スペシャルナイツ!・レイブンナイツ1
『ぴんぽんぱんぽーん!じゃじゃじゃーん!現在、11時11分11秒!イレブンナイツのお時間です!』
『お相手は、私イレブンナイツの広報担当、ミツミが担当していきます!』
『今日は体育の日ですね!何か運動してますか!?え!引きこもってて何もしてない!?そっか!』
『私は毎日空気椅子でお届けしてます!もう足ガックガクですよ!もちろん嘘です!モチのロン!』
『今日はハッピー体育デー記念ということで、スペシャル企画でお送りします!』
『イレブンナイツの11番、大力のレイヴンちゃんの裏話に密着!』
『昼の部夜の部の二編に分けてお送りします!』
『それでは!さっそく行ってみましょうー!イレェェェェブゥウウン…ナァァァァアアアイツ!!!』
8:15分。四度目の目覚ましが鳴った。さすがに起きないとマズいか…
「ん、ん~っ…ふああぁ」
制服や、鞄はもう用意してベッドの横に置いてある。あとは、この目が覚めたら完璧だ。
…これがなかなか難関で、朝の時間を一番食い潰す魔物だ。
んん…蜘蛛の巣のように執拗で、母親の愛の様に居心地の良い魔物…
「おら、起きろ。なんなら着替えも手伝ってやろうか」
「あー!ふとんがふっとんだあああああ!!!」
「冗談言ってないでさっさと支度しろー。キングに言いつけるぞ?」
「おはようございますヨミ様。今は何時でございましょうか。」
「切り替えは早いな…8時30だぞ。割と急げ」
えっ。
「ちょっとぉぉぉ!もっと早く起こしてよ!こんなの絶対遅刻じゃないか!ああもう!」
「だから起こしてただろ!布団はがそうとしたら寝ながら剣をぶん回してきた女はどこのどいつだ!?」
「知らないわよ!ほら、着替えるから出てってよ!あーやばい…」
グチグチうるさいヨミを部屋から追い出すと、大急ぎで支度を終えた。髪の毛は…もういいや。ボッサボサでも気にする奴なんていないだろ…。リボンもひんね曲がっているが、まぁ付けてれば文句あるまい。カバンの中身はもう確認しない。忘れ物があったらヨミに持ってきてもらえばいいんだし…
「ほらほら、さっそく忘れ物だぞレイヴン」
ヨミから長い筒と中世騎士の兜を渡される。
「あっ、ごめんごめん有難う。ついでなんだけど、私を運んでってくれない?普通に遅刻しちゃいそう」
「今日もかよ…あんまり“仕事”以外で目立つことはするなって言われてるだろ?」
「そんなの知ったこっちゃないわよ。私の遅刻、ひいては卒業の方がはるかに重要課題ね」
ヨミは呆れた様子で、やれやれといいながら私をおぶった。
「しっかり捕まっとけよ、朝には弱いから途中で振り落すかもしれん」
「おーう黒羽根、おはよう!今日もギリギリだな!リボンが曲がってるぞ、直しとけよー」
「あ、はい!」
8時36分、なんとか学校に到着。助かったよヨミィ。
11時11分11秒…今ごろヨミはお仕事中かな?
つまらない授業を聞き流しつつ、窓の外を見た。秋めいた空に流れる雲、ハァ…窓際の席はセンチメンタルな気分になる、気がする。
そういえば、あの日もこんなに晴れてた日だったけなぁ。
午前8時29分、駅のホームで電車を待つ。
地下鉄特有の風にスカートを捲られないよう鞄で押さえておく。横のオヤジは明らかに期待した眼差しを向けていたが、やがて顔に失望の色が見えた。悪かったね、私はそういう露出癖はないんだよ。
電車の中は凄まじい混雑だ。痴漢対策として女性はあらゆる手段を講じるが、私は大体女性に囲まれる立ち回りをとる。男性も無実を証明するために必死だ。両手でつり革に捕まってみたり、捕まるものがなければ体の前で腕をクロスさせる「ツタンカーメンスタイル」などもある。お互いがお互いを警戒した結果、電車内は緊張感張り詰める空気になる。
息の詰まるような時間を5駅分、そうすれば楽しい楽しい学園生活が待っている。
ガァァン!キキィィィイイイン!!
突然、何かがぶつかる音と鉄の軋む音がした。それと同時に凄まじい衝撃が車内の乗客に襲い掛かる。
電車が傾いていく感覚、人々はどんどんと雪崩を起こして倒れて行った。
悲鳴、痛み。車内はパニック状態になった。前に立っていた女性のカバンが、思い切り私の顎を打った。
「うっ」
瞼の向こうで光がちらついた、気がした。…ふと目を覚ます。
随分長いこと寝ていた気がする。そういえば、私は電車に乗って…電車?
周りを見渡すと、一面が真っ暗で遠くに弱い光が見える。その中に私は一人眠っていた。
「あれ…まだ、夢の中なのかな…?」
取りあえず立ち上がる。静かなものだ。どこに行く当てもないので、光の方へと向かって歩いた。
少し歩いていくと、少女が質素なテーブルに着いて、紅茶を飲んでいた。
「あ、いらっしゃい。きょうはよく、ひとがくる」
とんとん、とテーブルを叩く。反対側にはもう一つの椅子と、湯気の立つティーカップがあった。
「え、えっと・・・ありがとう?」
受け取って、一応変なものじゃないかと匂いを嗅いだ。紅茶はよくわからないが、いい香りだと思った。
「だいじょうぶ、まぜものはしてない。たぶん、おいしい」
ずぞぞ、と少女は飲んで見せた。恐る恐る私も飲んでみると、なかなか美味しい。
「…おちついた?」
「えっ、うん」
「よかった」
気まずい沈黙が流れる。なんなんだろう、この状況…
「ねぇ、これって夢なのかな?」
って、夢の中で聞いても無駄か…。
「はんぶんせいかい。はんぶんはずれ。」
少女は答えた。
「ひとは、しぬときにさいごのゆめをみるの。きょうのわたしのしごとは、そのゆめにはいりこんでおあいてすること」
…今、なんて?
「…気づいてないのね。あなたは、もうしんじゃってる」
「えっ、夢だよね?もちろん冗談だよね?」
「じょうだんは、とくいじゃない」
ふりふり、両手を振って見せる少女。
「ほら、あなたのとけいをみてごらん」
言われて携帯の時計を見た。11時11分11秒。それ以上動かない。
「あなたは、けっこうねばった。ざんねん」
最後の一滴まで飲んでやろうと、口を大きく開けてしずくを受け止める少女。緊張感がない。
『へーいトオミちゃん!聞こえる!?クロスナイツの放送が終わったからこっちに来てみたんだけど、どう?』
突然元気な女性の声が聞こえた。そこには、いつの間にかラジカセが落ちていた。古い…
「きこえてるよー。こんかいのやつは、このひとでさいごみたい」
『そうかー!残念だねー、今日はいっぱい死んじゃったねぇ!』
「ざんねんってかんじが、しない」
『ごめんね!私、元気にしてろっていう命令が出てるからさぁ!うんうん、わかってわかってー!』
「で、なにかようじ、あるの」
『あーそうだそうだ!そこにいる子に、あなたのタブレットを見せてあげてだって!それだけー!』
「…よくわからないけど、よくわかった」
いつの間にかラジカセはなくなっていた。少女はテーブルの上にとん、とタブレットを置いた。
『やぁ、クロバネさん』
ノイズの走る映像には、顔を騎士の兜で覆った男性が映っていた。そのてっぺんには王冠がかぶせられている。
『君は残念ながら11時11分11秒、周りの人の死体に圧迫されて死んでしまった。』
『死んでしまうことは悲しい。辛い。君を失うことは、世界の損失だ。』
『だから、君に最後のチャンスをあげようと思う』
『どうやったら皆を救えるか、よく考えてみてくれたまえ』
『君に11番目の騎士が務まるか、テストさせてもらうよ』
『それじゃイツミくん。あとは頼んだよ』
「イエス、マイロード」
いきなり後ろから声がした。完全に騎士の鎧兜で体を覆った女性がいた。
「あなたの携帯を貸して。さぁ、試験を始めるわよ」
そういうと、彼女は時間の設定をいじり始めた。8時29分にして、私に返してくる。
「8時29分…あなたは、きっと出来る。皆を救って見せなさい。」
そういうと、少女と女性はどこかに消えた。体が光に吸い込まれてゆく。
「う、うわああああ!?」
電車を待つ。スカートを鞄で押さえる。
地獄のテストが始まった。