サードナイト・バック・トゥ・ザ・ソイヤァ
『ぴんぽんぱんぽーん!じゃじゃじゃーん!現在、11時11分11秒!イレブンナイツのお時間です!』
『お相手は、私イレブンナイツの広報担当、ミツミが担当していきます!』
『いやはや、台風は怖いですねぇ!皆さんのところは大丈夫ですか?』
『私ですか!私の家は今頃台風の一部になっちゃいましたね!今日はどこに泊まりましょうか!』
『悲しい話はさておき、今日もお便りを読んでいきましょう!』
『サンタさんが、ことしはきませんでした。わたしがわるいこだったからですか?』
『あらま!サンタさんが忙しかったのかもしれませんよ~?お、これが写真ですかー。』
『…酷いな。親の顔が見たい。ついでにぶん殴ってやりたいね』
『え!怖い?フフフ、怖いか!だいじょーぶ!ちょおっと怒っただけだよお?』
『どうしてって?教えませーん、ぜーったい教えなーい!』
『まぁ!しんみりしてても怒ってても始まらない!イレェェェェブゥウウン…ナァァァァアアアイツ!!!』
きょねん、わたしはいいこにしてました。
だから、おしょうがつにそれまでいなかった“おとうさん”ができました。
おとうさんは、とってもやさしいひとでした。
おとうさんは、おににまめをぶつけていました。
おとうさんは、ひなにんぎょうをかざっていました。
おとうさんは、たんざくにねがいごとをかいていました。
おとうさんは、うみでたくさんあそんでくれました。
おとうさんは、おつきみだんごをいっぱいたべていました。
おとうさんは、“しちごさん”というなにかをおいわいしてくれました。
おとうさんは、さんたさんになにをおねがいするのか、きいてきました。
おとうさんは、いいこにしていればきっと“さんたさん”はくるよと、おしえてくれました。
おとうさんは、おしごとをがんばっていました。
おとうさんは、たまにおもちゃをかってきてくれました。
おとうさんは、こわれたにんぎょうをなおしてくれました。
おとうさんは、こわれた
「ねーぇ、ミズキちゃん。もうこんなパパ、いらないわよねぇ?いつも文句ばかりで」
「ミズキちゃんにいつ私が虐待したんでしょうねぇ?言いがかりばかり、うるさかったねぇ」
「でも、ミズキちゃんもいけない子よねぇ。私からどれだけ、あの人を奪ったのかしら?」
「返せよ、タクヤを返せよ。この野郎、いつも喰う寝るばかりで、いい気になりやがって」
「なぁ、どんな気分だ?タクヤはお前のせいで死んだんだぞ」
おに。
「おら、泣いてばかりいないで何か言えよ。泣くだけじゃなんもわかんねぇだろぉ!」
まめ、ぶつけなきゃ。
「あぁ?豆?なんで今豆なんだよ、わけわかんねぇことばっかり、もう沢山だ」
「終わりにしてやる」
「ああ、もう沢山だな」
…ぎんいろの、おまめさんみたいなあたま。
「うわっ、何だよお前、どこから入ってきたんだ!」
「静かにしてろ、クズ。命を粗末にする輩は、大嫌いだよ」
…ちいさなおまめさんもはいってきた。
「んだテメェら!こいつみてぇになりたいか!?ああ??!!!」
「…一回、お前には教えてやらないといけないか。頼んだぞ、イツネ。」
「わかった。まかせて。」
…なんだ、これは。
大きなベッドの中に寝かされている。体の様子が変だ。
…からだが、ちいさい。言葉も出ない。
周りの様子は良く見えない。というか、真っ暗だ。
「どうしたの?スズナ、わんわん泣いちゃって」
私の名前を呼ぶ声がした。と思うと、体が浮き上がる感覚を覚えた。
「ほらほら泣かないの。おちついて~。たかいたかーい。」
ああ、この温もり。覚えている…お母さん。お母さんだ。
だが、顔がよく見えない。自分を持ち上げる腕だけが闇の中からにゅう、と伸びているだけだ。
「スズナ。お母さんもいろいろ大変なのよぉ。」
「でもねスズナ、あなたにもそのうち解るわよ。お母さんって、すっごく楽しいお仕事よ!」
「だからスズナ、あなたが子供を持ったら、大切にしてあげるのよ?」
「その分の幸せが、ちゃぁんと後で帰ってくるから」
ああ、ダメだ。それ以上見たくない。
…みんな、真っ黒なスーツに身を包んでいる。正座して、涙を流している。
私も、ちょこんと座らされている。おおきな父親の、膝の上。
線香の匂いがひどく籠っている。そして、とにかく寒い。冷房が効きすぎている。
部屋の中には泣き声と、男の人の退屈な歌声。
皆の目の前には、真っ白な布団と、布がかけられた頭。
「スズナ、子供を大事にね」
「やめろおおおおっっっ!これ以上、これ以上掘り起こすなあああああぁっっっ!!!!」
激しく痛む頭を抱える。真っ暗な闇の中、目の前には全身を騎士の鎧兜で包む女性が一人立っている。
「掘り起こしたんじゃない。あなたの歴史を、少したどっただけ」
「何でもいいんだよぉ!頼むから…私が、私が何をしたっていうんだぁ…」
カツッ、ガシャンと音を立てて女性が歩み寄ってくる。
「1993年5月13日午前11時11分10秒。残念よ。1秒遅ければ、私達が救えたのにね」
時計を見せてくる。それは、母の愛用した時計。三本の針は、彼女の人生と同じ時間に、止まってしまっていた。
「この時計を、くるりと回します」
そういうと鎧の彼女は、秒針を2秒分進めた。
「2005年8月21日、午前11時11分12秒。ご臨終です」
甲高くなり続ける機械音。白衣の女性がうつむいたまま、じっと立っている。
ベッドの中には、すっかり青ざめてしまった顔の男。
しわがたくさん入って、髪の毛は白く、ところどころ抜けている。
昼前の暖かな日の光が、その顔を穏やかに照らしている。
「お前の子供の顔が見たかった。きっと、お前みたいに美人に育つんだろうなぁ」
「ああああああぁっ!!!なによっ、ふたりとも!!!同じような時間に死ぬなんて!!!」
「また、一秒分の差で救えなかった。」
「あなたはなんなのよ!さっきから助けるだのなんだのっ!何もできないなら、これ以上関わらないでよ!」
「だけど、今やっと救える。あなたを、こどもを、おとうさんを。」
秒針は、一つ戻された。午前11時11分11秒。
「お前、またミズキを…!自分の子供だろ!かわいそうに…よしよし、今手当してやるからな」
ぐっと握った拳が痛む。タクヤが、すっかり頬の晴れ上がったミズキを抱いている。
「うるさいわね!あなたの子供じゃないでしょ!これは私のやり方よ、指図しないで!」
…違う。私なんかより、タクヤのほうがよっぽど…親だ。
「確かにそうだけど、俺はミズキのことが本当に大事なんだぞ」
「それはぁ!私よりそいつのほうが好きってことかしら!?」
「それはないよ!お前のことが大事だから言っているんだ。これ以上は、お前が傷つくだけだぞ!」
その通りだ。ミズキを殴っていると、自分の心さえも抉られていくような気分だ。
「…わかった、もういいよ」
だめ、それをやっちゃいけない。取り返しがつかなくなる。誰か、誰か止めて。
『誰かに頼らないで。歴史は、私には変えられない。あなた自身が、その思いで変えてみせて』
静かに、包丁を降ろす。作りかけの哺乳瓶を振りながら、ミズキの元へ向かった。
その後には、11時11分12秒の先をチクタクと刻んでいく時計が落ちていた。