スペシャルナイツ!・レイブンナイツ2
『ぴんぽんぱんぽーん!じゃじゃじゃーん!現在、11時11分11秒!イレブンナイツのお時間です!』
『お相手は、私イレブンナイツの広報担当、ミツミが担当していきます!』
『今日はハッピー体育デーということで、昼の部夜の部二連続のスペシャル企画でお送りしています!』
『昼の部をご覧になっていない方は、バックナンバーから「スペシャルナイツ1」を、ぜひぜひ見てみてくださいね!』
『細かい話は置いといて行きましょう!イレェェェェブゥウウン…ナァァァァアアアイツ!!!』
8時29分、電車がホームに入ってくる。
オヤジが周りを見渡して、がっかりした顔を見せた。これはさっきまで見ていた、私の記憶…?
走馬灯にしてはリアルすぎる気がする。時間が巻き戻ったのかもしれない。
「そんな、止めろって言ったって…何が原因かなんて、私に分かるわけがないじゃない!」
多分、あれは事故だったのだろうが、一人の女子高生に何が出来るというのだろう。
人の波に流されるように、私は電車の中に乗り込んだ。このままでは、さっきの繰り返しだ…
ガァァン!キキィィィイイイン!!
また、あの音だ。凄まじい衝撃が襲いくる。
「クソォォォォ!止められなかったあああ!!!」
よく耳を澄ますと、悲鳴と金属の擦れる音の向こうに、男の人が叫ぶ声が聞こえた。
その人は、乗る前に私をじろじろと見てきたオヤジだった。
8時29分、電車がホームに入る前。
…これは、また繰り返しているのだろうか?
私は意を決して、ジロジロと見てくるオヤジに話しかけてみた。
「なんですか、さっきからジロジロって。誰か探してるんですか?」
オヤジは一瞬変態扱いされると思ったのだろう、うろたえた表情を見せた。
「なっ、言いがかりだよ。私は君のことなんか見ていない」
「いーえ、絶対見てました。あ、心配しなくても、私はあなたを痴漢だと思ってるわけじゃないです。ただ、一つだけ答えてください」
「…なんだね?」
「誰を、探してるんですか?」
オヤジはさらにうろたえた。図星だったのだろうか。
やがて、その顔はキリッとした顔になった。
「君は、どこまで知っているんだね?」
「…それは、どういう意味でですか?」
「じゃあ、こういえばわかるか?騎士、わかるか?」
一瞬何かわからなかったが、そういえばタブレットに写った男性や、携帯の設定をいじった女性は騎士の姿だった気がする。
「えっと、多分わかります」
「そうか、なら話は早い。多分君と私は同じことを言われている。恐らく、君もまだ原因が分かっていないのだろう。私も何もわかっていない。これから何度繰り返すかわからないが、協力しようじゃないか」
…こういう話って、美少年と旅をするんならわかるけど、よりにもよって冴えないオヤジとかぁ…
「…まぁ、いいですけど。クロバネです。よろしく」
「そうか、よかったよかった。私はヒトシ、よろしくな」
あまりよろしくはないですが。
「私が思うに、何かのテロみたいなものじゃないかと思うんだ」
ヒトシさんは電車の中で語りかけてきた。
「どうしてですか?」
「いや、さっき私が駅に入った時、男二人が覚悟したような顔で大きな鞄を持って行ったのを思い出してね」
「その二人を探していたら、私に声をかけられたというわけですか」
「そうそう。悪いことしたね」
ガァァン!キキィィィイイイン!!
「しまった!話をしていたら…!」
今思えば、この音は爆発の音にも聞こえる。
「うわ!わあああああああ…」
ホームに立つ私。やはり、ヒトシさんもいた。
「よし、今度はしっかり探してくれ」
ヒントはそれしかない。今はヒトシさんの勘を頼ることにした。
列を離れてそれらしき人を探す。そんなもの、見つかるわけがない…
「あ、えっと…あれかなぁ?」
まだ秋に入ったばかりなのに、マフラーとコートで全身を隠している男性が二人。確かに、大きなボストンバッグを提げている。
「ヒトシさん!ヒトシさんこっち!」
他の場所を探していたヒトシさんを呼んで確認してもらった。
「ああ、あいつらだ…取りあえず、今回は様子見として同じところに乗ってみよう」
それは、つまり爆心地に飛び込むかもしれない恐ろしい賭けなのだが、彼は全く怖気づいていない。
「その…怖く、ないんですか?」
「怖いもんか。目の前で柱が頭に突き刺さった人を見るのは、もう沢山なんでね」
彼は、私よりもはるかに凄惨な光景を見て来たらしい。
電車に乗って10分くらい経った頃。男たちが動き出した。
(あっ…やっぱり…!)
大きなカバンの中身をいじり始めた。そこには…配線がごちゃごちゃと詰め込まれている。
「おい、お前ら何してるんだ!」
ヒトシさんが声をかけるが、男たちは彼を警棒で殴り倒してしまった。それと同時に、スイッチらしきものを手に取った。
周りの人が気付いてざわつき始めた。やがて、それが悲鳴にかわ――
「あつっ…!あ、あぁ…戻ったのかぁ」
またホームで電車を待つ私。ヒトシさんは頭を気にしているが、なんともないようだ。
「痛みが残っているような気がするよ…さぁ、犯人は分かった。あとはあいつらをどうするか…」
うかつに話しかけたり、バッグを奪ったりすればまた殴り倒されてドン!だろう。
「あいつらに時間を与えない方法を考えないと…とりあえず、また同じ車両に乗ってみよう」
警戒されてはいけないので、あまりジロジロ見ないようにはする。だが、どうしても気になる。
(どうすればいいんだろう…)
その時、頭の中に男性の声が聞こえた。
『試験時間は、あと5分。つまり、これが最後だ』
ヒトシさんの顔が変わった。ど、どうしよう…
「強行突破で行くぞ。次の駅、協力してくれるか」
電車の到着を伝える無機質なアナウンス。
「ち、痴漢です!」
大声を上げて、バッグを持っている男達の手を取った。男たちは突然のことに、驚いた顔をしている。
「な、何を…離せ!」
「うるさい!ちょっとこっち来い!」
ヒトシさんが引っ張り出そうとすると、乗客たちも協力してくれた。彼らの見た目が異様だったこともあって、すぐに信じてくれたようだ。そうして、何とか引っ張り出すことに成功した。
「おい!離せ…クソっ、これでも離さないか!」
ヒトシさんがみぞおちに思いっきりパンチを食らった。ふらふらとして、その手を放してしまう。
「もう仕方ない!ここでやっちまおう!」
男たちはカバンの口を開き始めた。なんとか、何とか止めないと…!
「うわあああああ!!!!」
鞄を使って思いっきり男の顔をぶん殴った。顎に入れたら気を失ってくれるかもしれない…案の定、その男はよろめいた後、バタンと倒れてしまった。
「なっ、おい!お前…この野郎!」
もう一人がいきなり殴りかかってきた。鞄で何とか攻撃をいなすと、男のわき腹が見えた…これは、チャンスかもしれない!
「そぉい!」
思いっきり蹴りを入れた。自分でも惚れ惚れするほどいい一撃。相手がよろめく。これはまだまだチャンスが続いてる気がする!
「へぃ!ほぉ!ふぅん!はっ!」
頭を掴み、膝で顔を蹴り上げる。相手が鼻を押さえて倒れこむところを、首筋に手刀で思いっきり追撃した。最後に、ふらりと倒れこむ相手の背中を思いっきり踏みつける。男から、エグッという変な声が聞こえた。当分立てはしないだろう…そういえば、バッグはどうなったのだろうか?
「大丈夫、大丈夫。私が持ってるよ」
向こうでヒトシさんがバッグを回収していた。ああ、良かった―
「へっ、そうは上手く行くかよ」
最初に殴り倒した男が、銃を構えてヒトシさんを狙っている。まずい、これはマズイ…!
「コケにしてくれたじゃねぇか。じゃあな、英雄気取りさん」
ヒトシさんは銃口の前に固まってしまった。
「ヒトシさん、走って!」
私の体は、気がついたら動いていた。銃を構える男に向かって走り出す。
ヒトシさんはビクッと肩を上げた後、覚悟を決めた顔をして鞄を持って走って行った。
男は、引き金を引いた―
「お、おい!おい!聞こえるか、しっかりしろ!」
痛いなぁ、苦しいなぁ…
「ヒ、ヒトシさん、です…か?」
「そうだ、そうだぞ!しっかりしろよ、今救急車が来るからな!」
「…ば、バッグは」
「大丈夫だ、今警察の人が持ってる」
「あの、男は」
「君のタックルでまた気を失ったよ。だから安心しろ!な!これ以上喋るな!」
そう、よかった。
あ、もう声が出ないや。もう、なんか見えないや…ついてないなぁ、私…
もう、ヒトシさんの声も、聞こえないなぁ…
「あ、おかえり」
そこには、また紅茶を飲む少女がいた。
「…ただいま。あなたが居るってことは、私はまた…」
「うん。しんだ」
ただ、さっきの光景とは違う。透き通るような青空の中に、私たちはいた。
少女は静かに、タブレットの画面を見せてきた。
『お帰り、クロバネ君』
『見事だ、見事な力と勇気を見せてもらった』
『クロスナイツは、君を歓迎しよう』
『私の元で、もう一度人々を救ってくれたまえ』
『ああ、11人目が増えたから、こうしようか』
『我々はこれからイレブンナイツだ。いいね?トオミ』
「うん…わるくない、とおもう」
『そうか。あと一つ…折角だから、君に名前を上げよう』
『クロバネ…黒い羽根…カラス…』
『イレブンとの語呂もいいし、レイヴンにしよう』
『よろしくな、レイヴン』
いきなり何を言われているのかわからない。
「え、えっと…何を…騎士?レイヴン?」
「大丈夫、そのうち嫌でもわかるから」
大人びた声にびっくりして顔を上げると、少女はいつの間にか騎士の兜をかぶっていた。
『何か、質問はあるかね?一つだけ答えよう』
一つだけ…なら、あれだろう。
「ヒトシさんは…あの人はどうなったんでしょう」
画面の向こうで、騎士面が笑った。
『ハッハッハ、何てことはない。彼は失格だよ。“全員を救え”という命令だったのに、君を死なせてしまっただろう?まぁせいぜい、これから幸せな余生を送ってもらおうじゃないか』
午後11時11分11秒。
「おい、こんな時間にどこに行くんだ兄ちゃんよぉ」
「や、やめてくれよ…何だ、いきなり」
自販機の明かりで照らされる夜道、若いスカジャンを着た男が、サラリーマン風の中年男の襟元を掴んでいる。
「なーんか、オッサンの顔見てるとイラつくんだよね。ちょっと血管きれたかもしれないからさぁ、弁償してくれない?」
「なんだその言いがかりは…そんなもの出すわけないだろう」
「へっ、そうかい。じゃあこれならどうだ?」
若い男がナイフを出して、中年の男の首にあてがった。
「ば、馬鹿っ…よせ、変なことをするな」
「さぁさぁ、死ぬか金を出すか、選びなよ」
「どっちの選択肢も、今無くなったわね」
いきなり女性の声がした。
「ぐ、ぐぁあああああああ!!!な、何だああああ!?腕が!腕がああああ!!!!」
若い男は、両腕の先を失っていた。切り口から血が噴き出している。
暗闇から、細剣を構えた騎士面の女性が現れた。
「ほら、今すぐ病院に行けば、もしかしたら間に合うかもよ?」
ぱちん、と指を鳴らすと、若い男は何かに引っ張られるように暗闇の中へと消えていった。
「…その声、もしかして…」
中年の男はあっけにとらわれていたが、メガネを直しながらこう言った。
「もしかして、クロバネさん・・・?」
女性は答えずにはぐらかした。
「…人生、大事に生きてね」
「あ、ちょっと待っ…」
その女性は風のように消えて行ってしまった。