「ミツミちゃーん?こういう役はもうごめんよ?」
『あ、クミエさん!見事な右ストレートでした!ぜひぜひ次もお願いします!』
「イヤぁよ。私はドロドロした男女関係を見てるのが好きなのに、あんなクッサイ男の相手なんかしてても全く楽しくないわ」
『そうですかぁ?殴り倒す瞬間は、最高の笑顔でしたよ?』
やめてよ。変な方に目覚めちゃうじゃない。